第19話 あれ?違和感!
見張り小屋への補給は、その後も続いた。
内容も距離も変わらない。
同じ道を通り、同じ時間で戻る。
仕事としては単調だった。
三日目の朝、
ルーシーは服の上から肩を押さえた。
噛まれた場所だ。
(……あ)
痛みが、ない。
動かしてみる。
引っかかりも、重さもない。
治りきるには、少し早い。
そういう感覚は、分かっている。
それでも、
違和感が残らないのは助かる。
(……ラッキー、かな)
小さく息を吐いた。
そのまま仕事に入る。
見張り小屋に着き、
手早く用を済ませる。
男は何も言わない。
いつも通りだ。
帰り道、
ルーシーは無意識に腕を振った。
そこで、
別の場所に気づく。
肘だ。
競技中に痛めた古傷。
疲労が溜まると、
ごく軽く残る感覚。
今日も、出ると思っていた。
だが、
曲げても、伸ばしても、
引っかかりがない。
動きが、素直だ。
(……あれ)
もう一度、確かめる。
やはり、何も残っていない。
完全に、とは言い切れない。
けれど、
今まであったものが、確かにない。
気のせいで片づけるには、
はっきりしすぎていた。
歩きながら、踏み込みを試す。
強くはしない。
いつも通り。
地面を蹴る感触は、安定している。
だが、
あのときの感覚が頭をよぎる。
踏み込みが伸びたこと。
反応が早かったこと。
(……繋がってる、かも)
断定はできない。
けれど、
無関係とも言い切れない。
町が見えてくる。
道も、空気も変わらない。
それでも、
身体の内側だけが少し整っている。
ルーシーは歩きながら、
もう一度だけ肘を曲げた。
違和感は、ない。
(……もしかして)
完全に、治ったかもしれない。
そう思った瞬間、
胸の奥が、ほんの少し軽くなった。
口元が、わずかに緩む。
(……悪くない)
むしろ、
ちょっとだけ、嬉しい。
ルーシーは何事もなかった顔で、
そのまま町へ戻った。




