第18話 見張り小屋の補給
その日の仕事は、町の外れにある見張り小屋への補給だった。
油の入った小さな樽が一つ。
保存食の袋が二つ。
それに、矢を束ねたものが一本。
どれも重くはない。
だが、欠ければ困るものばかりだ。
「……定期の分だ」
男はそう言って歩き出した。
町を抜けると、道は細くなる。
畑が途切れ、草の色が濃くなっていく。
森はまだ近くない。
それでも、確実にこちらを向いている気配があった。
ルーシーは荷を確かめながら歩く。
(……仕事としては、分かりやすい)
危険だから外注しているわけではない。
必要だから回ってきた仕事だ。
見張り小屋は、思っていたよりも小さかった。
人影はない。
だが、中はきちんと整えられている。
油の残量は、印よりわずかに下。
保存食の棚にも、空きが目立っていた。
「……ギリまにあったな」
男がそう言った。
それで十分だった。
荷を置き、確認を終える。
滞在は短い。
帰り道でも、男は相変わらず前を歩く。
警戒を強める様子はない。
(……慣れてる)
森との距離が縮んだところで、
空気が、わずかに変わった。
気配が、動く。
男は歩みを止めず、低く言った。
「……近づくな!」
影が一つ、草の間に見えた。
犬に似た獣。
だが、毛並みが不自然なほど揃っている。
ルーシーは自然に位置をずらす。
男の少し前。
視界を遮らない場所。
獣が距離を詰めてくる。
ルーシーは踏み出した。
避けるためではない。
男との間に入るためだ。
――だが、足が思った以上に飛んでしまった。
地面を蹴る感触が、軽い。
(……あ)
獣の動きが、
一瞬だけ、はっきりと見える。
速い。
だが、わかる。
身体が、勝手に動いた。
体に手を添え力の方向をずらす。
特に力を入れたわけではない。
それでも獣は体勢を崩し、距離を取った。
男が剣を抜く。
「……待て!」
短い声だった。
獣は唸ったが、
それ以上近づかず、森へ下がっていく。
町が見えてくる。
道も、空気も、いつもと同じだ。
それでも、
さきほどの踏み込みが頭から離れなかった。
力は入れていない。
いつもの感覚だった。
それなのに、
おもったより前に出てしまった。
地面を蹴った感触と、
そのあとの伸びが、合っていない。
(……体が、軽すぎる)
そんなはずはない。
今日の体調も、疲労の具合も把握している。
偶然にしては、
反応が想定外だった。
ルーシーは歩きながら、
もう一度だけ足裏の感覚を確かめる。
原因は分からない。
だが、なぜ違和感が出たのかは、現時点ではわからなかった。




