第17話 避けられない話
外の仕事は、三日続いた。
どれも似た内容だ。
荷を運び、道を歩き、無事に届ける。
危険はない。
少なくとも、今のところは。
(……続いてる)
それが、少し不思議だった。
仕事の帰り、男が足を止める。
町の中央寄り。
人の出入りが多い建物の前だ。
石造り。
扉が重い。
(……ここは)
見覚えはないが、
雰囲気は、倉庫とはまるで違う。
男は建物を指し、短く言った。
「……ここ」
それだけで、意味は伝わった。
——話がある。
中に入ると、空気が変わる。
人の視線が多い。
革の装備をした者。
武器を帯びた者。
(……同じ人種、じゃない)
男は、受付のような場所へ向かう。
ルーシーは、その半歩後ろ。
受付にいた人物が、男を見る。
短い言葉のやり取り。
次に、視線がルーシーに向く。
「……名前」
まただ。
(……ここでも、聞かれる)
ルーシーは、一拍置いて答えた。
「ルーシー」
それ以上は、聞かれなかった。
だが、次の言葉が続く。
「……登録、してない」
質問ではない。
確認だ。
(……してない)
それは、事実だ。
ルーシーは頷いた。
受付の人物は、ため息にも似た息を吐く。
「……仕事、続けるなら、必要」
必要。
その言葉は、重かった。
理由は説明されない。
だが、理屈は分かる。
責任。
身元。
何かあったときの処理。
(……避けてきた、ところ)
男が口を挟む。
「……無理、させない」
受付は、それを聞いて肩をすくめた。
「……無理は、関係ない」
制度の話だ。
ルーシーは、少しだけ考える。
倉庫では、必要なかった。
でも、外では違う。
(……今後も、外に出るなら)
このまま、知らないふりはできない。
「……今すぐ?」
ルーシーが聞く。
受付は、首を横に振った。
「……今日じゃない。
でも、次は」
次。
猶予は、ある。
だが、無限ではない。
(……選択肢は、減ってきた)
それでも、強制ではない。
ルーシーは、軽く頷いた。
「……分かった」
受付の人物は、少しだけ驚いた顔をした。
拒否されると思っていたのかもしれない。
「……説明、聞く?」
問いかけ。
ルーシーは、一瞬迷ってから答えた。
「……今日は、いい」
今は、疲れている。
情報を詰め込む気分じゃない。
受付は、無理に引き留めなかった。
建物を出ると、
外の空気がやけに軽く感じた。
(……やっぱり、違うな)
男が、歩きながら言う。
「……悪くない」
慰めではない。
評価だ。
ルーシーは、小さく息を吐いた。
「……必要なら、やる」
それだけだ。
無理はしない。
でも、逃げもしない。
それが、今の自分の基準だった。
町の灯りが、少しずつ増えていく。
登録。
制度。
責任。
全部、知らないままではいられない。
(……順番に、だ)
ルーシーは、そう決めて歩き続けた。




