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異世界で普通に生きるために危ない仕事をする  作者: Yuki


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第16話 外へ

夕方の風は、倉庫の中より少し冷たかった。


入口の外に立つ男は、動かずに待っていた。

急かす様子も、苛立つ気配もない。


「……ルーシー」


呼ばれて、ルーシーは一歩前に出た。


倉庫の中を振り返る。

箱は片づけられ、道具も定位置に戻っている。

今日は、もう仕事はない。


(……区切りは、ついてる)


それが分かった。


ルーシーは男を見る。

言葉は多くいらない。


「……やる」


短く、はっきり言った。


男は一瞬だけ目を細め、

それから小さく頷いた。


「……条件」


そう言って、指を折る。


一つ目。

距離は短い。

二つ目。

危険は低い。

三つ目。

途中で無理だと思ったら、引いていい。


(……悪くない)


ルーシーは、首を縦に振った。


「……無理は、しない」


男は、その言葉を聞いて、

はじめて少しだけ笑った。


歩き出す。


倉庫の建物が、背後に遠ざかる。

中にいた頃より、音が多い。

人の声、足音、遠くの呼び声。


(……外だ)


道は、昨日より少し先まで続いている。

町の端を越え、畑の脇を抜ける。


男は、時々だけ振り返る。

確認するように。


ルーシーは、歩幅を合わせる。

息は乱れていない。

視線は、自然に周囲を捉えている。


(……昔と同じだ)


試合前の移動。

遠征先の道。


身体が、勝手にそう動く。


目的地は、小さな集落だった。

荷車が一台、止まっている。


中身は、木箱が三つ。

どれも、倉庫で扱っていたものより軽い。


(二十キロ前後)


ルーシーは、一つ持ち上げて確かめる。

問題なし。


「……運ぶだけ」


男の言葉どおりだ。


だが、道は舗装されていない。

足場は悪い。


ルーシーは、無意識にペースを落とした。

転ばない速度。

崩れない姿勢。


途中、茂みが揺れた。


ルーシーは、男より半歩前に出る。

立ち位置を変えるだけ。


何も起きなかった。


(……これでいい)


集落に着くと、箱はすぐに引き取られた。

確認の声。

頷き。


仕事は、それで終わりだった。


帰り道、男が歩きながら言った。


「……明日も、ある」


質問ではない。

事実の提示だ。


ルーシーは、少しだけ考えてから答える。


「……できる範囲で」


男は、それを否定しなかった。


町に戻る。


倉庫の灯りが見える。

もう、入ることはない。


(……でも)


あそこが、最初の居場所だった。

それは、変わらない。


男が、革袋を渡してきた。


中身は、前より少し重い。


(……増えた)


ルーシーは、受け取って頷いた。


無理はしない。

背伸びもしない。


ただ、外へ出ただけだ。


それが、今日の「普通の選択」だった。

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