第11話 倉庫の外
その日の倉庫は、朝から慌ただしかった。
荷の量が多い。
箱の数も、荷車の出入りも、いつもより多い。
(……今日は、人が足りない)
ルーシーはそう判断した。
だから、動きを変える。
速くはしない。
ただ、詰まらせない。
荷車が重なりそうなら、一つ流す。
箱を置く位置を、半歩ずらす。
誰にも言われていない。
それでも、周囲が自然と合わせてくる。
午前中の作業が一段落した頃、
倉庫の入口に、見慣れない男が立っていた。
服装が違う。
布ではなく革。
荷運び用ではない装備。
(……倉庫の人じゃない)
年配の男が気づき、入口へ向かう。
短い言葉のやり取り。
その途中で、視線が一度だけこちらに来た。
(……私?)
胸の奥が、わずかにざわつく。
しばらくして、年配の男が戻ってきた。
ルーシーを見て、入口を示す。
「……ルーシー」
名前を呼ばれる。
倉庫の中が、ほんの一瞬だけ静かになる。
ルーシーは、すぐには動かなかった。
代わりに、倉庫の中を見回す。
箱はまだ残っている。
人手も、足りていない。
(……今は、抜けられない)
ルーシーは、年配の女性を見る。
女性は、状況を一目で理解したように、小さく頷いた。
——今は、仕事。
ルーシーは入口の男を見る。
そして、倉庫の中の箱を指し示し、
次に、自分の胸に手を当てる。
それから、入口の外を見て、
日が傾く方向を示した。
言葉はない。
だが、意味は十分だった。
——今は仕事中。
——終わったら、話を聞く。
男は一瞬考え、
短く頷いた。
「……あとで」
それだけ言って、壁際に下がる。
倉庫の中に、空気が戻った。
(……よかった)
ルーシーは、何事もなかったように作業に戻る。
動きは変えない。
ペースも変えない。
昼の食事は、いつも通り少し多い。
(……ここは、変わらない)
それが、妙に安心だった。
午後の作業も、滞りなく進んだ。
誰かが遅れれば、誰かが補う。
声を荒げる者はいない。
中心にいるのは、ルーシーだ。
だが、前に出ているわけではない。
ただ、そこにいる。
作業が終わり、日が傾いた頃。
入口を見ると、
朝の男が、まだ待っていた。
「……ルーシー」
再び、名前を呼ばれる。
今度は、誰も止めない。
ルーシーは、一度だけ倉庫を振り返った。
ここは、安全だ。
居場所もある。
でも、ここだけでは先に進めない。
(……無理は、しない)
それだけを決めて、外へ出た。
倉庫の外の仕事。
倉庫の外の世界。
ルーシーは、初めてそこへ足を踏み出した。




