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「……今更どうでもいいでしょう」

 思いふけっていても現実は変わらない。

 

「両親がどうなったか聞かなくていいのか?」

 

「……別に構わないわ」

 だってできるだけ苦しまずに死ねるよう白猫に願ったのだから。


 1週間前、馬車に轢かれた白猫を助けた。と言っても、大通りから安全な場所に移動させ、傷口を洗ってそのまま放したのだけなのだが。 


 その晩夢で白猫が現れ告げたのだ。

 

「助けてくれたお礼に願いを叶えてくれる」と。

 

 花びらの数だけ、願いが叶うと。ただし、大きなことは叶わないかもしれないと。


 次の日枕元に花が置いてあり、半信半疑で願ってみたのだ。


「今日、ライルから花がもらえますように」と。


 犬として、私の護衛を勤める様になってから、私の命令したこと以外は行なわないようになっていた。だから「お嬢様に似合いそうだったので」と赤い薔薇を渡された時には驚いてしまった。


 花についている花びらは1枚落ちて、あと9枚。


 1日1枚、ちょっとしたお願いをするたびに、花びらは落ちていった。


 毎日ちょっとした幸せが積み重なっていたある日、また、白猫が夢に現れたのだ。


「あと3日で死ぬぞ」と。

 生き残りたければ花に願えと。


 だから分かったのだ。決行の日が今日だと。


 ライルは深夜誰もが寝静まった頃にどこかに出掛けていた。他の誰にも気付かれていなかったが、私だけはなぜかライルがいないことに気付くことができた。

  

 そして昨日、一昨日と願いを我慢して、今日を迎えたのだ。大好きな両親と腐れ縁の第二王子の最後が安らかであることを願って。


 そして、ライルの願いが叶うことを願って。


 残りの花びらはあと1枚。

 何に使うかはもう決めている。


 ライルは王座を降りて私の方へやって来た。


 体中血まみれで、まるで前回の祝勝会の再来である。前回は自分の血で今回は人の血という違いはあるけれど。


「ライルの手で終わらせてくれる?」


 私の罪は何だろう。

 

 乳母を見殺しにしたこと?

 第二王子を殺したこと?

 ライルを犬にしたこと?

 他にもきっと多くの罪を犯してきた。

 

 でもきっと一番は見て見ぬふりをしたことだ。


 だから、願わなかった。

 生きることを。


 だから、願った。

 好きな人の手にかけられて死ぬことを。


 ライルの手に剣が握られる。 


 死ぬ直前なのになぜか不思議と怖くなかった。白猫の効果かもしれない。


 ライルの剣が振り下ろされる。


 目を閉じず最後まで彼の姿を目に焼き付けたかった。


 ザクッ


 一瞬の後に、首ではなく髪が綺麗に切られていた。


 そして、血だらけの手で抱きしめられる。


「……どうして」

「……当たり前だろう、どれだけ一緒にいたと思っている」


「でも、私は許されないことをしたわ」

「それは俺も同じだ」


「……でも、白猫に願ったわ」

「……知ってる。俺の夢にも出てきたから。だから、お前が死ぬ時は俺が殺してやる……もっとずっと長生きしてからな」 


「……でも、でも」

 私は溢れる涙を止めることができなかった。


「一緒に生きよう。俺の大事な物は腕の中にある」



 謀反により、王族が皆殺されたその国では新しい王は立たなかった。隣国に合併され、今では国の名前も失われてしまった。ただ、その国発祥のおとぎ話として白猫の贈り物という童話が有名になった。その国では時々怪我をした白猫はいないかと探す姿が見られるそうだ。 

  

  

 

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