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前編 中編 後編 3部作です。3日で完結します。よろしくお願いします。



 ひらり


 今日も1枚花びらが落ちる。


 花に残った花弁はあと4枚


 

「お嬢様、旦那様がお呼びです」

「……そう、今行くわ」


 大広間では着飾った父と母が待っていた。

 商人が来ているのか、ところ狭しと宝石や布が並んでいる。


「レイラ、待っていたよ」

「あなたに似合う新しいドレスを作らないと」

 既にたくさんの品を購入したのであろう。両親は高価な宝石をいくつも身に着けていた。

 

「大変美しい、お嬢様ですね。こちらの緋色の布などいかがでしょうか」

 商人が見せたのは深紅の布。

 燃えるような赤髪に琥珀色の瞳を持つ私にピッタリのものだった。 


「……どうかしら?」

「まぁ、よく似合うわ」

「これで第二王子もお前に惚れ直すだろう」


 我が公爵家は肥沃な農地、豊富な鉱山資源に支えられ、莫大な富を得ていた。父は王の側近であり、母は隣国の王妹。私の婚約者は第二王子殿下と、欠けたところなど見当たらない、裕福で幸せな家庭。

 

 少しお人好しな父と優しい母。

 欲しい物は頼めば何でも手に入った。


「宝石はいかがいたしましょうか?」

 商人は揉み手をしながら宝石を勧めてくる。

 

「……これが良いわ」

 私は金青色の小さな宝石を選んだ。

 

「少し地味じゃないか」

「もっと大きくても良いのよ」

「これが良いの!だって、殿下の瞳の色にそっくりだもの。それにこの大きさならピアスにできるわ」 

 私が理由を言うと、あっさり納得する。

 

「ふむ、女心というやつだな」

「まぁ、私にも覚えがありますわ。あなたの……」

 

「お父様、お母様、私疲れましたわ」 

「まぁ、それは大変」 

「先に部屋で休むと良い」

 娘の言葉を疑わず、本気で心配してくれる。


「ライル、何かあればすぐに連絡を」

「……はっ」

 側で控えていた護衛騎士に言いつける。 

 

「……すみません、失礼します」

 私は護衛騎士とともに大広間を後にした。


 いつ見ても綺麗な顔。

 

 ライルは人形みたいに整った顔をしていた。神が作ったかのような顔立ち。美しく輝く銀色の長い髪。そして金青色の瞳。


 金青色。第二王子殿下と同じ色をしていると気付いたのはいつからだろう。ライルの瞳の方が深い青で、金の虹彩は角度によっては見えなくなる違いはあるけれど。


 ライルは私の物だった。没落貴族として平民落ちするのを一昨年私が召し上げて護衛騎士にしたのだ。


「お嬢様どうかなさいましたか」

 ライルはいつも柔らかな微笑を絶やさない。

 

「何でもないわ」

 その胡散臭い笑顔を見ると時々無性に腹が立つ。

 

 部屋に入るとメイドがベッドメイクを行なっていた。

 

「まだ、終わっていないの?」

「申し訳ありません」

「もう、いいわ。出て行って」

「……ですが」

 イライラする。

 

「出て行ってと言ってるでしょう」

 枕をドアに投げつける。


「すみません。失礼します」

 メイドは慌てて部屋を後にした。


「……何よ」

 ライルは相変わらずの表情で私を見つめる。

「文句があるなら言いなさいよ」

「いえ、特にはありません」


 イライラする。イライラする。イライラする。


「ライル、私の足にキスなさい」

 ライルは一瞬もためらわずに私の足に口づけた。

 

「まるで犬のようね」

「ワンと鳴きましょうか」

 足もとに跪いたまま、微笑は少しも崩れない。

 

「……興が削がれたわ。あなたも出て行って」

「それではドアの前で待機しております」

 本当に最低な男。


「……そうそう、お父様の部屋に殿下からいただいたネックレスを忘れて来たから、とってきてちょうだい」

「かしこまりました」


 ドアが閉まる音とともに、ベッドに体を投げ出す。

 

「大事な物が手に入りますように……」


 あと、何時間残されているのだろう。


 きっと決行はもう間もなく。


 外を見るといつもと同じように見えてどこか空気が重い。

 

 面と向かっては言えないけれど。

 本当に最低なのは、きっと私の方だから。


 サイドテーブルに飾ってある花から1枚ひらりと花びらが落ちる。


「……あと3枚」


 そのまま瞳を閉じて、闇に身を任せた。


 


 どれくらい寝ていたのか、目が覚めると窓の外はほんのり闇色に染まりかけている。体をおこし、メイドを呼んで出掛ける準備を行う。


 トントントン

 

「どうぞ」


 ドアが開き、両親が入ってきた。

「体調はどうだ?」

「治らないようなら、お医者様を手配しますよ」

 

 父は、心配そうに私の顔をのぞき込み、母が私の額に手をあて髪をなでてくる。

 

「少し休んだらよくなりました。殿下との食事の約束を破りたくないわ」

 ドレスに着替え終わり、後は出発するだけである。


「そうか、無理せず断っても良いんだぞ」

「ええ、食事ならいつでもできますし……」

「今日は行きたいの……お願い」


 私は瞳を潤ませ、か弱い風を装いおねだりする。


「それなら、仕方がないな」

 今日の食事だけはどうしても行きたかった。

 

「ライル、頼んだぞ」


 ドアの外に控えているライルに父が声を掛けた。部屋を後にしかける両親を呼び止める。


「……お父様、お母様」


「どうした?レイラ」

「どうしたのレイラ」


「いえ、今までありがとうございました。行ってまいりますね」


「まだ、お前を嫁に出すつもりはないぞ」

「そうよ、レイラ行ってらっしゃい」

 両親はにこりと笑顔を見せた。


 花びらが1枚ひらりと舞い落ちる。

 残った花びらはあと2枚。


 扉の外を出て行く両親を最後まで見送ると、ライルを呼び付ける。

 

「……ライル、行くわよ。ネックレスはあったの?」

「こちらに」

 

 ライルからネックレスを受け取り、首につける。鏡には、大粒の真珠に負けないくらい、派手な女性が映っていた。


「準備は整ったわ、行きましょう」


 ライルとともに馬車に乗り込み、王城へと出発した。 





 

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