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探求者  作者: あきみらい
第三章 失われるもの
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失われるもの24


 零の聖騎士リドルフィが亡くなってから国葬が執り行われるまでには、数日の準備期間があった。

その間、私たちは細々と動き回った。

国葬のための王宮での確認作業などは主にセシルが担当し、上手く調整を付けてくれているはずだ。

クリスは私たちに話したことに更に追記を入れてまとめ直し、聖杯のことも含めて記録を残す作業に入っている。


 早速、私とガルドは近場の二カ所を確認に行ってきた。

本来ならガルドと司祭を組ませたかったのだが、魔素溜まりや『欠片』があるかもしれない以上、ある程度技量のある司祭を用意しなければならない。

師匠たちの世代とは違い、魔物も減った今では、浄化経験のある司祭は多くはないのだ。

ヴィンスに神殿との折衝を任せ、私は司祭の代わりとしてガルドと一緒に回り、そこにあった小さな魔素溜まりを浄化した。幸い、今回はどちらも『欠片』はなかった。


「念のため、魔封じの瓶を増やしておいた方が良いかもしれないね」


 帰路にて、ブライアの背で揺られながら言えば、ぐ、と唸るような相槌がガルドから返ってきた。

彼の叔父にあたるウルガもだが、狼系獣人は馬を使わない。私たちよりも体が大きく、しかも四つ足で馬と同じぐらいの速さで走ることができる彼らには、騎乗という習慣がないのだ。

長距離移動する時には馬車に乗ることもあるが、基本は周りが馬に乗っていても徒歩で移動する。昔、こちらが馬なのに気にならないのかとガルドに訊いてみたところ、走るのは楽しいから好きだ、自分で走る方がいい、なんて返ってきた。そういうものらしい。


「リチェは、神樹の森はこわくないのか?」

「うーん、行ったのは一度だけだからなぁ」


 問われて考える。

魔封じの瓶を作るための神水は神樹の森からもってくるしかない。今使っている魔封じの瓶は、どれも聖女グレンダが生前に森の奥にある泉から汲んできてくれた神水を使って作ったものだ。

今は、女王と私、それに女王の息子の三人が神樹の森へと入ることができる。その中であの泉の水を持って帰ることができるのは、聖女から錫杖を引き継いだ私だけだ。


「話には色々聞いていたけれど、正直こわいとか思えるほど知らないのよね。……ガルドはこわい?」

「こわいな。俺には無理だ」

 

 即座に答えが返ってきた。

そういえば獣人たちの多くは魔素溜まりを異様に怖がる。私たち人間と同じように祝福を受け、ごく近い系統の魔法を使うが、魔素に対する感じ方が違うのかもしれない。


「毛刈りされる以上に嫌だ」


 心底嫌そうに低い唸り声で言われて、思わず笑ってしまった。昔、ウルガも嫌なことに対して似た表現を使っていた。どうやら彼ら特有の言い回しらしい。


「そっかー。……興味本位で知りたいんだけど、なんでそこまで嫌なの?」


 折角だからと問いかけてみる。王都はもうすぐだ。ブライアは並足で歩いているし、その横をいくガルドものんびり二足歩行で歩いている。天気も良くて、風が心地よい。魔素溜まりの浄化を終わらせてきた帰りなのだが、なんだか散歩しているような気分だ。


「自然ではないから、だ」

「うん?」

「魔素溜まりもだが、普通じゃないところは基本危ない。何かがねじ曲がっているところは、ねじ曲がる理由がある。それは自然な状態だったら起きない。……俺たちは、自然な場所でしか、生きられない」


 ガルドは狼系獣人としては割とよく喋ってくれる方だが、それでも私たちよりも寡黙だ。その彼が珍しく饒舌になったのを聞いて、私はちょっと驚いた顔を向ける。……自分でもらしくないと思ったのか、ガルドから視線を逸らされてしまった。耳が微妙に伏せている。


「自然な場所でしか、生きられない、か……」


 そうよねぇ、と私が頷くと、うむ、と、低い唸りが返ってきた。


「ねぇ、ガルド」


 私は呼びかける。クリスが伝えてくれた養父母たちがそっと静かに抱えていた真実は、ずっと疑問に思っていたことを更に意識させるようなものだったから。


「『欠片』はさ。いったいどこから来ているんだろうね。神樹っていったい何なんだろうね」


 養父母をそれぞれに人ではなくしてしまうほどの力を持っていた神樹。

『欠片』は今までの研究から文字通り神樹の『欠片』か、もしくは種のようなものだろう、なんて言われている。それらは、いったいどこから来ているのだろう。

四十年前のあの日、最後の聖騎士リドルフィは聖斧を用いて神樹を切り倒した。

切り倒された神樹は光となってほどけ、かつての神話と同じように世界へと散っていった。

でも、後日に養母はこっそり教えてくれたのだ。神樹は、どこか本来の場所へと還ったのだ、と。

ならば、それはいったいどこなのだろう。そもそも神樹はなぜこの世界にやってくるのだろう。


「……」


 私が返事を欲していないと察したのだろう。実際、こんな問いをされても答えられる者なんて、今のところいない。ガルドは促すように低い唸りを相槌に返すだけで、静かに私の続きの言葉を待っている。


「……神樹の森と、『欠片』がもともとあった場所って、どんな関係があるんだろうね」


 なんとなく、その答えを見つけられたら、行方不明になった人たちも見つけられるような気がした。







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