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探求者  作者: あきみらい
第三章 失われるもの
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失われるもの21


 聖騎士養成校の一室。今は特別室として主不在のまま残されている元教官室。

村で作られた木製の応接セットに柔らかな色合いのクッションや、同色のカーテン。一部温室のようになっていて、今もしっかり世話をされている植物の鉢がいくつも置かれ、壁の一つは本棚が埋めている。

学長室の隣であるここは、元は候補生たちに神聖魔法を教えていた聖女グレンダが使っていた部屋だ。


 そこに先ほどまで湖にいた面々が揃っている。聖騎士養成校の学長グイードも合流しているので、全部で八人もいる。

応接セットには座り切れないので、ヴィンスとガルドは立っているし、シエルは養母が愛用していた揺り椅子に座っていた。

クリスとデュアン、グイード、それに私とセシルの五人は間にテーブルのある応接用のソファに腰を下ろしている。


 養成校の雑務を引き受けてくれている、学長付きの秘書が全員にお茶を配って退室すれば、クリスが窺うように全員を見回した。最後に私に視線が来たので、目で頷く。


「さて、始めましょ。……先に私の話でいいのよね?」

「うん」


 クリスに問えば、相槌が返る。私はさっき受け取ったカップを傾け、一口お茶を飲む。村で採れたハーブを使ったお茶だった。優しい味がする。カップをソーサーに戻して、顔を上げる。さっきクリスがしていたのと同じように全員の顔を見渡してから、私は口を開いた。


「まず、湖にある聖杯だけど、今も変わらず在ったわ」


 誰も、何も言わない。私の言葉の続きを待っている。私は淡々と続ける。


「師匠が健在だった頃と変わっていないと思う。触れてみたけれど聖女の気配はそのまま残っていたし、浄化能力に変化があったようにも感じなかった」


 誰かが小さく息を吐いた音がした。多分シエルではないかな、と思う。


「普通であれば聖女が没すると聖杯も消えてしまうのにね。どうして残っているかは分からない。師匠は聖女の祝福を受けた自分が居るから残ったのかもしれない、なんて言っていたけれど。……それでいくと、その師匠がいなくなった今も残っているのは、同じく祝福を受けた私がまだ残っているから、かしらね」


 軽く肩を竦めながら言う。左の方の壁に寄りかかるようにしているヴィンスに視線を投げかける。


「さすがに今それを確かめようがないから、私が死んだら誰か確かめてね。まだまだ先になるけれども」

「俺ですか……?」

「どうだろ、その頃にはもっと若いのがいるだろうから誰でもいいわ。でも、確認が必要ってだけ覚えておいて」


 四の聖騎士ヴィンスに、軽く笑んで言えば、分かりました、と微妙に嫌そうな口調で返ってきた。確かに、死んだら確かめろって言われて喜ぶ人はあまりいないような気がする。


「念のため、記録に残しておいた方が良いかもですね」

「あぁ、そうしたらここの学長に代が変わる時には必ず申し送りされるようにしておきましょう」


 クリスと現学長のグイードがそんなやり取りをしている。お願い、と、私からも願う。聖騎士は前線にたつことも多い。今ここに居る他の聖騎士たち全員が、私よりも先に逝く可能性だってあるのだ。その点、養成校の学長が歴代引きついてくれるのであれば安心だ。ここは聖杯の眠る湖もすぐそばだから対処もしやすいだろう。


「神殿の方にも情報共有しておきましょうか」

「そうね。……あぁ、なら、クリス。王宮図書館の方にも記録を残せる?」

「やっておきましょう」


 クリスは王宮魔導師だけど、これ以上神樹関連の研究結果を残すために王宮図書館にも頻繁に出入りしている。

四十年前、養父母たちが神樹を切り倒すに至った時には、過去の神樹や聖女についての情報が隠蔽されたり故意的に捻じ曲げられてしまっていたために、手探りで状況に対処するしかなかった。この先の聖女や聖騎士たちに同じことをさせずに済むようにと、養母は聖女として得た知識の全てをノートに書き残し、研究を始めていたクリスに託していった。クリスは聖女グレンダの残したそのノートや、神殿が開示した情報、民間に伝わっていた寓話などを一つずつ丁寧に紐解き、整理してまとめていっている。

今後知る情報も全て、彼は後世に残すために尽力してくれるはずだ。


 後で詳細をもう一度確認させてください、なんてクリスの言葉に了承し、そのまま、促す。

私の聖杯の話は言ってみれば前座だ。本題はこの後、クリスが預かっているという零の聖騎士リドルフィの話だ。

クリスは私の顔を見、首肯して、隠しから分厚い手帳を引っ張り出した。ぱらぱらとめくって、挟んでいた紙を見つけるとそれを広げた。一度その内容を確認してから、再び顔を上げる。全員を順に見てから口を開いた。


「では、リドさんから預かったことを皆さんにお話しますね。……先に言っておきますが、かなり驚くような話なので、途中で止めずに最後までまず聞いて下さい。質問はその後に。僕で答えられるものであれば答えます」


 そう言うと、クリスは眼鏡のガラス越しに賢者の顔で私たちを見つめた。



クリスは眼鏡してたよね、と、今更のように番外を見直した私です。

若い頃はなしで、中年以降はがっつりしていました。

頭の中で生きている登場人物たちは、その時によって勝手に小物を外していたりするので時々分からなくなります……(汗)

現実も目が悪いのに、眼鏡もコンタクトもせずにふらふらしている方、結構いますよね。

この歳のクリスも普段はしてないことが多そうです。


受け継ぐもの:最後のこたえあわせ(星芒の賢者)

https://ncode.syosetu.com/n9890ju/46


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