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失われるもの19


 村での葬儀の後、料理が振舞われた。

逝ってしまった者の最期のもてなしとされる、静かな宴会。

よく晴れた青空の下、集まった者たちは養父の想い出などを話しながら、穏やかな時間を過ごしていた。

大往生ということもあり、悲しみ一辺倒ではなく、何があっても死ななそうだったのにねぇ、なんて笑みながら寂しがる様子の方が多い。

姉のエマや、姪のウィノアが腕によりをかけた料理が並んでいる。

養父の好きだった、煮込み料理やグリル料理などがいくつも用意されていた。


「リチェ、ちょっと良いかい?」


 声をかけられて振り返ると、そこには優しい目をした魔導師がいた。正装として王宮魔導師のローブを纏っている。普段の少し崩した着方ではなく、胸元には一つ勲章がついていた。十の頂点を持つ星に重ねられた、本と樹をモチーフの、銀色のメダルが鈍く光っている。クリスが星芒の賢者の称号を得た時に授与されたものだ。


「クリス。参列してくれてありがとう」

「リドさんの式だからね、どこにいたとしても駆けつけるよ。僕らは、本当にたくさんお世話になったから」


 そう言うと、ちらりと、少し離れたところで話をしている冒険者ギルド王都本部のギルドマスターに視線をやる。現ギルドマスターはかつてクリスと共に冒険をしていたアレフだ。今も現役の冒険者として活躍しているバーンと一緒に、料理を貰いながらエマと話をしている。駆け出しの頃から村に出入りしていた二人は、どちらも私にとっても古馴染みである。


「逝ってしまわれたね。なんだか、この空、グレンダさんの時みたいだ」

「やっぱりそう思う? おばちゃんの時も穏やかな日だったものね」

「そんなところまでお揃いにするあたり、なんとなくリドさんらしいね」


 風も強くなく、寒くもなく暑くもない。春の穏やかな空を見上げ、笑う。

本当に周りがついついからかってしまうぐらい、養父は養母を愛していた。養母の死後もその様子は変わらず、こんなにも深い愛が存在するのだと、なんだか羨ましかった。


「リチェ、今夜か明日にでも聖騎士全員、集めて話すことは出来るかい?」


 挨拶のような言葉の後、クリスは改めて私に視線を合わせる。そうして問うてきたことに、私は目を丸くした。


「……今、他のメンバーにも声をかければできそうだけど、どうしたの?」

「リドさんから伝言を預かっているんだ」


 クリスのその言葉に、はっとした。

そういえば、前に帰ってきた時に、私やセシルなどに話すことがあると師匠リドルフィは言っていた。

あの後、サイルーンにすぐ行かねばならず、そしてその後も村に寄らずにバーレアへ急いだ。受け取った手紙にあったのは、師匠としては珍しくちょっと説教臭さもあるような、私の身を案ずる言葉。

別封の地図や確認を依頼する手紙もあったけれど、それはそんなに改まってちゃんと場を設けて話をする必要な内容ではなかった。

 私の表情の変化に、クリスはゆっくりと頷いた。


「サイルーンに行く前にね、リチェと違って僕は少し時間があったからその時に先に聞かせてもらっていたんだ。今思えば、僕は保険だったんだろうね。あの時点ではリドさん自身がリチェたちに話すつもりでいたみたいだし」

「そう……もっと早く帰ってくればよかった……」


 つい、視線が地面に落ちると、魔導師は慰めるように私の肩を軽く叩いた。


「悔やむ気持ちはわかるよ。でも、リチェにはリチェの事情があって、こっちに来れない間に費やした時間も必要なものだったんだ。それに、リドさんの言葉はちゃんと僕が預かってるから」


 大丈夫だよ、という言葉に、小さく頷く。涙ぐみそうになった目をわざと乱暴に拭って顔を上げたら、クリスが弟子のセティを見るような優しい目でこちらを見ていた。へしょ、と、眉尻を下げて笑んでみせれば、目が頷いた。


「……あぁ、そうだ。クリス。私もね、クリスと話したいことがあったの」

「うん?」

「王都からこっちに走ってくる時に、湖と食堂……じゃなくて多分屋敷の方かな、光の柱を見たの。誰かからその話、聞いてる?」


 私はブライアの背で見た光景を思い出す。


「ちらっとだけ。詳しくはまだ全然。そうか、リチェはそれを見ていたんだね」

「おばちゃんが迎えに来たんだろうなって思ったのだけど……それでね、ふと思い出したのよ。今、聖杯ってどうなってるんだろう」

「あ……」


 今度はクリスがはっとした顔になった。

聖杯は、本来聖女が亡くなった時に消滅するものだ。だから大神殿にもレプリカしか置いていない。

しかし、養母グレンダが作った聖杯は、なぜか彼女の死後も消えずに残っていた。

どうして残っていたのかを説明できる者は、残念ながらこの世界にはいない。養母の死後、湖に潜って聖杯を確認をした師匠が出したのは、聖女の力をもって祝福した聖騎士である自分がまだ存命だからじゃないだろうか、なんて憶測。

それでいくと、養父リドルフィが亡くなったときのあの光と共に、養母が残した聖杯も消えてしまっている可能性が高いように思うのだ。


「明日にでも確認しようと思うの。国葬の前の方が良いと思う。陛下にも報告したいし。悪いんだけど、クリスも立ち会ってもらってもいい?」

「もちろん。……というか、立ち会わせて。それは僕も知りたい」


 では、明日にでも、なんて約束をして私はクリスと分かれた。




こぼれ話に書いた聖杯の話もよければどうぞ♪

 https://ncode.syosetu.com/n9890ju/39

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