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失われるもの13


 王都の夜はそこそこ賑やかだ。

王都は治安が良いとはいえ、遅くなってから女性一人で歩くのはあまり勧められない。

調査隊のメンバーは皆それなりの実力者ではあるが、念のため遅くまでいた女性陣は男性騎士たちに送らせた。

私も送るかとレオンに問われたが、首を横に振る。

見た目はともかく、騎士団でも私に勝てる者はあまりいない。むしろ私は送る側だ。それこそ不届き者がいたらしょっぴいていくぐらいの立場である。それでも問うてくれるレオンの気遣いがちょっと嬉しかった。


 なりゆきで、それなりの人数で押しかけてしまった街酒場だが、元々騎士団御用達なこともあり手厚く歓迎してくれた。大きめの個室でわいわいと食事をし、少しばかり酒も入れて、皆楽しそうに過ごしていた。

他に会話が漏れないよう配慮された部屋なので、先の遠征などについてもちらほら会話に出てくる。サイルーンで飲んだ酒も美味かったとか、ドワーフが多くて訛りが聞き取り辛かった、フォーストンでスリに遭いそうになったとか、バーレアで食べた魚をもう一度食べたい。……なんて、取り留めのない話に混ざり、現地の騎士団の対応についての愚痴だとか、捕らえた夜盗たちの話なども出ている。私もだったが、他の皆もあの件については思うところがあったようだ。

 家庭持ちたちは早々に切り上げ、独身者たちはそれなりに遅くまで。ここぞとばかりにかなりの量飲んでるメンバーを見て、班長の二人がこっそりいくらか負担してくれたが、食事代の大体は宣言通り私が支払った。

店を出る時の顔は皆明るかったので、多分、多少なりとも隊員たちのガス抜きになっただろう。


 皆と分かれて、王城方面へと歩いていく。

先日来た時に比べ、随分と暖かくなった。

それでも夜風は少しばかり冷たい。酒で上気した頬を撫でていく風は、酔いを醒ますのにちょうど良かった。

 今日の私の寝床は城内に用意された自室である。聖騎士に叙任された際に、師匠と当時の国王陛下が作ってくれたのだ。

何かと王都にいることもあるだろうと、私をはじめとした聖騎士たちそれぞれに一部屋宛がわれている。

実家が近いため可能な限りモーゲンに帰ってしまうが、今日みたいな時や、昼間に少し一人になりたい時などは何かと便利だ。


 顔馴染みの衛兵と挨拶し城内に入れてもらえば、よく知った廊下をのんびり歩く。

何度も増築を繰り返したグラーシア王国の王城は、慣れぬ者なら一度は迷子になるぐらいに広い。

ここに住まう王族の居室や謁見の間、晩餐用や社交用の大広間、貴賓室などもあれば、ここで働く者たち用に別棟の寮などもある。私たち聖騎士に宛がわれているのは賓客用の客間に近い、そこそこ良い部屋だ。華やかな調度品などはないが、置かれている家具などはどれも一級品だし、担当のメイドがちゃんと定期的に手入れもしてくれている。いつ来ても心地よく過ごせるように整えてくれている。

 昔は聖騎士の居室は神殿内にあったらしい。だが、四十年前の宗教改革で神殿が王の配下に入った関係で、聖騎士も神殿ではなく国王直属となった。今は存在していない聖女も神殿配下ではなく、国の保護下という扱いになる。その結果、私たち聖騎士の居室も王城内に与えられることになったのだ。


「……」


 そんな自室の扉の横、腕組し壁に背を預ける男に、私は立ち止まった。

見慣れた長身。着ているのは私と同じ色の騎士服。


「セシル。実家帰ったんじゃなかったの?」

「行って、戻ってきた」


 壁から背を離して、ゆらり立つ男に促され、部屋の鍵を開ける。

なんとなく疲れている様子が気になりつつ、ごく当たり前のように部屋に入った相手の後ろで、扉を閉めた。荷物を置き、マントを外す。そのまま上着も脱いで、ハンガーに掛ければ外套掛けに引っ掛けた。

振り返れば男もまたマントと上着を脱ぎ、ソファの背に掛けている。


「形が崩れるからこっちに掛けたら?」

「そうだな」


 返事はするものの面倒くさそうな様子に、諦めてソファから回収し私が掛ける。その様子を見ながらセシルはどさりとソファに腰を下ろした。

なんだろう、随分とヤサグレているように見える。そんな様子すら端正な顔立ちのせいで色っぽく見えてしまうのだから罪作りな男だ。こんな姿を見たら、それこそふらふらと寄ってきてしまうご婦人や令嬢もいそうだ。


「何があったのか知らないけど、とりあえずシャワー浴びてくる。お酒の匂いが髪についちゃってるし。適当に寛いでて」


 後で話を聞くと暗に告げれば、分かったというように黒髪が揺れた。もしかしたら別口で飲んできたのかもしれないが、セシルは酒を飲んでも顔に出ない。気心知れた仲のみの状態で相当強いのを飲ませれば、イリアスたちと一緒にいた時のように、普段は言わないような本音がぼろっと出てくる時もあるが、基本は酔いもしてなさそうだ。

一応、水差しとコップをソファのそば机に置き、三回ほど肩を叩いてから、着替えをもって浴室に向かう。浴室の扉をくぐる時、一度振り返ったがセシルはさっきと同じ姿勢で座ったまま微動だにしていなかった。



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