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少年たちに残ったもの


「お前、すごいな」


 気が付けば、俺、セティの口からは、そんな言葉が出ていた。

言われた側……漁師の息子のカイがびっくりした顔で俺を見ている。

今日もお喋りに付き合ってくれたシュルリラたちを見送る。浜から見る夕焼けは、水面を染めてきらきらと煌めいている。その眩しさに目を細めながら、俺はカイに振り返った。


「……すごいって、何が?」


 青い目が丸くなっている。その顔がおかしくて、俺はぷっと吹き出した。

笑われた側のカイは、なんだよー、と顔を顰める。よく日焼けした顔は、魔法学校の友人たちよりも逞しいように感じた。まだ十歳。俺よりも二つも下はずなのに、大人の男の顔をしている。


「俺より小さいのに、大人みたいだ」


 どう言えば伝わるかな、と、少し考えてから答える。すると、彼はちょっと怒ったような顔を……、いや、違うな、照れているんだな、これは。「当たり前だろ」とぶっきらぼうに言って、海の方を向いてしまった。少し突き出した唇は小さい子みたいなのに、でも、目の強さは俺が言った通り、大人みたいだ。


「……僕は、父さんたちみたいな漁師になるんだ。小さいけどもう船を持ってる。海は……海に出れば、自分で責任を全部に持つしかない。陸のなまっちょろいやつらと一緒にするな」


 ぼそぼそ怒ったように続けられた言葉に、なるほどなぁと俺は納得する。気が付いたら、俺の口元はニマニマと緩んでいた。俺と同年代にもこんな子がいたなんて知らなかった。

嬉しくなって、横からカイの肩を引き寄せるようにして勝手に肩を組む。


「うわっ、なんだよ!?」

「俺、お前のこと気に入った。友達になろうぜ」


 一連の事件で痩せてしまっていたカイの体は薄い。それでも、元々はきっちり鍛えてあった感じの固さがある。それに今、弱ってしまった体を少しずつ元の状態に戻そうとしているのを俺は知っている。意識して多く食べ、体を鍛えるために朝から動いてたのをチラッとだけど見た。同年代でそんな風に自分からできるやつはかなり珍しいと思う。

魔法学校時代、無駄に頭の回転が速かった俺は、同年代の子たちの輪からは完全にはみ出ていた。なんでそこまでやるの? など俺からすると何故訊くのか分からない質問を、在学中に何度も受けた。……でも、今、横にいる彼はそんなことを俺に絶対聞かないだろうっていう確信があった。


「……俺は魔法のことは知ってるけど、海のことは知らない。だから、教えてよ。漁師の暮らしのことも、海の民のことも、もっと知りたい。代わりに俺も俺の知ってることならいくらでも教えてやる。……もうすぐ王都に戻らなきゃだから面と向かっては無理だけどさ。手紙を書くよ」

「……」


 黙ってしまったカイに覗き込むと、日焼けした頬が少し赤くなっていた。


「……僕も、君みたいにシュルリラたちと上手く話が出来るようになりたい」


 しばらく待っていたら、やっぱりぼそぼそした言い方で、そんな言葉が返ってきた。

飾らない言葉が、とても彼らしい。真直ぐに海の方を向いている目に、夕日が映っている。今日、一緒にシュルリラたちと話をしていて、カイもシュルリラたちも、お互いをとても大事にしているのが分かった。俺が間に入って補足を入れたりなども何度もしていたけど、もどかしかったんだろうな。


「了解。図化したりのコツとかも教える。カイも俺との手紙のやりとりを、シュルリラたちにも話してよ。そうしたら、俺、カイを通してシュルリラたちとも文通できるってことだろうしさ」

「わかった」

「じゃぁ、これからよろしく」


 言えば、ぶっきらぼうな「よろしく」が返ってきた。へへっと俺は笑う。考えてみると同年代や年下の友達は初めてだ。俺の友達は大人ばかりだったから。なんだか嬉しい。ワクワクする。

 村の方に帰ろう、と、勝手に肩を組んだまま歩き出す。


「……ただ」

「うん?」

「この村には学校がないから、僕は学校に行ってない。文字もそれ以外もみんな親とか村の人に教わった。友達って言われても、何するのかわからないぞ」


 背丈が違うから微妙に歩調がズレるのに、俺が勝手に組んだ肩を外さず一緒に歩きながら、カイがボソボソ言う。

横を見れば肌の色で分かりづらいけれど、微妙に赤くなってる耳が見えた。夕焼けで世界全体が赤っぽいけど、見間違いじゃないだろう。

何より、この数日一緒にいたことで彼がぶっきらぼうで素っ気ないけれど、実は照れ屋だし律儀な性格なのもなんとなく分かっている。


「そうだなぁ、考えてみると俺も子ども同士の友達って何をするのか知らないや」


 大人の友達しかいなかったと笑えば、そうなの? と驚いたような顔がこっちを向いた。さっきのすごいって言った時と同じような顔だ。


「だから、お前は俺の一番初めの友達。……その分だとお前もそうなんだろ? お揃いじゃん!」 


 いつか、師匠やリチェたちが、友達って呼べるような相手に巡りえるといいな、なんて言ってくれていたのを思い出す。俺はどうやらその友達と巡り合えたんだろう。嬉しくなって、肩組みしていた手を外して、相手の腕を掴んだ。そのまま駆け出せば、初めはよろけたカイが文句を言いながらも一緒に走ってくれる。途中からは一方的に腕を掴むのではなく、繋いで走っていた。


「師匠ー! 俺、友達できた!!」


 叫んだ先、師匠が優しい目で笑っていた。




こっそりセティ君が心の癒しです。

いや、だって今作、リチェは事件を追って移動しっぱなしだから和むシーンがなかなか書き辛くて(涙)

リチェと一緒にモーゲンに帰りたいー!と泣いている私です。


次のエピソードより、いよいよ第三章が始まります。

色々と不穏な感じになっていますが、この先もお付き合い頂けると嬉しいです。

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