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残されたもの31


 村人たちを確保して、しばらくした頃、船の方に向かったメンバーから合図の光弾が打ちあがった。

ザザたちと合流した私は、空の低い位置に打ちあがった光を見上げる。

あの合図は、無事制圧が終わったということだ。あちらにはセシルがいるから心配はしていなかったが、それでも無事作戦が成功したことにほっとする。


「セティ、こっちもお願い」

「はい!」


 魔導士少年に言えば、彼は短い杖を右手で持ち直し、軽い仕草でそれを空へと向ける。口の中で行われる短い詠唱。杖の先から光が生まれ、木々の上あたりへと勢いよく打ちあがった。


「さぁ、村に帰りましょう」


 私は振り返り、部下たちと、そして保護した村人たちに言う。

村人たちを彼らの村に戻すには、停泊していた大きな船を使う。私たちが借りた漁船には乗り切らない人数だが、あの船であれば皆を一気に運べる。

転がした見張り達はまだ目を覚まさない。船中で目覚めて騒がれても困るので、ゲイルに頼んで睡眠の魔法をかけてもらった。彼らは誘拐の現行犯としてこの後取り調べを受けることになる。村人たちを船に送り届けた後、見張り達も船で陸へと連れていかねばならない。

この後もやることは山積みだが、それでも一人も欠けることなく村人たちを救出できたおかげで皆の顔は明るかった。




「父さん!!」


 船へと向かう獣道みたいな道を、小さな人影が走ってくる。その後ろからよく知った長身がゆったりした歩調で追いかけてきていた。


「……カイっ!!」

「カイっ!」


 私の横から、大柄な男がよろつきながら、走り出す。それをさっき泣いていた女性が赤子を抱いたまま追いかけた。見れば、一番多く痛めつけられていて、ゲイルに真っ先に治癒魔法を施されていた男性だった。あぁ、やっぱり、と、私は納得する。おそらく、カイの父親は一人残してきた息子が心配で、何度も捕らえられた状況をなんとかしようと暴れたのだろう。

目の前で、やっと互いの無事を確かめ合えた家族が、抱きしめ合う。

良かった、と、誰かが呟いた。ぐず、っと誰かが鼻をすする音が響く。……私まで、なんだか視界が霞む。


 少年とその家族を追い越してやってきた二の聖騎士が、私の前に立った。

私は部下たちに目配せして、船へと皆を連れていくよう指示する。皆が指示に従ってぞろぞろと歩いていく。捕まっていた村の男性たちは傷は治したものの随分と体力を奪われていて、女性たちや騎士たちに支えてもらいながら、それでも自分の足で歩いていく。追いついたカイたち家族に声をかけ、一緒に船へと向かって行く。その背中を見送って、私は視線を上げた。


「セシル、お疲れ」

「リチェもお疲れ」


 私に並んで立ち、村人たちが歩いていく背を眺めながら、長身の男は目を細めていた。

私の視線を感じたらしく、そのままの姿勢でちらりと目だけがこちらを向く。


「……良かったな」


 嫌味でも揶揄いでもない、柔らかな声に、私は笑む。


「うん。本当に良かった」


 素直に頷いた。暗がりの中、月明かりに照らされる相方の顔は、穏やかだけど疲れも見て取れる。

きっと彼が見る私の顔もそんな感じだろう。

少なくとも、バーレアの人々たちは助けることが出来た。

集落単位での行方不明事件が発生して以来、ずっと一人も見つけ出せずにいた私たちからすると、やっと救えた人たちだ。模倣犯による事件であり、本来の件は何一つ解決していなくとも、それでもやはり助けられたことは純粋に嬉しい。


「……ねぇ、セシル」

「ん?」

「この先、多分今回みたいなのもきっと増えていくのよね……」


 つい小さくなった声に、あぁ、と、低い相槌が返る。

マントを貸したままで、いつもより一枚少ないからか、体が小さく震えた。自分が呟いた言葉に、不意に寒さを思い出したような、そんな震えだった。


「……私たちは、戦うことしかできない。聖女じゃないから、人知れず守るなんてできない。無差別に全てを救うなんてできない」


 ぽつり、ぽつりと言葉にすることで確かめるみたいに、口にする。

己が言ったのに、自分の声で言われたその言葉に静かに絶望する。


「……それでも、村の者を盗った連中なんかも、ただ生きたかっただけなんて事情が見えた途端に、どうにかして助けられないかって思ってしまう。さっき捕まえたやつらにだって何か事情があったのかもしれない。そんなことを言ったらキリがなくなってしまうって分かってはいるのだけど……」


 無意識に己の左腕を掴んだ右手に、力が入る。


「……私たちは、どうしたらいいんだろうね」


 掠れた私の声に、セシルは無言のまま一歩寄ると、私の肩を抱き寄せた。自分の左手を、私の右手に重ね、きつく掴んでいた手をゆっくりと解かせる。自分の宵闇色のマントで私も包みこむ。まるで、私が聖女であるかのように。


「連中を救うのは、俺らの役目じゃない。貧困や愚かさは聖騎士が救えるものじゃない。多分聖女だって救えない。あいつらを本当に救えるのは……きっと女王陛下だ。現状を変える力を持つのは、あのお方で、優しいあのお方なら現状を憂い、考えてくれると信じるしかない」


 頭で分かっていても納得できないんだろ、困ったやつだ、と、セシルは苦笑交じりの息を吐く。

抱き寄せたまま、私に顔も見せずに彼は続ける。


「……俺も、戦うことしかできない。お前よりも多少は腹芸を駆使して人を先導することは出来ようが、基本は同じだ。お前と同じ聖騎士だ。この手に収められるものしか守れない。救うなんて出来ない」


 先に歩いていった騎士たちや村人たちの姿はもう見えない。きっとそろそろ船についた頃だろう。

村に帰るために乗り込みを開始していることだろう。


「だから、せめて一緒に背負ってやる。お前一人じゃ抱えられないものは半分貰ってやる」


 肩に置かれた手に、力がこめられたのを感じた。うん、と、私は頷く。


「……トゥーレなら、もっと違う言葉を言ってやれたのかもな」


 すまん、と、囁くように謝られた。どこか嫉妬を含むその声に私は小さく笑う。ぽんぽんと彼の手を軽く叩く。比べても仕方ないのに、と、言いかけてやめた。そんなのはきっと私よりも彼自身が一番分かっている。いなくなってしまった者を超えることは、きっと誰にもできやしない。


「かもしれないね。トゥーレは私たちとは違う何かを見ていたから」

「あぁ」


 もしかしたら戦うのではなく、違うやり方で現状を変えてくれるのかもしれない。そう私たちに思わせることが出来る雰囲気を、いなくなった幼馴染は持っていた。

私は、何の痕跡も残さず、ある日突然いなくなってしまった彼を、それでも諦めきれずにいる。それは、彼が私たちの知らない何かを知っていたのではと、そして、それを何とかするためにいなくなったのではと、思ってしまうから。


「行こう、セシル」


 温もりを分けてくれた相方に、私は言う。

するりとその腕の中から抜け出て、でも、一緒に背負うと言ってくれたその言葉を受け取ったと知らせるように、その手を取る。

手を引くようにして歩き出せば、初めは二歩ほど後を歩いていた彼が横に並んだ。

肩を並べるその横顔を見上げ、私は満足した。




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