表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/92

残されたもの30


 捕らえた見張り達をまとめ転がした状態で、騎士二人に見張りをさせ、私とザザはまずは村の男性たちがいる方へと走る。フレッドには念のため辺りの警戒をさせる。発見していない敵勢がいたら困るしね。

呼び寄せたセティは騎士二人のところに待機とした。ゲイルは私たちについてくる。

駆けつければ、憔悴している男たちが縄に繋がれた状態でそこにいた。何人かは殴られたりしたらしい青あざが、小さく灯した魔法の明かりの下でもくっきりと見える。


「治癒を……!」

「はいっ」


 打てば響くようにゲイルが即座に応じた。パッと見渡し一番重傷を負っている者の横に跪く。頬も目の辺りも青黒く痣が浮いている。だが、その顔にカイの面影を見つけ、私は下唇を噛んだ。

声が正しく韻をふむ。低い声が微かに震えた。多分怒っているのだろう。


「……光よ、この者を照らせ

 光よ、この者に生きる力を

 正しき者に光の加護を!」


 ゲイルの手が淡く光る。打ち身だらけで転がったまま浅く呼吸を繰り返していた男を包みこむ。そこまで確認したところで、私はザザに顔を向けた。


「ここは任せた。私はあちらを見に行く。全員合図するまで来るな」

「はっ」


 私は一度強く目をつぶってから、瞼を上げる。

男性たちがこれだけ痛めつけられているのだ。女性や子どもたちも被害に遭っていてもおかしくない。

それこそただ傷つけられるのとは違った、惨い仕打ちを受けている可能性だってある。


「マントを貸して」


 私が言えば、察したのだろう、ここにいる騎士たちが無言のまま自分のマントを外し、渡してくれた。

それを持って私は崖下の違うくぼみへと走った……。




 私は、最後の一人に治癒の魔法を施し、小さく息を吐いた。

 女性たちは、予想に反してひどい暴行は受けていなかった。

この冷える屋外で敷布も何もない状態で拘束されていたことによる衰弱や、小さな傷や肌荒れなどによる裂傷はあるものの、男たちのように殴られた者は一人もおらず、それ以外の被害もなかった。

私はそのことになんだか言いようのない気持ち悪さを感じつつも、騎士たちを呼ぶ。

懸念していたような酷い事態は起きていないのだから、そこは素直に喜ぶべきところなのだろう。


「あの、騎士様……」


 小さな声で呼ばれて振り返る。小柄な女性が私を見上げていた。先ほど私が貸した宵闇色のマントを羽織り、まだ赤ん坊と言えそうな子どもを抱いている。まだ怯えているような様子に、私は少しだけ魔法の明かりを大きくし辺りを明るくした状態で、微笑みを返す。


「どうしました?」


 少し屈むようにして目の高さを揃え、意識して柔らかな声で問う。

すると女性は、くしゃりと泣きそうな顔で一つ瞬きをした。母親の気配を感じたのか、抱かれた子が私を警戒するように見上げる。母親そっくりの不安げで、何か嫌なことを言ったら今すぐ大声で泣いてやるというような顔だった。

他の者たちが助けられたことで安堵の表情をしているのに、この親子だけは違った。


「……息子を……男の子を、見ませんでしたか……?」


 掠れた声で問われて、あぁ、と、私は心の中で声を漏らした。


「……十歳の息子がいるんです。村の人たちは皆ここに連れてこられたのに、その船に、息子だけいなかったんです…… 騎士様、どうか、どうか、息子を」

「大丈夫ですよ。息子さんは、カイは、無事です」


 震える声で、堰を切ったように訴え始めた女性……、カイの母親に、私はゆっくりと話し始めた。


「村で海の民たちに助けられていたところを保護しました。今、私たちが助けに来る時にも勇敢に船の準備などを手伝ってくれました。今は、船で待っています」

「……ほんと、う、ですか……? あぁ、カイ……よかった……カイ……」


 女性の目から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出す。私は慌てて、その場に崩れ落ちるように姿勢を崩した小さな体を、彼女が抱いた子どもごと抱き留める。何度も息子の名を呼んで泣く女性の腕の中で、とうとう赤ん坊まで火が付いたように泣き出した。私が困って、つい救いを求めるように周りを見回す。


「ほら、ミーナ、騎士様が困ってるよぉ。ナナまで大泣きし始めちゃったじゃないの」


 近くにいた年配の女性が笑って私の方に両手を広げる。その手に、そうっとミーナと呼ばれた女性を託すと、任せなさいと言う風に微笑まれた。気が付けば他の村の女性たちも寄ってきて、皆で彼女を抱きしめる。一歩引き、更にもう一歩引いたところまで下がった私はその光景を見て、さっき感じた上手く説明できない気持ち悪さを打ち消すように小さく首を横に振った。

乱暴をされていたら、こんな風に彼女たちは笑ったり互いの無事を喜ぶことは出来なかった。

だから、今はきっと、この状態で見つけることが出来たことを私も喜んでいいのだ。

誰が、何のために彼らを捕まえ、ここに拘束していたかは、あっちに転がした見張りたちから聞けばいい。


 私は、先ほど感じた引っ掛かりを一度箱にしまうように横に置き、保護した男性たちの方へと彼女たちを連れていくべく、口を開いた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ