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残されたもの29


 夜の海を渡って、小島へと上陸する。

まずは騎士たちの中でも身軽なルノーとフレッドの二名が偵察へと走った。

私たちは小島に接舷した漁船から降り、その近くに潜み、合図を待っていた。シェルリラたちはカイと一緒に、岸から少し離れたところに隠した船で待機してくれている。万が一のことを考えて、カイは村人たちの無事が分かるまで現場には連れていけない。必死に冷静を装ってくれているが彼はまだ小さな子どもだ。


 小島への移動にはカイと海の民たちが大活躍だった。

まず、海に出る前はカイの出番だった。なんとなくの知識はあれど、私たちは普段船など使ってはおらず不慣れだ。それを見て取ったカイが、率先して村の漁船を確認し、どの船を使うのが良いか、何人乗せるのがいいかなどのアドバイスをくれた。

 そして、懸念していた操船については、海の民が彼らの魔法で解決してくれた。

セティと二人先に浜に行ったら、シェルリラとシーシル以外に、一番初めに彼らを見た時以上の人数の海の民たちが集まっていたのだ。彼らは皆、この村の人たちを助けるために来たのだという。


 村の漁港から少し沖合にある、いくつも連なる小島の一つ。

海の民たちは、そこに件の船ともう一隻小さめの船がいるのを目撃していたらしい。この辺りには普段はいない、大きくて人や荷物を運ぶための船だ。海の民たちは元々は臆病な種族らしく、知らないものには近づかない。遠巻きに観察する癖がついている。

しばらくそこに隠れるように停泊していた二隻の船は、彼らからすると警戒対象で、それ故にシェルリラが仲間たちに確認するとすぐに情報が集まったのだそうだ。

その後の海の民たちは、とても勇敢だった。

数人の若い男たちが小島へと近づき、件の船の船底で耳を澄まし、中にいるだろう人数を確認した。

小さな船に対しても同じことを行い、情報の収集を行った後、こっそりとこちらの船には錨に細工をした。

音を立てず海中で活動できる彼らは、船の錨を僅かばかり小島の岸から離し、中の者がすぐに上陸できぬようにしたのだ。


 待つこと、数分。

夜の闇に紛れて島の逆岸に浮かべた船で、じっと待っていた私たちは、やがて音も立てず帰ってきたルノーを迎えた。フレッドはそのまま偵察に行った現地で潜んでいるはずだ。


「村人たちを発見しました。報告にあった十六名全て、あちらの岸近くにある崖下に捕らえられています。見張りが四。うち獣人らしき者が一名。他は船に。おそらく小さい方に二、大きい方に四」


 小声で若い騎士が報告する。私はその内容に頷きを返した。敵の人数についても海の民たちから聞いていたものと一致している。

私は振り返り、待機していた面々に目配せする。

それだけで十分だった。予め指示してあった通りに全員が動き出す。

騎士たちが途中で二手に分かれる。セシルが率いるレオン班とクリスは大きな船の方へ、私とザザ班、ゲイル、それにセティは人々が囚われている崖下に向かう。

風が強いおかげで波の音や木々のざわめきが、良い感じに私たちの物音を隠してくれている。


 崖下近くの茂みに潜んだところで、ここで待機していたフレッドが合流した。私とザザの横で片膝をついた彼は、姿勢を低くした状態で指で人々が捕らえられている場所を指差す。次いで、自分を指差してから両手の指で七、と示し、少し離れた場所を指差してから、今度は私とセティを指差して九と仕草で示す。先に教えたところに男性が七名、後のところに女性や子どもが九名捕らえられているということだろう。わかった、と首肯する。見張りの位置は小さな明かりが四つそれぞれに移動しているので把握できる。

 私はこの場にいる全員の顔を確認する。見張り達と違いこちらは明かりをつけていないのでほぼ見えない。上を覆う木の隙間から零れる、月明かりが頼りだ。それでも全員がこちらに注目しているのを感じ取れば、無言のまま頷いた。

 確かな腕前のザザには確実に仕留めて欲しい一番手前を、機敏なフレッドには一番遠いところを、分けられて捕らえられている人々の間辺りにいる二人に、騎士の二人を割り振る。セティとゲイルは見張りが片付くまで待機だと移動する前に指示してある。

私は片手を上げたまま、動く見張りたちの明かりを見つめる。

ゆっくりと歩く見張りたちの明かりが最も離れたタイミングで、手で合図を出した。


「星芒の賢者クリスが弟子、魔導士セティが命ずる

 風よ、我らを取り巻きし風よ

 今一度静止せよ 我らに一時の静寂を」


 私の合図を受けて、セティが呪文を唱えた。

途端に、ふっと、私たちの風が止まった。それと同時に騎士四名と私は走り出す。


「……っ!!」


 突然現れた私たちに、見張りの一人が叫ぼうとした。……が、その声は出なかった。

正確にはセティの風魔法により音の伝達が阻害され、声が他に伝わっていないのだ。

慌てて見張りの男が抜いた剣を、私は己の剣で弾き飛ばす。そのままの勢いで相手の太ももに打撃を入れた。防ぎようがなかった男は私の攻撃をかわせず、そのまましゃがみ込む。がら空きになってしまった首に更に手刀を入れれば、男はどうと倒れた。セティの魔法により倒れた音すらしなかった。

 倒れた男を予め用意していた縄で手早く縛り上げる。こちらが入れた首への攻撃で気絶しているおかげで、抵抗は全くなかったが体格差で少しばかりやり辛かった。布で猿ぐつわも噛ませ、転がす。

それでもきっちりと拘束した上で顔を上げる。すぐ横では二人の騎士が猫系の獣人を捕らえたところだった。フレッドとザザも担当した見張りを倒し、拘束している。

見張り全員の口が塞がれたのを確認したところで、先ほどまでいた茂みに向かって手を上げる。


 ふ、っと、風が吹いた。誰かがこぼした、ふぅ、という吐息の音が私の耳に届いた。

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