残されたもの22
やることが、多い。
私も、そしての他の調査隊員たちも、忙殺されていた。
元々特殊な任務のため、人数は最低限に絞ってある。騎士たちが二班分で十名、従軍司祭としてついて来てくれている司祭ゲイル、それに相談役に近い位置付けの魔導師クリスと、人数外扱いで、クリスの弟子の、セティ。聖騎士の私とセシルを含めた十五人と、守護の狼の暁の風。
保護した少年カイの看病に、海の民との対応。捕まえた元農民らしい夜盗たちの監視と、その隠れ家の捜索。もちろんまだこの村の確認も終わっていなければ、村人たちの捜索も残っている。
クリスの指摘がなくても、他に回せる部分は回さないと片付かないし、この場合その回せる部分は夜盗関連だろう。
加えて、寒さもなかなかの問題だ。王都からかなり南下してきたおかげで雪はないが、時折強い海風を受けるこの村は、春も浅い今の時期ではまだまだ寒い。それなりに防寒対策されている騎士服の私ですら寒いのだ。粗末な服しか身につけていない夜盗たちの身にはこの海風は染みるだろう。処罰対象だと言えど、目の前で不調になられても困る。優遇なんてしてやる義理はないが、こちらの精神衛生のためにテント一つは明け渡すことになってしまっている。まとめて置いておくしか現状出来ない為、夜盗連中は比較的温かなところで休み、私たちは寒いところで働き続けているという、なんとも皮肉な事態になっている。
「一の聖騎士、今、良いですか?」
通りがかりに声をかけてきたレオンに、何? と顔を向ける。
連中の隠れ家を見に行ったセシルたちと、買い出しを頼んだフレッドたちは既に出ている。監視役を引き受けてくれているレオンは、それでも工夫し少ない人員で上手く回してくれていた。
「簡単にですが全員事情聴取が終わりました。その報告を」
「分かった。十分後にザザと会議用のテントに。クリスにも同席してもらう」
「承知しました」
いつもなら誰かにクリスを呼びに行ってもらうところだが、今は皆忙しい。私が呼びに行かねばならない。クリスはクリスで海の民との会話を試みてくれているはずだ。本当は、海の民の相手は私が続けたかったのだが、セシルを斥候に出してしまった以上私が指揮をせざるを得ない。
クリスは村の漁港から少し先にある浜で、シェルリラたちと話しているはずだ。レオンと分かれた私は足早にそちらに向かう。
レオンの方も、こちらが与えた時間で班長不在の間の指示を部下たちに出した上で、ザザを連れて来てくれるだろう。
「クリス!」
海風に髪やマントを弄ばれながら浜の方へと歩けば、予想よりもずっと村に近いあたりに四人分の背中を見つけた。私は少し歩きづらい砂を蹴ってそちらに走って行く。
「リチェ、どうしましたか?」
ここ数日だけで一体何回聞いただろう問いに苦笑する。私の声に砂浜にしゃがみ込んでいた四人がそれぞれのテンポで立ち上がった。クリスの横にはいつも通り弟子のセティがいる。海の民のシェルリラと、その付き添いのシーシルも、私に緩く手を振ってくれた。この村にいた人たちと交流するうちに、こちらの挨拶として覚えたらしく、顔を合わせると必ずやってくれる仕草だ。こちらも同じように手を振り返す。私たちには表情の分かりづらい海の民だが、心なしかシェルリラが微笑んでくれているように感じる。
「会議に同席して欲しい。今、ここの会話は切り上げても大丈夫?」
分かりました、とクリスが頷いた。真似するようにシェルリラも、こくりと青い髪を揺らす。こちらの話は文字を使わないと半分も伝わっていないはずだが、私の様子などでなんとなく察したのかもしれない。
「僕の方は大丈夫です。……セティはどうしますか?」
会議に必要なのはクリスだけだ。報告に上がるものが全体に知らせられる内容かはまだ分からないから、セティは同席させられない。クリスもそれは承知しているようで、彼は私ではなく弟子に問うた。
「良いなら、もう少しシェルリラたちと話を続けたい。とても興味深いからもっと話したいです」
セティは良いかと確認するようにクリスと私を見上げた。普段は大人びたところも多い早熟な魔導士少年だが、こういう時のセティは実際の歳相応の表情を見せてくれる。それがクリスには可愛くて仕方ないらしい。優しい眼差しで頷く様子を私は横で見守った。
「なら、海には入らないこと、何かあったらすぐに僕を呼ぶこと。あと、シェルリラさんたちには悪いですがもうちょっと村の近くで話をすることを条件に続けることを許可しましょう」
リチェもそれでいいかい? と、クリスがこちらに確認して来る。いかに賢いとはいえ、子ども一人で海の民と会話させていいか一瞬迷ったが、大丈夫、というようにクリスが頷いた。声を上げるなどの通常の手段以外に、何かクリスを呼ぶ手段をセティには用意してあるのだろう。
「わかった。約束する」
「はい。では……」
クリスがその場でしゃがみ込む。シェルリラとシーシルに、砂に字をいくつか書いて説明を始める。私と違い、手振りは少なく、代わりに図がいくつも入っていた。私はその様子を見守る。改めて海の民たちとのことをクリスやセティに任せて良かったと実感した。自分で言うのも何だが、脳筋気味の私より、よっぽど会話の密度が高い。
クリスの書く文字や絵を見ていたシェルリラとシーシルは、しゅるしゅると彼らの言葉で何か言い、返事として砂に文字をいくつか並べる。
それを確認したクリスが、「ありがとう」と口で言いつつ砂にも書いた。海の民たちも了承してくれたようだ。
「では、セティ、お昼には一度戻るように。午後はルイーナさんの手伝いを頼むね」
「はい。ありがとう、師匠」
頷いた少年の頭を、クリスが撫でる。セティの嬉しげな顔を見て、私はここ数日の疲れが少し癒されるような気がした。小さく息を吐き出し、言う。
「それじゃあ、クリスを借りていくわね」
三人に礼と共に「またね」と告げて、クリスと歩き出した。




