残されたもの20
捕縛した者たちには簡単に食事を与え、テントの一つで休ませることになった。
ザザが騎士たちに指示を出し、対応した。
騎士たちのように簡易寝台までは与えられないが、まだ冷える外で過ごさないで済むだけマシだろう。
冬が終わり、春が来たとはいえ、まだ朝晩は冷える。彼らはこの寒さの中でも、薄いものを何枚か重ね着しているぐらいでしかなかった。碌に食べていない状態で薄着では、それこそ体調を崩してしまう。
私は、問題を解決したいだけで、彼らを苦しめたいわけではないのだ。
この後確認に行かねばならないセシルとルノー、それに暁の風を優先して休ませ、見張りなどは他のメンバーで担当させた。ゲイルとクリス、セティにもカイの看病の交代要員を頼む。捕縛した連中にテントを一つ明け渡した関係で、彼らのテントにカイを移すしかなかったのだ。なんとなく女性用テントは三人でゆったり使わせてもらっているままなのでちょっと申し訳ない気分になる。
「……」
「なんだ、これ……」
夜が明け、朝食をとらせるために連中をテントから出したことで、新たに一つのことが分かった。
こちらに向かって来た時とは打って変わって大人しくなった彼らは、明るい状態で見る村の様子に驚きを隠さなかった。
呆然と、崩れた家屋を見つめる者、思わず目を逸らす者、他の者に思わず視線をやる者。
「……なんで、こんな勿体ないなことに」
騎士たちの人数が足らず監視役に一時的に加わっていた私に、一人が訊いてきた。集団の中でも最年長と思われる男性だ。もう老人と言っていいだろう。その困惑したような声に、私は苦虫を潰したような顔になる。
私は何だってこのタイミングで監視役を引き受けてしまったのだろう。
「……。あなたたちが、やったのでは?」
思わず吐き捨てるような言葉を言いかけて、ぐっと堪える。言葉と一緒にごくんと、唾を呑み込んでから、意識して声を平たんに保ち、問い返した。
「違う……! 俺らじゃないっ!!」
「確かに色々勝手に貰いはしたが、違う!!」
「家なんて燃やしてないっ」
慌てて否定する声がいくつも上がった。首を大きく横に振る者、信じてくれと懇願する者、言葉を失う者、苦々しげに顔を歪める者。それらの様子を見ながら、私はまた込み上げるものを呑み込むように口を引き結ぶ。気持ちを落ち着けるためにゆっくりと三回ほど呼吸を繰り返す。
「そう。……なら、ここに子どもが一人残っていたことを知っていた者は?」
きっと私は今、相当厳しい顔をしているのだろう。こちらが言った言葉に、ざわざわとまたざわめきが起きる。
「……そんなのがいたら、連れて帰る。どうせこの状態で生きてたってことは、でかいんだろ? 働き手にする」
「男ガキならこき使えばいいし、女なら違うことに使えるしな!」
一人の男が言った。その声に、あれこれと賛同する者が何人も出る。ごく当たり前と思っていってるようにしか思えない。辛うじて売り飛ばす云々出てこないのは、この国では奴隷は禁止されているからだろう。でも、身内でないなら子どもでも守る必要がないと思っているのは確かな口調で……。
あぁ、本当に……、どうして、と、私は心の中で悪態をついた。吐きそうだ。色々想像してしまって、胃がむかむかする。
「……」
そんな中で、一人、舌打ちをする者がいた。その音を拾った私は咄嗟にそちらを向く。見ればリーダー格の男が一人、険しい顔をしていた。なんとなくその表情は、私が今浮かべているものに似ているような気がした。こちらの視線に気が付けば、ふい、と顔を反らす。髭面の横顔は苦いものを呑み込んだ後みたいに歪んでいた。
「大人しくして。騒ぐなら朝食抜きにする」
あれこれ言い始めた男たちに言い渡すと、ぴたりと無駄口が止まった。
私はさっき込み上げてきたものをひっそりと吐き出すような気分で、ため息をついた。
「……ここをお願い。ちょっと確認したいことが出来た」
「承知しました」
レオンには申し訳ないが、このままここに居るのは私には少しばかり辛い。それに本当に確認が必要な事も出来てしまったので、任せて離れることにする。
「……悪いわね。頼んだ」
一人逃げ出すようで申し訳なく、レオンの横を通った時に彼にだけ聞こえる音量で告げれば、「大丈夫です。休んでください」なんて言葉が返ってきた。うちの隊のメンバーは本当に人が出来ている。もしかしたらこちらの顔色に出てたのかもしれない。
ごめん、と小さく謝って、そのまま歩き出す。
目当ての人を探していれば、違う隊員の姿を見つけた。
「フレッド、ちょうど良かった。一つ頼まれて」
出立の準備をしていたのだろう。馬車の横で馬の世話をしている騎士に声をかける。
この後彼は、女性騎士のレゼと一緒に街に買い出しに行くことになっている。いきなり大所帯になってしまったから、食料品など必要な物資の調達だ。彼らを今後どうするにしてもあと数日はここに留め置くしかない。場合によっては彼らの家族も背負うことになる。その辺も頭の痛い問題だ。
「どうしました?」
「街に行くついでに頼まれて」
私は上着の内ポケットから封筒を二つ出す。セシルたちと話をした後にしたためたものだ。
片方は薄っぺらい封筒だが、もう片方はかなり分厚い。どちらもしっかり封蝋してある。
「書いてあるけど、こっちはフォーストンの騎士団支部宛。こっちは王都ね。追加料金になってもいいからどっちも早馬で」
分厚い方には実は中に手紙が三通入っている。王都の騎士団に届けば、そこで開封した後良いようにして貰えるはずだ。一つは私用だが、まぁこれぐらいの職権乱用は許されるだろう。ある意味今の任務にも関係ある内容で、あて先は故郷の師匠、零の聖騎士だから。
「承知しました。お預かりします」
私が差し出した封筒二つと何枚かのコインを、フレッドは受け取って内ポケットにしまった。
「お願いね」
「はい。……あの、リチェさん」
「ん?」
フレッドはちらちらっと辺りを見渡してから、私に近寄ってきて小声で訊いてきた。
「……ちょっとだけ、嗜好品も買って来ていいですか?」
「任務中だからお酒はダメだけど、それ以外なら。何を?」
「そこは心得てます。……少し甘いものを。飴かドライフルーツでも」
「許可する。……私も出すから少し多めに買って来て」
私は隠しからもう何枚かコインを出してフレッドに渡した。




