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残されたもの19


 ザザとセシルの二人を伴って、テントの一つに入る。

本部用に設置したもっとも小さなテントだ。他のテントからは少し離した場所に設置してあり、特殊な結界を施してあるため外には声などが漏れないようになっている。

入れば、セシルが魔法で灯りを出し、内部が明るくなった。組み立て式のテーブルには既に地図が広げられており、折り畳み式の簡易な椅子もいくつか用意されている。


 私はその一つに腰を下ろすと、肺の中の空気を吐き出した。

なんだかどっと疲れが出ている。歳かな、と、少し弱気になる。いや、歳ではないな、働き過ぎなんだ、間違いなく。


「さて、と。どうするかしらね、あれ」


 座って、と、二人にも促す。もっとも私が言うまで待っていたのはザザだけで、言う前にセシルは私の右隣りに座ろうとしていた。指揮系統の混乱を招かないよう副官のように振る舞ってくれているけれど、本来、彼と私は対等な立場だからね。

体の大きな二人が椅子に収まれば、狭いテントでも少し息がしやすくなったような気がした。セシルも長身だが、ザザは長身な上にかなり厚みもある。体格的には若かりし頃の師匠に近いかもしれない。いかつい顔もあって存在感はこの隊の中でも抜群だ。


「……あれは、嘘には見えないですね」


 ザザが私の代わりのように言った。しみじみと、低い声が疲れ果てている。彼もサイルーンからずっと出ずっぱりだ。私たちより先に王都に帰らせた部隊のとりまとめやら、過去の案件の事後処理など、やることはたくさんあっただろう。早馬で駆けた私たちに比べればまだマシだろうが、レオンと二人で調査隊の準備を整え、ここまで隊を連れてきているのだから疲労も溜まっているだろう。

やはり、色々落ち着いたら皆まとめて休ませてやりたい。


「確かめるしかないんじゃないか?」


 横でテーブルに肘をつき、地図を眺めていたセシルが言う。

おそらく、捕縛した連中がどこから来たのかを考えていたのだろう。荷馬車に乗っていた者もいたが、徒歩の者が殆どだったことを考えると、そう遠くはないはずだ。行くとなったら馬を使うことになる。おそらく半日かそこらで行って帰ってこられる距離に違いない。


「そうね。まずはそこからかしらね。……もしかしたら、居なくなった人たちの手掛かりもあるかもしれないし」


 私は隣の黒髪を見る。私と同じ工程でここまで走り続けているのだから、彼も疲れているだろうに、その顔からは伺えない。


「セシル、行ける?」


 その場で状況判断が必要になる。彼らの言葉に騙されていた場合でも、助けをこちらに呼ぶには距離があるだろう。行く者は自力で戻ってこなければならない。他に選べる実力の者はここにいなかった。


「あぁ。……連中から一人か二人連れて。……そうだな、ルノーと暁を借りていいか?」


 彼自身も分かっていたのだろう。それはそうよね。実力、それに立場的に私か、セシルのどちらかが行かねばならないなら、私が指揮官役を担っている以上、セシルが行くしかない。

私は二の聖騎士の言葉に、ルノーの直属の上司であるザザの方を向く。第一班の班長であるザザは私の視線に気づき、頷く。


「私の方は大丈夫です」

「だそうよ、セシル、彼らだけで大丈夫?」

「大丈夫だ。道案内に連れていくのは、扱いやすそうなのを選ぶ」


 騎士たちの中でも特に機敏で、弓も剣も得意なルノーは、まだ若いが何かと任せやすい青年だ。守護の狼である暁の風も、本気を出せば馬よりも早く走ることができる。何よりもあの見た目だ。威嚇する必要があった時などは本当に重宝する。連れていく道案内を逃げ出させないのにも、一役買ってくれる事だろう。

私は、一つゆっくりと瞬きをする。何かあったとしてもそのメンバーなら帰ってこられるだろう。


「なら、確認に行くのはその三名で。出立は明日の朝でお願い。あの様子ならそこまで遠くはないでしょう」

「了解した」

「承知しました」


 私は椅子の背もたれに背を預ける。見上げる先はテントの内側だ。少しの間脱力するようなその姿勢で考えて。体を起こす。


「ねぇ、ザザ、食料に余裕はある? 海の民から貰ったものも使っていいわ」


 言われたザザは少し考えてから口を開いた。


「えぇ、滞在がどれぐらいになるか分からなかったので、多めに持ってきていますから」

「なら、炊き出しを。後、フレッドとレゼを街にやって追加で食料などを仕入れてきて」

「……そうくると思った」


 横でぼそっと言った男をテーブルの下で蹴飛ばす。

見えない位置のはずだが、気配で分かったのだろう。いかつい顔のザザの目元が優しくなった。どことなく親が娘を見る時みたいな顔をしている。そうよね、甘いわよね。分かっているわよ、私だって。本来なら連中に何か施してやる必要なんてないって。


「わかりました。……一の聖騎士のそういうところ、俺は変わらないで欲しいと思います」


 付け加えられた言葉に、私は唇を尖らせる。


「うるさいよ。少しは懐柔しておいた方が、何かと楽じゃない?ってだけよ」


 セシル、横で笑うな。

私はそっぽを向いた。



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