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残されたもの18


 襲撃者全員を縛り上げた状態で、村の広場に纏めて座らせる。

人以外の気配二つは予想通り荷馬車の馬だった。痩せた馬が二頭、屋根もない粗末な荷車を引いていた。

馬たちに罪はないのでこちらの馬と一緒にし、飼い葉を与えてやると必死な勢いで食べ始めた。碌にえさを与えられていなかったのかもしれない。


「で、ここの村人たちどこにやったの?」


 私は縛り上げた男たちの前で、木箱に座り問う。

ゲイルに頼んで、襲撃者たち全員に浄化をかけてもらった。不衛生な者のそばにいることでうちの部下たちが調子を崩しても困るし、何よりあの匂いを嗅ぎ続けるのは私が嫌だ。

 地面に座らせた男たちの周りでは騎士たちが目を光らせている。

こちらを睨み付ける者、おどおどと見上げる者、そっぽを向いたまま不貞腐れている者、中には疲れたのか寝てる者までいる。統制は全く取れていない。山賊の類でもここまでバラバラな集団は珍しい。もうちょっとまとまっていて、皆でこちらに敵意を向けてくることの方が多い。


「……知らねぇな」


 リーダー格と思われる男が、ぼそりと言った。

私の横に立ったセシルが、己の前に地面に突き立てるようにした長剣を少し持ち上げ、どんと音を立てて下ろした。その音にびくっと男たちが震える。ちらりと脅かした本人を見れば、涼しい顔をしている。……大人げない。

私は座ったまま組んだ足を軽く揺らす。


「知らねぇ、って言われて、はい、そうですかって私が言うと思う?」


 さっき言われた言葉を返してやると、男は苦々しい顔になった。

私は目を眇める。正直なところかなり眠い。どうしても目つきが悪くなる。


「……知らねぇもんは知らねぇんだから仕方ないだろ」


 男が吐き捨てるように言う。ふぅん、と、私が不機嫌そうに相槌を打てば、リーダー格の横にいた男が慌てて口を開いた。


「本当に知らないんだ……! 俺らはここが無人になったって聞いたから、ちと色々貰いに来てただけで……!!」


 その男の後ろで違う男が文句を言う。それを封切にあちこちから声が上がる。


「だからやめときゃ良かったんだよっ!」

「んなこと言ったって、今更遅いだろ」

「やっぱり船も貰っちまおうって言った時、お前だっていいなって言ってたよなっ」

「だって……!」

「俺らがこの村に住んじまえばいいって言ってたやつだっていただろ!」


 どん、と、地面を軽く揺らす重さで、また二の聖騎士が剣を鳴らした。

途端に静かになる。……本当に、大人げない。ちらりと視線を投げれば、セシルが、ふんと鼻を鳴らした。もういっそ事情聴取は彼に任せて私は寝てしまおうか。


「……つまり、ここには空き巣に入りに来た。ついでに言えば来たのは今夜だけじゃなく、少なくとも既に一度は強奪に来た後で、まだ使えそうなものがあるから更に取りに来た、あわよくばここに移り住むことも検討していたってこと?」

「そうだ!」

「ここの人たちがどこいったかなんて知らない!」

「来た時には誰もいなかったんだっ!」


 また、口々に言い始める。何度も頷いてみせてくる者もいる。リーダー格の男は不貞腐れたようにそっぽを向いているが、他は必至な顔をしている者が多い。


「……それ、どうやって証明するつもりなの」

「俺らの隠れ家に来ればいい、盗ったものも全部ある……! 食っちまったのはもうないが、全部返すから……!」

「ちょ、何言ってるんだ、お前っ」

「……だって、殺されちまうよりいいだろっ!?」


 私は、ふむ、と少し考える。目を細めたまま、男たちを観察する。そこそこ歳いっている者も、まだ少年みたいな歳の者も混ざっている。明らかに親子らしい様子の者たちもいる。皆、身につけている物は粗末だ。体は、元はがっしりと骨太だっただろう名残が残っているが、皆一様に痩せている。ゲイルに強制的に浄化されるまでは洗濯も行き届いていない不衛生な状態だった。

野盗ではあるが慣れていない様子も、手にした武器の半分は斧や鍬といった農具だったことからしても、おそらくは元農民か何かだろう。馬たちも軍馬などに多い走るための馬ではなく、農作業を手伝っているようなずんぐりとした農耕馬だった。


「……帰してくれよぉ。家に待ってる妹がいるんだぁ」

「うちも寝込んでるおっかぁが……」

「なぁ、頼む、俺らが帰らないとみんな死んじまう……」


 黙ったまま見据えていれば、まだ少年と言ってもいいほど若い男が啜り泣き始めた。その涙がうつるように数人が訴え始める。その声は悲痛に満ちたものだった。演技には見えない。色々心の中でよく見ろ、ほだされるな、と自分に言い聞かせても、演技には……見えなかった。

私は目を伏せる。こういう時、女性の体は不利だと思う。苦いものを噛み潰すように奥歯を食いしばり、溢れそうになったものを呑み込んで、肺の中の空気を音を立てて吐き出す。そのままの勢いで立ち上がる。


「ここをお願い。女子は外しといて。子どもも近づけないように。あなたはついて来て」

「はっ」

「承知しました!」


 一緒にいた第一班と第二班の班長それぞれに言う。ここを任せたのは第二班班長のレオンで、付いてくるように言ったのは第一班班長のザザだ。

 私は、ぐい、と顔を捕縛した男たちの方へと向けると、わざと眦を上げる。厳しい顔を作る。


「処分は追って伝える。抵抗すれば容赦はしない。帰りたいなら大人しく待っていなさい!」


 こんな風にするからクリスには優しいと指摘をされ、人々には舐められたりするのだろう。

私はマントを翻して捕虜たちに背を向ける。歩き始めに横にいたセシルに短く言う。


「来て」

「了解」


 私は、二の聖騎士と第一班の班長を連れ、その場を離れた。




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