残されたもの17
上空に現れた光球に照らし出された男たちは、みすぼらしい恰好をしていた。まだ寒い時期だというのに着ている物は薄い。しかし、その手には剣や斧などを持っている。
「くそっ 待ち伏せしていやがった!!」
「騎士どもかよっ」
「ひぃっ。だから嫌だったんだよ……っ!」
「いや見ろ、たった四人だ」
口汚く罵り言葉を吐いている。手にした武器をそれぞれに構え、じりじりとこちらへと近づいてくる。
魔導師のローブを着ているクリスを警戒しているのだろう。クリスが魔導士ではなく魔導師だとまでは分からないだろうが、魔法使いを警戒するぐらいの知恵はあるようだ。
その一方、後ろの方では早くも逃げ出そうとしている者もいる。暁たちをあちらに配置しておいて正解だった。ルノーもフレッドも足が早く、弓の扱いも上手い。上手くやってくれるはずだ。
見たところ、統率はとれていない。配置も態度もばらばらだ。
「こちらはグラーシア王国騎士団だ。今すぐ武器を放棄し、投降しなさいっ!!」
相手の様子に、私は聖騎士ではなく騎士たちの指揮官として警告する。正確には私は騎士団所属ではないが、騎士たちは王国の騎士団所属の者たちだ。今の状況で正確に名乗る必要はないと判断した結果だ。
「……騎士団の隊長さんよ、そんなことを言われて、はい、そうですか、って言うやつが今までいたのかよ?」
「女じゃねぇか。ちょうどいい、溜まってたんだ、お相手してくれるんだろう?」
一人が言った言葉に、数人から下卑た笑いが巻き起こる。
私はそんな様子に、すぅっと目を細める。
確かに暁の風が言っていた通り、かなり匂う。全員まとめて海に叩きこめば少しは綺麗になるだろうか。
ルイーナとレゼを村待機にしておいて良かった。こんな不愉快な視線を受けるのは私だけでいい。私自身はすでに四十代半ばで、多少のことなら気にも止めずにあしらうこともできる。普段から好き勝手言われているし、とうの昔に色々と吹っ切れてしまっているが、彼女たちはまだ二十代だ。トラウマになりかねないような嫌な想いはしない方が良い。
そして、横で一歩前に出て即座に斬り捨てそうな物騒な顔をするのはやめてくれないかしらね、二の聖騎士殿。
「今から三つ数える間に、武器を投げ捨てなさい!!」
「……やなこった! 野郎ども、やっちまえっ!」
こちらが数え始める前に、前の方にいた男たちが駆け出した。ちっ、と、思わず舌打ちしたくなる。しないけどね。それにしてもなんてお約束みたいなセリフなんだろう。呆れを通り越していっそ感心する。
一斉に向かってくる男たちを見据えたまま、地面をじりりと削るようにして右足を引く。三、二、一、としっかり数える。宣言したからにはそこまでは待ち……。
息を吸い込み、体を沈める。柄にかけていた手がグリップをしっかりと握る。じわりと剣が応えてくれているような気配に小さく笑う。右手と剣が熱を帯びるような、そんな感覚。満ちていく。
「……はぁぁぁぁっ!!!!」
こちらへとそれぞれの獲物を手に走ってくる男たちまでは、後数歩の距離。
ギリギリまで引き付けたそこで、私は鞘から剣を引き抜く。細身の剣をそのままの勢いで横に一閃……っ!
一瞬遅れて、目前の男たちが剣圧を受けて吹き飛ばされた。何が起きたのか分からないという顔がかなりの勢いで遠ざかっていく。
「……捕縛せよっ! 一人として逃すなっ!!」
喉を開き、太い声を発した。
私の声を聞くのとほぼ同じタイミングで、横からセシルがすごい勢いで走って行く。手加減できるのかな、あの様子で。私は止めていた息を吐き出した。街道の左右に待機していた騎士たちも動き出す。その様子を見守りながら、剣を鞘に納める。いつでも抜けるよう留め金はかけないが、肩幅まで開いていた足を戻し、状況を見守る。これ以上私が動く必要はあまりなさそうだ。
「リチェは、優しいですね」
「どこが?」
背後から聞こえたクリスの声に、小さく肩を竦める。ふふっと笑う気配が返ってきた。
視界の先で、待機していた騎士たちが次々に男たちを無力化させていく。左右に配置したレオンたちが、私の剣圧で吹き飛ばされ体勢を崩されたところを捕まえ、手際よく縛り上げていく。びっくりして逃げ出した者たちはルノーとフレッドの矢に牽制されて動けなくなる。それすらも振り切った者も、暁が回り込み威嚇すると腰を抜かしたのか転んだ。
「本気で誰も傷つけずに捕まえるつもりでしょう?」
「……まだ、連中が何をしたのか分かってないからね」
裁くのは罪状がついてからにするべきだ、なんて言えば、「そうですね」と賛同の言葉が返ってきた。
「封鎖していますが、すぐ解くことになりそうですねぇ」
「かもね。ゲイル、手間をかけてすまないね」
「いえいえ」
人数で言えばこちらの倍いたはずの男たちは、あっという間に縄に掛けられていく。早々に武器を投げ捨て投降した者も多い。当初の予定よりもはるかに手応えがない。拍子抜けしたと言っていいレベルだ。
リーダー格らしい男とその取り巻き数人はセシルが相手しているが、あれも時間の問題だろう。
圧倒的に技量が違い過ぎて、セシルが一方的に武器を取り上げているような状態だ。
「……少し、変ね」
司祭と魔導師の二人の前で、襲撃者たちを捕縛していく様子を眺めながら言う。
「どうしました?」
「……弱過ぎる。こんなじゃ村人たちを全員連れ去るなんて出来ないわ」
独り言に反応して律義に訊いてきたゲイルに、私は答える。
「確かに、そうですね」
中年の司祭は頷いた。
商業ギルドからの報告ではこの村には六世帯あるとされていた。大人子ども合わせて二十七人。そのうち、隠されていたことで逃れたカイを除く二十六人を連れ去ったことになる。女性や子どもはともかく、ここには日々漁に励む屈強な男達もそれなりの人数いたはずだ。それを無力化して連れ去るには、目の前の連中は弱過ぎる。
「……何か、見落としているのかもしれない」
そう呟く私の視界の先で、セシルが最後まで残っていたリーダー格の男の剣を跳ね飛ばし、襲撃者たちの制圧は完了した。




