残されたもの16
「状況の報告を!」
身支度を終えテントを出れば、門近くへと足早に向かう。今この村にいるのほとんどのメンバーが集まっている。いないのは保護したカイと、彼についているとレゼが教えてくれた女騎士ルイーナ、それにクリスの弟子のセティの三名だけだ。
「人と思われる反応が全部で十八。それ以外が二。街道をこちらに向かって来ています。徒歩が殆どですが、おそらく荷馬車か何かと思われるものが一台。確認した二は馬か牛でしょう。灯りはつけていません」
「そう」
見張り役をしていた騎士の一人が即座に返してきた。この部隊には、任務の特性上、探査の魔法を使える者を多めに配置している。それが功を奏したらしい。その言葉を聞きながら、口の中で呪文を唱える。探査の魔法が発動して、私の視界に生き物の気配が小さな光となって浮かび上がった。近くにいるのは仲間たち。そして、報告にあった通り、街道の、まだ歩けば十分ほどかかりそうな距離にいくつか確かに反応がある。
「……臭い連中だ」
いつの間にか私の横に来ていた暁の風が、鼻筋に皺を寄せながら言う。もう匂いまで彼には分るらしい。それだけの距離まで来ているということでもある。
私は、ちらりと門の一番近くにいる長身の男に目をやる。近づいてきている者たちに気付かれないよう、皆の足元近くに小さな灯りがあるだけなので、表情は分かりづらい。でも、こちらの視線に気づいたらしいセシルは、こくりと一つ頷いてみせた。
「こんな時間に灯りもつけずやってくる連中だから、よほど後ろめたい何かがあるんでしょう。クリス、ギリギリまで引き寄せたところで照明を。全員捕縛するわ」
「打ち上げ式でいいね?」
「えぇ。盛大にお願い。後は様子を見て援護を」
「了解」
きっちり魔導師のローブを身につけているクリスが、私の言葉に確認する。私は彼ほど頼れる魔導師を知らない。この微妙に平和ボケした世の中でも、きっちり戦闘経験を積み上げながら、自身の研究をひたむきに続ける星芒の賢者。彼は、もう残り少ない神樹の時の戦闘を経験した一人だ。
「ゲイル、門の外で戦うわ。戦闘開始に合わせて門の封鎖を。レゼは中に残ってルイーナに合流。子どもたちをお願い」
「承知いたしました」
「はい!」
ゲイルは結界に長けた司祭だ。過去の現場を封印も彼がやってくれている。間違って襲撃者たちが村に入りこんでしまうと色々厄介なことになる。いざという時に私たちも逃げ込めなくはなるが、ここに居るのは騎士たちもそれなりに優秀な者たちばかりだ。それに、聖騎士のセシルも、私もいる。
さっき私を起こしに来てくれたレゼは、ぴしりと敬礼すると一つのテントの方へと走って行った。私とセシルが昨晩用意した簡易なものではなく、私が寝ていたのと同じようなしっかりしたテントの方だ。そちらにカイを移したのだろう。
「ルノー、フレッド、暁と一緒に後ろに回り込んで。一人も逃さないように」
「はい!」
「ザザ、二人預ける。出て左側を任せるわ」
「はっ」
「レオン、残りの二人を連れて右側をお願い」
「承知しました!」
騎士たちの顔を一人ずつ確認するように目を向ける。全員、きちりと目が合った。
元々レオンとザザはそれぞれ班長だ。ザザの班にはルノーとフレッドが、レオンの班には女性騎士二名が所属している。どちらの班からも二名ずつ別行動させた形だ。
返事の代わりなのか、横にいた暁がぼふ、と私のことを尻尾で軽く叩く。その横腹を軽く、ぽすぽすと叩いて私も返事とする。
「セシル、最初は私と正面に。好きにやっていいわ」
「了解だ」
最後に、相方である二の聖騎士に言えば、聞き慣れた声が返ってきた。
「基本は全員無傷で捕縛。抵抗してきた場合は抜刀を許可する。多少手荒くしても構わない。一人残らず捕まえる」
ざっ、と音がしてその場にいた全員が私に向かって敬礼した。それを背筋を伸ばした姿勢で受ける。
「全員配置について!」
一斉に動き始める。迅速に、だけど気付かれぬように物音は極小まで減らして。頼もしいその様子を見ながら、私はゆっくりと歩き始める。私の配置位置は門を出てすぐのところだ。魔導師のクリスと司祭のゲイルを後ろに従え、すぐ左にセシルを置き、真正面で襲撃者を待ち受けるのだ。
「……少しは休めたか?」
低く抑えた声が訊いてきた。私は小さく首肯する。
門の手前で私に合流したセシルは、私の左側を歩く。一の聖騎士として指揮を執る私を立てての位置取りだ。私はテントを出る前に高めの位置に結い上げた髪を揺らしながら、背筋を伸ばし真直ぐ歩く。
「お陰様で。夢も見ずに泥のように眠ってたみたい」
「それは良かった」
最後に私たちが通り抜けた門を、二人の騎士が外側から閉めた。ごん、と、重めの音が響くが、今日は風が強い。村の外の草地を渡る風が、そのざわめくような音で打ち消してくれることだろう。
先に出て待っていたクリスとゲイルが門の前に位置取る。
「……でも、出来ればもう少し寝てたかった。さっさと終わらせて二度寝しましょ。私たち働き過ぎだもの」
「そうだな」
横で笑う気配がした。
探査の魔法を被せた視界の中で、ゆっくりと襲撃者と思われる一行の光が近づいてきている。ぞろぞろと皆こちらに向かっているが、兵ではない、好き勝手に皆歩いているという感じだ。足取りは遅い。女性混じりの商隊でもこれより早いように思う。
まだだ。まだ。あともうちょっとだけ、と私はその光を見つめる。こちらの存在に気付くギリギリまで引き付ける。幸い、あちらには探査の魔法持ちはいないように見えた。いても精度はかなり低い。
「……」
騎士たちと暁が風の音に紛れて移動し、予定していた配置についた。
私は目を閉じ、一つ、大きく息を吸い込む。海沿いゆえに少し湿り気のある、まだ冷たい空気が肺を満たす。ゆっくりと、その空気を全て吐き出して、瞼を上げた。
「クリス、やって!」
背後で小声で呪文を唱えて待機していたクリスが、杖を構える。
「偉大なる魔導師ロドヴィックが弟子、星芒の賢者クリスが命ずる。
星よ 全てを見下ろし、慈しむ者よ
その力を今、我に貸せ! 光よ、闇を照らせ!!」
星芒の賢者の杖が振り上げられるのと同時に、辺りを昼のように照らす大きな光球が上空に現れた……!




