表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/87

残されたもの15


 夕方少し前。今回も調査隊の一人として参加してくれている司祭のゲイルと、騎士二名にカイの看病を引き継ぎ、私は設営されたテントの一つで休むことになった。

総勢十名ほどの調査隊のうち、今回は二名女性騎士が混ざっている。今私がいるテントは女性用。三人分組み立て式の簡易な寝台も用意されていた。

その一つに腰かければ、自然と長いため息が出た。昨夜も碌に休めていない。野営の見張り役と、カイの看病を手分けしてやっていたため、寝る訳にいかなかったのだ。


「……やっと休めるー」


 テント内に一人なのを良いことに、わざと口に出して言ってみる。声に出し言うことで、耳からその言葉を聞き、自分に再認識させるのだ。

聖騎士なんてやっていると、無理をしなければならないことも多い。気を張り詰めた状態を続け過ぎると、いざ休める状態になっても上手く緊張状態を解けなくなる時があるのだ。上手く効率的に休むために、声に出して自分に休むことを言い聞かせる。私は長年の経験から、そんな手段をとるようになっていた。


「あぁぁ……」


 びっちりと締めている膝までのブーツのベルトを一つずつ外していく。考えてみるとブーツを脱ぐのは何日ぶりになるのやら。サイルーンを発ってから一度も脱いでない気がする。浄化魔法のおかげで清潔に保ててはいるから、臭くなってるなんてことはないのが救いだ。

戦闘中にも脱げないようにといくつものベルトで締められたブーツを脱ぐと、それだけで足がじわーんと痺れるような感覚を覚えた。そのままの勢いで厚手の靴下も脱ぎ捨てる。足の指をわきゃわきゃと動かせば、かなりの開放感があった。思わずまたため息がこぼれた。

 もう片方の足もブーツという枷から解放してやれば、寝台の上に伸ばし、両足の指を動かしたり、足首をパタパタさせる。ふくらはぎのむくみをゆっくりと手のひらで摩って流していく。


「近くに温泉とかないかなぁ。熱いお風呂に入りたい……」


 この疲労の溜まった体も、あったかいお湯に浸かれば少しはマシになりそうな気がする。

そんなことをぼやきながら、シャツの首元を緩め、ズボンのベルトなども外す。出来るものなら寝巻にでもなりたいところだが、こんな状況でなれる訳もない。今はこれが限界だ。それでも体を締め付けるものを出来るだけ外したおかげで随分と楽になった。

 身につけていた物は、寝台の横に置かれていた大振りの籠にまとめて放り込む。本当はちゃんと畳んで整えるべきなんだろうが、今は何よりも休みたかった。

 薄着になったことで直に触れるようになった肩を揉み解し、鎖骨の辺りを手のひらで撫で摩る。体力はポーションで補うことが出来るけれど、疲労はどんどん蓄積していく。若い頃はまだそれを圧し切れるだけの回復力があった。でも、もう四十を過ぎてだいぶ経つ。男性の騎士でも私ぐらいの歳になると前線を離れることが多い。身近に九十になってもまだ戦闘可能なんて化け物のような師匠がいるおかげで感覚がマヒしているが、五十にもなれば騎士を引退する者がほとんどだ。ましてや聖騎士は普通の騎士よりも過酷な状況にいることが多い。しかも、私は女性だ。本来は戦うように体が出来ていない、女性、だ。


「……」


 私は薄い敷布に、ぼすりとひっくり返る。私の暴行に、組み立て式の寝台は、きしきしと鳴って文句を言った。寝返りを打てばきしみ、ぐらつく。そんな簡素な寝台だけど数日ぶりの寝床だ。

枕はないので、手を伸ばしてさっき乱雑に脱ぎ散らかした中からマントを引っ張り出し、適当に畳んで頭の下に置く。用意されていた薄い毛布の中に足を突っ込み、もぞもぞと引き上げる。肩まで覆えば右を上に横向きなった。さっき外した時に寝台の上においた剣を引き寄せる。鞘の留め金がしっかりかかっているのを確認して抱き寄せ、目を瞑った。


「おやすみ」


 誰に聞かせるでもない挨拶言葉。

額を剣の柄に寄せて、私は眠りに落ちた――……。




「リチェさん、起きられますか……?」


 そんな声で、私はぱちりと覚醒した。

 テント内は暗い。寝入る前は外の明るさが布越しに入ってきていたが、今は真っ暗だ。恐らくもう夜なのだろう。私を起こした騎士の前にある小さな魔法の明かりだけが、私たちの周りを照らしていた。


「何?」

「……何者かが村に近づいて来てます」

「わかった。ありがと!」


 私は、がばりと起き上がった。その勢いで寝台からずり落ちかけた毛布を慌てて掴む。寝台に引き上げて、寝乱れている髪をかきあげる。一度ぎゅっと目を瞑ってからすぐ開いた。

私の様子を少し心配げな様子で見守る女性騎士に、大丈夫よ、と、小さく笑ってみせる。そういえば、私に休むようにと提案してくれたのは彼女だった。多分、少しでも休めるようにとこのテントの中を整えてくれたのも彼女だろう。


「保護した少年にはルイーナがついてます。私は必要ならリチェさんの手伝いに、と」

「そう。そしたらコップに一杯だけお水をお願い。後は自分でやれるからみんなと合流していて」

「分かりました」


 さっき服を投げ入れた籠に手を伸ばす。さっき脱ぎ散らかしたまま乱雑に放り込んだだけのはずの上着などはきっちりと畳まれ、整えられていた。すぐ使えるようにと身につける順番に置かれている。気のせいじゃなかったら浄化の魔法もかけてある。石鹸を思わせる優しい香りがほのかにする。


「……レゼ。ありがとう」


 コップに水を用意してくれている女騎士に言えば、優しい笑みが返ってきた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ