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残されたもの14


 その日の午後、王都から調査隊のメンバーが到着した。

彼らの応対はひとまずセシルが担当し、私はカイの看病やシェルリラからの情報収集を続けた。

 どうやらシェルリラは、海の民たちの中でも群を抜いてこちらの言葉を覚えているらしい。試しにシーシルにも話しかけてみたが、海や魚などといった漁に必要そうな言葉しか知らないようだった。海の民のほとんどは、シーシルと同じか、まったく文字を使えない。確かに少し考えてみると、彼らは自国語以外として私たちの文字を覚えようとしてくれているのだから、それでも頑張っていると言っていい。

 余談だが、シーシルはシェルリラの番いなのだそうだ。だから一緒にきていたのか、と、なんとなく腹落ちした。


「まさか、海の民と会える日がくるとは……」


 なんて、感慨深げに言っているのはクリスだ。前回の現場でのことを考えて、彼も来てくれた。

私たちから一日半遅れとは言え、彼もかなりの強行軍な日程での移動だったはずだ。

疲れてないかと問えば、リチェこそ、と笑われてしまった。今回もついてきたセティは、似たような年頃のカイが苦しげに寝込んでいる様子に少しショックを受けていた。多分、自分がカイの立場だったら、など色々考えてしまったのだろう。


「会えたどころか、会話までしているよ」


 シェルリラたちは村に知らない人間が増えてくると、流石に怖くなってしまったようで、今日は夕方になる前に海へと帰っていった。

もしかしたら、人間もだけど、調査隊の一員としてついてきた暁の風が怖かったのかもしれない。見た目は大きな狼だからね。怖いと感じていても仕方ない。

それでも、カイのことも、そしていなくなってしまった村の人たちのことも心配で仕方がないらしく、数人の仲間と共に明日も来ると約束してくれた。


「みたいですね。……そうか、文字、か」


 地面の砂に書かれたシェルリラの文字を、興味深げにクリスが観察している。

クリスは魔導師ではあるけれど、魔法以外のことについてもとても知識欲旺盛な人だ。

シーシルが持ってきてくれた海藻なども、クリスは見てすぐに種類を言い当てた。

私は知らなかったが、海辺ではごく普通に使われる食材なのだそうだ。

他のものと一緒に食べても大丈夫だと保証してくれたので、早速貰った魚と一緒にスープの具材にしてみた。以前、旅先で海藻を刻んで入れたスープを飲んだのを思い出したのだ。

私たちの舌に合わせて、いくつか乾燥ハーブと塩コショウで味を調える。

そこに押し麦なども入れて、どろっとなるまで煮込んだものをカイにも少量与えた。

こちらが先に与えた解熱剤もあって、まだ苦しそうだが顔色は少し良くなったように思う。


「……しかし、それにしても」


 文字を眺めていたクリスがようやく立ち上がり、村の様子を眺めて言いかけ、そこで口を閉ざす。


「うん……」


 止められた理由は分かる。

クリスは来て早々に、ここで人の手により魔法が使われたことを指摘してきた。

多くの家屋を焼いた火災も人為的なものであり、例えば人が居なくなったことによって竈の種火に何か引火したなどが原因ではないだろう、と、言い切った。

 また、暁の風もここにはサイルーンの集落で感じた嫌な気配は全くないと言っていた。

念のため、この村全体を周り、ついでに周辺も確認してきてくれたが、あの時の『何か』があった気配は、この現場ではどこにもなかったと請け合ってくれた。

今は、他の調査隊のメンバーを乗せてきた馬たちと一緒に休んでいる。……彼もずっと走り通しだったはずだからね。


「クリス、ぜーんぶ終わったら調査隊のメンバー全員、半年ぐらい休み取れるように交渉したら、通ったりしないかな」

「……ん-、無理じゃないかなぁ。僕も休みたけれど」

「やっぱり?」


 私はわざとらしく肩を落とす。そんな私の肩を、苦笑したクリスが労うように叩く。

視線を村の中心の方に向ければ、広場の辺りに持ち込んだテントなどの設営を始めてくれていた。

私とセシルが急ごしらえで作った物とは違い、しばらく頓留するのに耐えられるようなしっかりしたテントだ。

ここはサイルーンの時と違い、毎日行き来できる距離には大きな街はない。宿や領主館などで休むことが出来ないと分かっていたので、追いかけてきてくれた調査隊の本隊の一部は馬車を使い、テントをはじめとした備品を持ち込んでくれたのだ。


「リチェもセシルも、それに他のメンバーもみんな優秀だからこそ、この調査を任されているからねぇ。これが片付いたら、次の案件って言われそうな気がする」


 そんな気がしない?なんて問われれば、思い当たる節が多過ぎて否定できなかった。


「……やっぱりそうよね。あー、なんで私、優秀なんだろうっ!」

「ははっ、そこでそう言っちゃう辺りがリチェらしくて良いよね」


 そのまま変わらないでいて、と楽しげに笑うクリスに、私は「もう好きに言ってて」と、そっぽを向いた。



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