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残されたもの13


 その後、私たちは筆談で会話を進めた。

 私に「くすり」と文字を書いてみせた海の民の名は、シェルリラ。女性らしい。

何度も名を繰り返してくれたが、その独特な空気音を私たちの喉では真似ることが出来ず、なんとかそれっぽく言った音で許してもらった。同じように私たちの名も、彼女は発音できない。辛うじて出た、似たような音でお互いに妥協だ。

彼女は、カイやこの村の人々と交流するうちに、少しずつ文字を覚えたのだという。

この小さな漁村の人々は、海の民たちと穏やかに交流し、漁を手伝う代わりに布や果物などを貰ったりしていたそうだ。

シェルリラはそんなことを、手振りと簡単な絵、それに砂に書いた単語で教えてくれた。

 私の方も、こちらのことを簡単に教える。ただ、聖騎士をどう説明したらいいかはとても悩んだ。私が悩みまくっていたら、横からセシルが、ヘタな絵で「守る人」なんて形で説明をしてみせていた。確かにそれで合っている気がするから、思いつけなかった自分がなんだか悔しい。

 セシルは、会話の最初だけは一緒にいたが、途中からはカイの様子を見に行ったり、調査の続きに行ったりしていた。なので、シェルリラと異文化交流は私の役割になった感じだ。


「ねぇ、シェルリラ。ここで何が起きていたの?」


 私の問いに小柄な海の民は、じっと考える。

海というより晴れた空に近い色の髪は、その背中全てを覆うほど豊かで長い。薄く袖のない一枚布を体に巻くように纏い、髪や体は、きらりと光る宝石のようなものであちこちに飾り付けられている。靴は履いておらず、でも、足の裏は丈夫なのか裸足でも不自由していなさそうだ。肌は薄く青みがかった白で、魚のようなうろこはないが光沢はある。私たちなら耳のところにあるひれは薄い部分は透けて向こうが見える。

印象的なのは白目のない目。深く澄んだ青黒い瞳は、見慣れてくるととても表情豊かだった。私たちへの好奇心と、そして熱を出しているカイや居なくなった村人への心配と。そんな彼女の心が伏せたり、大きく見開いたりするその目の様子でありありと分かる。

 シェルリラは、どう私に伝えようかしばらく考えているらしい間が空いた後、「漁に村人こない、だから見に来た」と、まず手振りと文字で教えてくれた。

来てみたらあちこちが燃えていたから、慌てて仲間を呼び、水をかけて火を消したのだという。

その消す過程で、家屋の狭い物入に閉じ込められていたカイを見つけたのだと。

 それを聞いて、今度は私が考え込む。

つい黙り込んでしまえば、心配そうなシェルリラから「大丈夫か?」と問われてしまった。

一応笑顔で大丈夫だとこたえはしたが、全然大丈夫ではない。いや、私自身は体調が悪いわけではないけれども。


 何故、このタイミングで家屋が燃えていたのだろう。行方不明が発覚したのは数日前だ。

カイの様子からして、村の人たちがいなくなったのは、こちらに連絡が来たあのタイミングで間違いはないと思う。もしそれよりも前から少年一人だけで閉じ込められていたなら、もっと衰弱している。下手をしたら火事がなくても死んでいたかもしれない。

 事情を聞きたくても、カイはまだ話が出来る状態ではないし、シェルリラたちも私たちが駆けつける少し前ぐらいからしか知らなそうだ。

サイルーンで遭遇した事例とは明らかに別の何物かによるものだとは思うが、こちらはこちらで手掛かりが全然足らない。


「……!」


 私と筆談を続けていたシェルリラが、唐突に顔を上げた。立ち上がる。私もその動きにつられて、彼女が見ている方を見ると、もう一人の海の民が戻ってくるところだった。手ぶらだったさっきと違い、何か色々と持っている。さっき話していた薬なのだろう。

 シェルリラが、シーシルと呼んだ男性の海の民は、私たちの近くまで来ると、持ってきた物をその場で見せてくれた。

びらびらとした海藻や、真珠のように見えるもの、二枚貝の貝殻に入れられたドロッとした何か、など。魚や海老も混ざっていると思ったら、そちらは私たちの食料として持ってきてくれたらしい。

これにはこういう効能がある、こう使う、と、一つずつシェルリラが私に文字と手振りで教えてくれる。解熱剤や強壮剤といったものらしい。一つは、何度聞き直しても心を穏やかにする薬、なんて感じだった。鎮静剤ということだろうか。

 受け取りはしたものの、果たしてこれを使って大丈夫なのか。シェルリラたちと私たちの体はかなり違いそうに見える。心身ともに弱っている状態のカイに与えて万が一があってはいけない。でも、好意を無碍にも出来ない。悩んだ私はまずは一つ私自身が試すことにした。状況的に見て強壮剤を選ぶ。

 また、手振りと砂に書いた単語での会話で少し時間をかけて二人に説明し、いよいよその強壮剤を飲むことになったのだが……。どう見てもびらびらとした黒っぽい海藻なのだ。それを、よく揉んで粘り気を出した状態にし食べろ、と言われて、私は一瞬躊躇う。なんだか生臭いし、黒っぽいそれは見た目的にもあまり良くはない。お世辞にも美味しそうには見えない。

とはいえ、口にせざるを得ない状況に追い込まれた私は、試しだからと小指の先ほどの小ささに切って、言われた通り指先で揉む。ねばーんと糸引く様子に、つい眉間に皺が寄った。

口にしたその海藻は予想と違い、すっとする爽やかさはあったが、口の中を粘つかせ、私はその後コップ一杯分の水を一気飲みする羽目になった。








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