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憧れるもの4


 その日の晩は、まるで宴会のような食事だった。

村の人たちも集まり、食堂は大賑わい。

全員座るには椅子が足らなくて裏の屋敷の方からもいくつか持ってきたぐらいだ。

顔馴染みが代わる代わる顔を出してくれて、おかえりと肩を叩いていく。

私は嬉しくなって、始終けらけら笑っていた。ジョッキを傾けたり、姉や姪お手製の料理を食べたりしながら、とても楽しい時間だった。


 やがて遅くまで飲んでいた宵っ張り組も帰り始めた頃、師匠に呼ばれた。

部屋に戻るからついて来て欲しいと言われ、一緒に屋敷の廊下を歩く。

九十歳を超えても、腰も曲がらず、歩く足取りもしっかりしている。

今なお、剣を持ち戦うことが出来るその姿は、我が養父ながら畏敬の念を抱かずにはいられない。


「あっちはどうだ?」


 師匠はベッドに、私は椅子に腰かけての会話はそんな問いかけから始まった。

割と政治色が強くなる私たちの会話は、確かに食堂ではできない。

守秘義務はあるが、相手が師匠なら別だ。師匠もまた私と同じ聖騎士だから、問題ない。

今も彼は『聖騎士』なのだ。

年齢から流石に引退しているようなものだが、未だに発言力も絶大だ。

同世代の人たちは既に亡くなってしまっていることもあって、彼以上に場数を踏んだ者はいない。彼に助言を求める人は今も多いし、私も、自分が扱う問題に対して迷った時はまず師匠と話をする。

でも、だからこそか、彼はもう何年も前から表舞台には出てこなくなっていた。


「相変わらずよ。本当、面倒くさいことばっか」


 そんな言葉を封切に、私はここ最近の自分がやってきた仕事について話す。

師匠は、時々相槌を打ち、ごく稀に確認したり、その時私がどう感じたか問うたりしながら聞いてくれる。こういう時の師匠は基本的に自分の意見は言わない。話すこちらが自分で考えを整理できるように手助けしてくれるだけだ。

そのやり方は、人によってはもどかしさを覚えたりするのかもしれない。だが、私にとってはそれがとても心地よかった。


「……そんなわけでさ、少しモーゲンで休んだらお隣に行ってくるよ。おそらく魔王シルバーに会ってくることになると思う」

「ふむ。シルバーか……。お前が旅立つ前に手紙を用意しておく。頼めるか?」

「了解。会ったら必ず渡すよ。……後は、明日、ちょっと二代目三代目村長とかも呼んで会議だね」

「あぁ、エマに伝えておけば大丈夫だろう。二代目校長も呼んでおこう」

「その辺は任せるよ」


 こちらの報告が粗方終われば、割と遅い時間になっていた。

両手を上げながら、ぐいと背を反らして伸ばす。


「……それはそうと、師匠からも話があるんじゃないの?」


 話があるからついてくるようにと言われて来たのに、まだ聞いていない。


「あぁ、村にいる間に、お前に一つ頼みたくてな」

「ん。なーにー?」

「休みに来たのに悪いんだが、明日、森に一緒に来て欲しい」

「森? もちろんいいけど。何かあるの?」


 思わず訊けば、微妙に険しい顔をしている。


「何も無いならいいんだがな。少し嫌な気配を感じるから確認したいだけだ」

「そう。とりあえず分かった。武装してった方がいいね?」

「あぁ」


 私は、もう一度分かった、と頷いてから、立ち上がる。

まだ険しい顔をしている養父に、ふふーっとわざと笑ってみせる。


「そーんな顔してると、おばちゃんに、らしくないって蹴飛ばされるよ?」


 ほら、ここ、皺寄ってる!と、近づけば養父の眉間に刻まれた深い皺を両手の指でちょいちょいと伸ばす。された彼はというと、まさか皺を伸ばされると思ってなかったようで、うぉ、っと一度のけぞるようにしてから、やっと笑った。


「すまんすまん。そうだな」

「師匠はもっと太々しくないと。何があっても動じない、天変地異も愛の力で薙ぎ払う零の聖騎士でしょ」

「また、えらい言われようだな」

「そういう武勲詩を聞いて育ったからねぇ」


 そんな詩になっていたか? といつものような笑顔に、ちょっとほっとする。

やはり養父には揺るぎなく在って欲しい。


「明日、朝一出発でいい?」

「あぁ、そのつもりだ」

「了解。そしたらそろそろ寝なきゃだね。部屋に戻るね、おやすみなさい」


 あぁ、おやすみ、という穏やかな声に促されるように扉へと歩く。

そこで私は一度振り返った。にっと口角を上げる。


「師匠、頼ってくれてありがとうね。今度セシルに自慢しとく!」

「ほどほどにしてやれ」

「あはは、はーい! それじゃ、本当におやすみ!」


 私のライバルとも言える二の聖騎士の名前を出したら、師匠が苦笑している。

その顔に先ほどの険しさが残っていないのを確認して、私は今度こそ部屋を出た。




ep.6は本日23:40にアップします!

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