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残されたもの10


 海を、夕焼けが染めている。

考えてみると、海をしっかりと見たことはあまり多くない。海辺に滞在したことがあるのは数回だけだ。

私は目に入った光景に、思わず手を止める。

おそらく日の角度や色のせいなのだろう。きらきらと光る水面は、日中よりも輝きを増しているように見える。波は金色に縁どられ、ただ、寄せては返す。夕方になるにつれて少しずつ強くなった風の音、そして波の音が、まるで大地の呼吸と鼓動であるかのように静かに続いている。

ごく素直に、美しいと思った。その光景も、その音さえも。

まるで大きな何かに抱かれているような、そんな感覚に陥る。


 あの後、少年の見守りを海の民二名に頼み、私とセシルはそれぞれに動いた。

まずは話していた通り、セシルは馬と荷物の回収を行い、私は村の外壁を巡って結界石の確認を行った。推測通り、外部から襲撃を受けたらしく二カ所ほどの結界石が砕けていたので、新しいものに取り換え、魔力をこめる。改めて点検すると門も上手く閉まらないようになっていた。ここは私だけでは直せないので、こちらに向かっているだろう調査隊のメンバーに修理してもらう必要がある。

とりあえずの応急処置として、セシルと協力して資材をいくつか置き、門を封鎖。そこにも結界石を設置した。

 私たち聖騎士二人だけなら焚き火だけでの野営でもなんとでもなるが、少年もいるので準備も必要だ。

比較的損壊の少ない家屋を使うことも考えたが、カイの気持ちを考えると出来なかった。破壊されているのはカイ自身の生家や、隣人の家なのだ。

検討した結果、門近くに、瓦礫から拝借した木材と持ち込んだ紐や布材などを使って、簡易なテントを張る。夜間はまだ冷えることを考えて、集落内に残っていた使えそうな毛布なども集めた。

 おそらく後発部隊と合流して調査が終わるまで数日はここに滞在することになる。しかも今回はサイルーンの集落や、過去の事例とは違い、明らかに何者かに襲撃されたように見える。なぜこの時期にこんなことが起きたのかを考えると頭が痛い。ただでさえ余裕などないのに、『欠片』絡みの行方不明とは別に、何者かが意図的に起こしたこちらの件もどうにかしなければならなくなってしまった。


「カイ、セシル、簡単だが用意できた。夕飯にしよう」

「あぁ、ありがとう」


 私はテント近くに石を組んで作った簡易な竈の鍋から、椀にスープを盛る。

具材は持ち込んだ乾燥野菜と小さく割いた干し肉。少し時間をかけて煮込むことで柔らかくなり、胃腸にも優しくなったはずだ。

今夜の夕飯はこのスープに、チーズをのせて焼いたパン。簡素だが温かいし、とりあえずの栄養としては足りる。

 残っていた海の民たちは、話せはしないものの私たちの言葉を多少は理解できるようだった。安全確保のために少し離れるから少年を見ていて欲しいと頼むと、了承してくれたのか、そのままカイの近くにいてくれた。夕方近くになって、私たちが野営の準備を終えたのを見ると、カイに何か呼吸音のような声で告げて、静かに去っていった。おそらく、本当にカイのことを案じてついていてくれたのだろう。そして、私たちのこともある程度は信用してくれたようだった。


「カイ、おいで」


 まだ、ほとんど話しすらできていない少年を呼ぶ。

そんな気分になれないのだろうが、食べてもらわないといけない。

セシルが俯いたままの少年を促して、竈の近くに置いた木箱に座らせ、私から受け取った椀とパンを少年に持たせる。少年がしっかり持ったのを確認したところで、私はセシルに彼自身の分の椀も渡した。自分のものも用意し、少年の隣においた木箱に腰を下ろす。


「さぁ、食べよう」


 私は椀とパンを膝に置き、手の指を祈りの形に組む。

お決まりの、食事できることへの感謝の言葉をゆっくりと唱える。今の少年には上手く唱えられそうにないのでその分も私が祈っておく。セシルは私の言葉に合わせ、同じように手を組み、目を伏せていた。

 私は少年に見せるようにして、スープを一口二口飲み、パンを口にする。大丈夫なものだと食べてみせる。少年はこちらの視線を感じたのか、ぼんやりとこちらを見てから手の中の椀に視線を落とした。

ゆっくりと椀から立ち上る湯気に誘われるようにして、口をつける。

そのまま、啜るようにしてスープを飲み……。お腹が空いていたのだろう。そのまま貪るようにして食べ始めた。空いた椀に、スープを今度は具を少なめにしてよそってやると、それも喉を鳴らして飲み干してしまったが、あまりの勢いに咽こみ始めた。私は、自分のと少年の椀をセシルに渡して、少年の小さな背を横から摩ってやる。


「……うぅぅ」


 丸めた背から、嗚咽がこぼれた。上手く言葉にすら出来ないのか、唸るようにくぐもった声と、何度もしゃくり上げる音が、夕闇の中響き始める。

 私は、一度セシルの方に目を向け小さく頷くと、少年の肩を抱く。やっと泣くことができた少年に、私はいつまでも寄り添っていた。



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