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残されたもの7


 翌朝、宣言通り夜明け前には動き出し、再び馬で駆けた。

その甲斐あって、目的地であるバレーラの漁港が見えてきたのは、お日様が天頂に至る前だった。

私たちは漁村の入り口手前で立ち止まる。

なんだか様子が、おかしい。

いや、村人全員がいなくなっているのだから、様子はおかしくて当たり前ではあるのだけども。


「……セシル」

「あぁ」


 返る相槌の響きは暗い。

馬の背から降り、様子を窺う。一度、彼と目を合わせ頷く。

傍らの馬の顔を見、目を合わせる。鞍から荷物を下ろし、「ありがと」と呟いて馬の手綱を手放した。ぽん、と馬の尻を叩く。横ではセシルが自分の乗ってきた馬に同じようにしてやっていた。馬は心得たとばかり、私たちを置いて歩き出す。これで、どこか近くの草地でのんびり草を食べながら、呼ばれるのを待っていてくれるはずだ。

万が一呼んでも馬が帰ってこなかった場合は、私たちは帰りの足を失ったわけだが、ここに私たちが来ていることを知っている者は多い。王都からは編成し次第調査隊の人員を送り出してくれているはずだし、この近隣一帯に来るための経由地であるフォーストンの各所には帰路でも声をかけると言ってある。それに、一定期間呼ばれなかったら帰るよう訓練されている馬たちだけが戻れば、騎士団も動き出すだろう。

万が一、私たちが消息を絶てば、関係各所が数日内に確認に来るはずだ。


「セシル、考えられる可能性としてどれだと思う?」


 私は物音を立てないように木の陰にしゃがみ村の門を窺いながら言う。

探査の魔法を使った私の視界には、漁村の奥の方に何かが数体いるように見えている。人だろうか。大人にしては少し小さい気がする。また、なぜか奥の方に集まっている。

また、漁村の家屋の一つからは、煙がたなびいていた。その家屋で煮炊きをしていたりしたら、極普通に出てきそうな量だ。火災が起きているとかではなさそうな、そんな、煙。

無人になった村では、起こりえないこと。誰か、もしくは何かが、ここにいる。


「一、実は行方不明なんて起きていない。二、行方不明発生後に誰か……もしくは何かが侵入している。三、その他」


 私の横で村の様子を見ていたセシルは、視線をこちらに向けず、ふむ、と唸る。

ほんの僅かだけ考える間が空いた。


「一はなしだな。村人が無事ならば漁港側に人気が無さ過ぎる。また、誤報連絡が来る理由が見当たらない。ここは村全体の封鎖状況が甘そうだから二はありそうだが、なら、なぜ侵入しているか、何が侵入しているかが問題だな。ありそうなパターンとしては野盗か、獣あたりか。……三としては、今までと違い村人全員ではなく一部のみが行方不明となっている可能性、ってところか」


 淡々と紡がれた言葉に、そうね、と、今度はこちらが頷く。


「どちらにせよ、確認するしかないわね。……私がいくわ。私の方が何か起きても咄嗟に防御しやすいし、見た目的に油断させやすいから」


 言いながらマントをとめていた金具を外す。前をマントで完全に隠してしまえば、聖騎士の制服は見えない。念には念を入れて白いスカーフは外して、首元にはマントに似た色の他の布を巻く。長い髪を手でまとめ、さっき外したスカーフできゅっと束ねた。剣はそのまま身につけておく。とりあえず聖騎士だとバレなければいくらでも動きようはある。旅人か冒険者だと思わせておけばいい。


「わかった。ここよりもう少し入口近くで待機する。いつでも出られるようにしておくから、合図をくれ」

「了解。ま、大丈夫よ。何か見つけたら呼ぶわ」


 馬から下ろした分の荷物はセシルに預ける。どこか適当に隠しておいてくれるだろう。私は腰の剣とポーチをもう一度確認した後、一つ息を吐く。


「よし、いってくる」


 言った私の背を、セシルがぽんと軽く叩いた。私は屈んだまま少し移動してから、ゆっくりと体を起こす。さも街道を歩いてきた風に漁村の入口へと歩を進める。何気ない様子で周囲に視線をやり、様子を窺う。旅の途中で立ち寄った風に、きょろりと海の方へと視線を向ける。

 街道側からも見える小さな湾には、漁船らしい小さな船が何艘か浮いていた。昼間の日差しを跳ね返して、海面がきらきらと光っている。遠くからも分かる澄んだ綺麗な海だ。

こんなことがなければ、ごく普通に訪れてその景色を楽しみたかった。もっと温かな季節なら、きっと泳いでも楽しかっただろう。


 なんとなく訪れた旅人を装ったまま、入り口に辿り着いた。

門は開きっぱなしになっている。確か今回の発見者はこの村に日頃から出入りしていた商人だったはずだ。報告を受けて日は経っているが、距離があったこと、そして近くに他の村がなかったことからまだフォーストンの騎士団から人を派遣したりしていないと聞いている。

だから、門が開いていることは、まぁいい。商人がびっくりしてそのままにしてしまったのだろう。


「すみませーん」


 私は敢えて呑気な声で言う。本来だったら門番か当番の誰かがいただろう、門横の建物を覗く……ふりをして、開いた門から中の様子を見る。


「……っ!!」


 私は、見えた光景に思わず息を呑んだ。


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