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あの頃の日常


 モーゲンに聖騎士の養成校が出来たのは、私が八つになった頃だった。

学校の設立を最も喜んだのは、多分私だろう。

光の祝福しか貰っていないのに聖騎士になると言い張り、王都の騎士学校に入学。騎士になる為の訓練を受けながら、放課後には神殿で見習い司祭向けの講義も受けていた私は、養成校が出来たことでやっと聖騎士見習い専用のカリキュラムを受けることが出来るようになった。しかも学校が出来た場所は実家のあるモーゲンで、教官は養父母や顔馴染みの冒険者や司祭たちだ。

聖騎士である養父に憧れていた私は、養父直々に訓練を付けてもらえるようになった。しかも、適性があるからと習うことになった神聖魔法の一部は、聖女である養母から教えて貰えるのだ。

養成校での訓練はそれなりに大変なものだったが、それでも毎日が充実していて楽しかった。


 開校当初、聖騎士の養成校に入ったのは、私とセシルの二人だけだった。

元々聖騎士の適正とされる、身体強化と光の組み合わせで祝福を貰う子どもは多くはない。しかも、開校前は育成機関もないなんて状態だったのだ。むしろ、よく二人も集まったなんて思われていたらしい。

聖騎士の養成校と言えど、当時の私たちは普通の学校も卒業していないような子どもだ。

読み書きや計算、この国のことや生活魔法など、基礎教養の授業も当然あった。

そして、そういった授業をするならば……と、村の子どもたちのうち、特殊な学校に行く必要がない子は、聖騎士養成校の授業の一部を一緒に受けることになった。その方が何かと合理的だからね。

……私、セシル、そして、村で獣医としての修業をしていた同じ年で幼馴染のトゥーレの三人は、毎日一緒に勉強をするようになったのだった。




「リチェ、ここ間違ってる」

「え、どこどこ!?」


 出された課題をノートに書いていたら、横からトゥーレが指摘した。私は慌ててそこを見る。正しく書かないと何度でもやり直しを食らう。何時間だろうと直しきるまで終わらない。

「ここだよ」と、トゥーレが私のノートを指差す。今日の課題は、この国や周辺に住まう多様な種族について、だ。こっちが正解、と、教科書の該当ページを開いて教えてくれた。

 小さな教室には私たち三人しかいない。授業中も相談したり意見を言い合えるようにと、私たちの机は前に二人、その真ん中に少し下げて一人、なんて下向き三角形みたいに配置されている。

その真ん中が私で、前二人がセシルとトゥーレだ。多分、この先も卒業までずっとこの席順だろう。年少の子たちが入ってきても、進み具合が違うから私たちの教室に子どもが増えることはきっとない。


「あ、本当だ。トゥーレ、ありがと!」

「どういたしまして」


 お礼を言えば、はにかんだ笑みが返ってきた。私の幼馴染は可愛い、と、私は嬉しくなる。へへっと笑い合っていれば、横からぶすっとした声が飛んできた。


「お前、俺が教えてやった時と態度が違い過ぎ!」

「だって、セシルは無駄に偉そうなんだもん!」

「間違ってるお前よりは偉いで合ってるだろ」

「うるさい。いーーっだ!」


 嫌な言い方をしたセシルに、私は口の両端を指で引っ張ってみせる。セシルも指は使わなかったけれど、似たような顔をしてこちらを威嚇した。


「喧嘩はやめてよ。リチェ、課題終わらせよう。自由時間なくなっちゃうよ」


 そんな私たちを止めるのは、いつもトゥーレだ。仲良くしてよ、と困ったように笑っている。

トゥーレはこの中で一番誕生日が早いからか、それとも賑やかな双子の妹たちの世話をよくみているからか、優しい性格も相まって、私たちの中ではお兄ちゃんみたいな立場だった。

真面目で世話焼きな性格だったから、どうにも座学は得意じゃなかった私の勉強もよく見てくれたし、悩んでいたりすると親身になってきいてくれた。セシルもトゥーレには素直だ。

学校が出来る前からの幼馴染で、何気に将来結婚しようなんて言っていたのもあって、私とトゥーレはとても仲が良かった。

それがセシルは気に入らないらしい。何かにつけて突っかかってくる。それも私にばかりだ。トゥーレとは仲がいい。もしかして、トゥーレと仲がいい私に嫉妬しているのかもしれない。


「まったくさ、リチェがバカから、俺らまで居残りじゃないか」

「なにー! バカっていうな、バカっ!」

「なんだ、やんのか、イノシシ女!」

「イノシシじゃない! 人とイノシシの見分けもつかないの? セシルのバカ!」


 ガタンと音を立てて私が立ち上がれば、セシルも立ち上がる。


「イノシシと同じだろ、大して強くもないのにすぐ突っかかってくるし!」

「よーし、訓練所で勝負しようじゃん! 私が勝ったら、リチェはすごく強い、俺が間違ってたって言ってよね!」

「望むところだ。返り討ちにしてやる!」


 睨みながら言い合えば、唐突に横から、パチン!っと大きな音がした。

びっくりして私もセシルもそちらを向けば、トゥーレが両手を叩いた後の姿勢でにこやかにこちらを見ていた。どうやら今の音は、トゥーレが拍手した音だったらしい。


「リチェ、セシル、座ろうか」


 いつもと同じ優しい声なのに、響きがちょっと怖い。口は笑っているのに目は笑っていない。


「……う、うん」

「あぁ……」


 言われた私たちは、すとんと椅子に座る。


「リチェはさっさと課題終わらせようね? セシルはもうちょっとだから僕と待っていようね?」


 私はこくこくと頷く。他にもここがね、と、トゥーレがもう一つ間違いを指摘してくれたので、慌ててそこを書き直す。セシルはそんな私たちをじーっと見ている。なんか少し不貞腐れたような顔をしてるけど、なんでだろう。




 ……私たちは、いつもこんな感じだった。

時にはそれぞれ得意なことを伸ばすために個別授業で別々のこともあったけれど、三人一緒にいる時間はとても長くて、自然と補い合いもしていた。

適性が違うトゥーレは聖騎士になるわけではなかったけれど、それでも三人一緒に育った。

一緒に大人になっていくのだと信じて疑わなかった――……。




短編集:

リチェとトゥーレが結婚の約束をした時のお話

 https://ncode.syosetu.com/n9890ju/37


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