残されたもの4
エールの代わりに炭酸水で割られたジュースを飲みながら、料理に舌鼓を打つ。
ウェイトレスが自信を持って言っていた通り、どれも美味しい。
魚介のパエリアには大きな海老や切り身の魚がのり、スパイシーに味付けされた米は多少の焦げすらも香ばしくて後を引く。わさっと皿に盛られたサラダはハーブも含め何種類もの葉が混ざっていた。
串焼きは魚介と野菜、それに肉も混ざっていて食べ応えがあるし、鶏の煮込みはシンプルな味付けで添えられたキャベツがくったり柔らかくなるまでしっかり煮込まれていた。
サイルーンを発ってから動き続けていたこともあって、疲れも出ているし、気付いていなかったがお腹も減っていたらしい。若い頃と同じつもりで動くと、ふと我に返った時に想像以上に疲弊している自分に困惑する。
酒場料理なのにしっかり手が掛けられていてじんわり体に沁みる。どこか実家の食堂を思い出す、そんな味に、私は夢中で食べていたらしい。気が付いたら無言のまま半分以上食べて終わっていた。
「……少しは満たされたか?」
どうやら黙々と食べまくっていた私を観察していたらしい。セシルが苦笑交じりに言う。
いつものちょっと皮肉っぽい感じはない。子どもを見守っている時みたいな顔をしている。……ってことは、私は子ども扱いされていたのか。
「……だって美味しかったんだもの」
「そうだな。確かに美味い」
言いつつ、美味そうに串焼きの肉を食べている。貴族出身なこともあって、こんな場でもなんとなく食べ方が綺麗だ。串にかぶり付いているのにどこか優雅で品がある。どの辺に品があるのかは何度見ても上手く説明できそうにはないけれども。
「リチェ、そういえば師匠からの手紙、なんて書いてあった?」
「あっ」
言われて存在を思い出した。食事中に読むのは行儀悪いかとも思うのだが、何せ時間がない。食べ終わり、ジャックから情報を貰ったらすぐにまた出立だ。私は脱いで避けておいた上着に手を伸ばし、ポケットの中を漁る。師匠からとしては珍しくしっかり施された封蝋に目が行く。押し印は樹木を模したもの。その意味に一瞬止まれば、いつの間にかセシルが横から覗き込んでいた。
「開けるよ」
どうせ、二の聖騎士であるセシルが読んで困る内容は書いてあるまい。そう判断して、封をぺりりと剥がす。出てきたのは数枚の手紙と地図だ。地図の方はあちこちに印が付いている。
「……こっちは俺宛か」
「みたいね」
一緒に行動していることを予測されたのか、便箋の一枚にはセシル宛になっていた。私宛も一枚ある。残りは特に宛先が書いてないから二人で読めということだろう。整っているようで癖のある、師匠の字を読みながら、私は添付された地図をもう一度見る。
「……ん」
先に自分宛の一枚を読んでいたセシルに、宛名なしの便箋と地図を渡し……、私は肺の中に溜まっていた空気を吐き出した。一度目を瞑り、思考を止めてから自分宛ての便箋を開く。その内容を見てから閉じる。こっちに書いてあったのはお小言だった。そんなことは滅多にしない人だから珍しいと言えば珍しい。しかし、今、言われても困る内容に、無言のままその便箋を小さく畳んで再び上着の胸ポケットに戻す。
「……バレーラの後はヴェルデアリアか」
「ヴェルデアリアって、あれでしょ。師匠たちがでっかい蛇を倒したところ」
「あぁ、旧学園街ヴェルデアリア。多頭の蛇を討伐したところだ」
過去最大規模の魔素溜まりと、大きな『欠片』があったと、実際に処理した師匠たち本人から、候補生時代に話を聞いた場所だ。子どもの頃は、すごい! カッコいい! と物語か何かのように何度も話してくれとせがんで聞いた。でも、今の自分の立場で考えると、無邪気にすごいと称賛するわけにはいかない。もし今、同じ魔物が出た場合、それと対峙することになるのは私たちなのだから。
「……とりあえず、残りを食べちゃおう。まずはバレーラをどうにかしないと」
「そうだな」
二人揃ってため息をつく。あまりに同じタイミングだったから、つい笑ってしまった。
「ねぇ、セシル」
再び着席した男がこちらを見る。目で続きを促してきた。
「……私たちは、何と戦わされているんだろうね」
「さぁな」
肩を竦めてから、セシルがまた食べ始める。
変なタイミングで小休止を挟んでしまったおかげで、私の方は結構お腹いっぱいだ。言えば料理を包んでもらえるだろうか。串焼きぐらいなら野営の時にも食べられそうな気がする。ついでだから、何か飲み物も瓶で分けて貰ったらいいかもしれない。
「……実家に帰って、自分の部屋で一週間ぐらい寝倒したい」
「奇遇だな、俺も同じことを考えていた」
実家じゃなくどこか宿のベッドでもいいがな、と、付け加えて、彼は残っていたジュースを、まるでエールか何かのように飲み干した。




