残されたもの1
第二章開幕です!
馬でひた走る。
今回は、経由地で馬をどんどん取り換えていくのが分かっていたので、ブライアは留守番だ。
サイルーンから王都に急ぎ戻り、報告を受けいくつか指示を飛ばした後、休む間もなく出発した。
次の被害地は王都より南へ下り、商業都市フォーストンから更に南、小さな漁村だという。
通常であれば、フォーストンまでで馬車で一日半。そこから先が更に一日ぐらいの距離だ。
しかし、時間が惜しいので、経由地で馬を交換しながら可能な限り最大速度をもって行くことを選んだ。
道中は食事などの最低限の休憩のみで、可能な限り夜間も走る。
文句を言われるかと思ったが、セシルは何も言わなかった。こちらが部下たちに指示を出している間に準備を行い、道中必要なものを用意してくれていた。
「セシル、そろそろ一度休憩いれる?」
「いや、まだだ。この先にまだ結構あるが野営できるところがある」
「……よく覚えてるね。って野営はしないでしょ?」
「出る前に地図を確認してきた」
その有能さが時々癪に障るけれど、味方としては本当に頼りになる男だ。
ちなみに私は道の確認まではしてきていない。フォーストンは私自身の生まれ故郷だからだ。この辺りの地図はなんとなく頭に入っている。現場は流石に行ったことがない場所だが、途中までは街道が整備してあることを知っていたので、行程の最後の方を軽く見ただけだ。
私の少し前を走るその背に、「便利なやつ」なんて呟けば、ちらりと視線が飛んできた。なんだろう、鼻で笑われたような気がする。
「今夜なんだが」
「ん?」
今日は満月らしい。明るい空に白く丸い月が浮かんでいる。
今はまだ青空だが、そろそろ日が傾き始めている。空が赤く染まりはじめるのも、もうすぐだろう。
サイルーンからかなり南下したおかげで、日がある今は寒さを感じない。でも、日が落ちたら冷え込むかもしれない。
「このまま休憩を入れずに走っても、目的地につくのはまだ当分先だ。この後の行程を考えると少し休んだ方が良い」
着いた時に疲れ切っていては動けないからな、と、小さくため息混じりの声が続けた。
多分、この言い方が良くないのだ。素直に心配しているとか言えばいいのに。
セシルは馬の手綱を操り、馬の速度を緩めてこちらと並ぶ。自然、こちらもその歩調に合わせることになった。
「で?」
並んだ相手の方を向く。賢い馬たちは乗っている者が喋っていても緩めた速さで走り続けてくれる。
続きを促せば、セシルは地図でも思い出しているのか少しの間、目を細め、それから応えた。
「当初の予定通り、まずはフォーストンで馬を換える。夜、門が開く前に街を出て月明かりがあるうちは進み、月が沈んだ時点で野営しよう。明日は日が昇ったらまた動けばいい」
「その場合のメリットは?」
「体力の温存と、現地につくのが明るい時間になる」
調査は明るい方がやりやすい。当たり前のことだが。
「デメリットは?」
「到着が最大で五時間ほど遅くなる」
提案に、私は考える。
現地には早く着きたい。報告を寄越した者が軽く確認はしてくれているが、その集落の者が消えてしまったと分かった時点で即座に閉鎖して、まだ大した調査も出来ていないはずだ。
サイルーンの時のように、現場にあのきらきらと光る『何か』が残っていることも考えられるが、ただ、それを期待するには次の現場は遠すぎた。
異変を確認されてから王都まで連絡が行くまでに既に何日も経過している。私たちに知らされたのはそこから更に一日後。
朝発覚して即座に向かい、その日の晩に到着できたサイルーンとは違う。過去の他の現場と同じように、残っていないと見るのが妥当だろう。
「……わかった。ただ、一個条件つけるわ」
「なんだ?」
「食事はフォーストンでしよう」
味気ない携帯食より、そっちの方が絶対美味しい。そう言えば、「だな」と苦笑が返ってきた。
育ったモーゲンの村の食事は、どれも素朴だがしっかり手を掛けられていて美味しかった。村の中にあった聖騎士の養成校もそうだ。おかげで私たちは割と舌が肥えてしまっている。必要とあれば何食も抜いたまま活動したり、携帯食で済ませるのも受け入れるが、可能ならやはり温かい食事がとりたい。
「そうと決まったら、ささっとフォーストンに行きましょ。どうせなら情報収集もした方がいいだろうしね」
何を食べようかな、なんて言えば、また笑われた。




