憧れるもの28
肩で息をする。横を向けば、似たように体を上下させている二の聖騎士がいた。
その黒い瞳に、目の前で燃えている魔物の炎が映っている。
剣を構えたまま私は、意識を集中する。視界に被る探査の魔法。炎の中段々と目の前にあった光が消えていく。それを確認してから、ゆっくりと視線を巡らせた。
残る小さな魔物たちも僅かのようだ。浄化を行えばその光に耐えられず霧散することだろう。
念のため、目の前の炎が消えるまで、その魔物の反応が完全になくなるまで確認してから、剣を治める。
「戦闘終了。お疲れ様っ!」
燃え切った後、灰すら残らなかった魔物の居た場所を一瞥して、振り返る。
振り返るついでに、とん、と、一度だけセシルの肩を叩いた。
「各自、被害報告を!」
言いながら、ゆっくりとクリスたちの方へと歩いていく。
それぞれから、特に怪我はしていないと応えがあれば頷き、司祭の方を向く。
「ゲイル、セシルの治癒を。何度か叩かれていた」
「あなたは?」
「私は自分で治せる範囲だから大丈夫」
確認するような司祭の表情に、にっと笑ってみせる。
「この後浄化もしなきゃみたいだから、あいつを治し終わったらポーションを飲んでおいて」
「承知いたしました」
葉の魔物が完全に燃え切った場所を確認している二の聖騎士の元に、司祭が走って行く。
それを見送って、私は騎士たちの方を向く。
「ユノー、レオン、護衛役お疲れ様。後衛の心配をしないで済んだから助かったわ。悪いのだけど門の確認を。調査が終わったらまた封鎖するから」
「了解です」
「お任せください」
労いの言葉と共に次の指示を出す。さっき開門させる時、即座に戦闘に入れるようかなり乱暴な開け方をさせた。物理的に破損していてはこの後困るので、必要に応じて修理しなければならない。裏方めいた役割だが笑顔で引き受けてくれた二人に、私は「ありがと」と笑む。
「クリス、いてくれて助かった。……セティ、怖くなかった?」
「どういたしまして」
微笑む師の横で、何か言いかけて口を閉じ、また言いかける少年魔導士に、私は屈んで視線を合わせる。
「……悔しいけど、怖かった」
「それでいいんだよ」
どうやら認めるのが嫌だったようだ。不貞腐れた顔で言うそんな言葉に、私は破顔する。両手をぽんと少年の肩において、言う。
「怖くていいの。あれは怖いものだから。それでも怯まず皆と一緒に戦ったセティは偉い。よく頑張った」
「……俺だって魔導士だし。それに羽虫焼いてただけだし」
「ユノーとレオンはあれは倒せなかったからね。とても助かったよ。ありがとう」
もごもごと言う様子が微笑ましい。礼を言えばそっぽを向いてしまった。
私は立ち上がれば、クリスに目を合わせる。聞こえるように言えばきっと少年はもっと照れるだろうから、魔導師と目だけで会話する。いい弟子を持ったね、なんて私の音のない声に、クリスは自慢げに頷いた。
「暁、ネズミは任せていい?」
最後に銀狼に言えば、了承したと言わんばかりに、さっと走って行った。
これでネズミ型の魔物は彼が倒してくれることだろう。
一通りの指示を出し終わったので、私は皆が動き出すのを見ながら腰のポーチからポーション瓶を1つ出す。それを手にしたまま、一度目を閉じ、ゆっくりと魔力を巡らせて自分の状態を確認する。いくつか打ち身やかすり傷があるが、大きな怪我はしていない。先にゲイルに言った通り、自分で治せる範囲だ。
「……光よ、我を照らせ。この身に、光の加護を」
小さく謡うようにして韻を踏み、呪文を唱える。
淡い光が私の体に添うように現れて、すっと染み込むように消えていった。
鈍く主張していた太ももの痛みが引き、心なしか体が軽くなったように感じる。
私は、その場でとんとんとつま先で地面を叩き、その振動が体に響いてもどこも痛まないことを確認した。
「さてと、美味しくないのを飲みますか」
言って、ポーション瓶の蓋を開ける。腰に手をやり、一気に煽る。
魔力回復ポーションの味を改善することに、誰かもう少し尽力してくれないだろうか。
何故かやたらと甘ったるく、喉に絡みつくそれは、濃い酒やシロップから無理矢理風味とアルコールを飛ばしたような味がする。
そういえば、子どもの頃、養母がレモン水で割って飲ませてくれたりしたな、なんて思い出す。
原液では飲みづらいポーションも、何倍にも薄めて、おまけにレモンの清涼感まで足せば、おかわりと言いたくなるような飲み物になった。
「……帰ったら美味しいものが食べたいなぁ」
中身が空になって役割を終え、瓶がしゅんと消える。
空になった手で自分の喉元を何度か摩り、喉に引っ掛かった甘さが消えると共に、随分と減っていた魔力が再び体に満ちていく。
美味しいもの。お酒でもいいな、領主館に戻らずサイルーンの街の酒場でエールとかでもいいかもしれない。それにシンプルに茹でたソーセージとか。この辺りの名物はなんだったか。
私は、街でちらりと見えた酒場の様子を思い出しながら、ゆっくりと歩き出した。




