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憧れるもの2


 モーゲンは、少し変わった村だ。

王都から馬で約一時間。

その気になれば毎日通うこともできる近距離でありながら、農村ならではの牧歌的な風景が広がり、そうかと思えば、王国内最高峰とも言える学校があったりする。

計画的に作られた村は、私が暮らし始めた頃に比べると幾分大きくなったとはいえ、移住希望者をどんどん受け入れて街になったりすることはなかった。

拓かれてから六十年経った今も、モーゲンは穏やかで美しい村のままだ。


「ただいまー。エマ姉、いるー?」

「……わぁ、リチェだ!!」


 村の広場に面した三角屋根。

モーゲンのほぼ真ん中に位置する食堂の扉を開けて呼べば、出てきたのは姉ではなく姉の孫だった。

厨房の方から元気よく走ってきた幼子を慌てて抱き止める。


「こら、タロン! いきなり走って行かない! あと呼び捨てダメ! リチェさんでしょ!」

「いいよいいよ、ウィノナ。……タロン、大きくなったねぇ。いくつになった?」

「いつつ!」


 抱き止めた勢いを逃がすように持ち上げてやれば、ずっしり重くなっていた。男の子は小さくても骨太だし筋肉がしっかりしている。

そのまま、高い高いと抱き上げてやれば大喜びで笑っている。母親のウィノナがこちらを少し申し訳なさそうな顔で見ている。大丈夫だよ、と笑ってみせればやっと彼女も頬を緩めた。


「ウィノナも久しぶりだね。元気そうで何より」

「リチェさん、おかえりなさい。今回はしばらくゆっくりできるの?」

「うん、そのつもり。……ところで姉さんは?」

「母さんは裏。屋敷の方。今日、天気が良いからカーテン全部洗うって言い出して。まだやってるんじゃないかなぁ」

「あー、姉さん昔からやる時は徹底的だったからなぁ」


 その様子を思い浮かべて、私は苦笑した。

抱き上げられた状態で、わきゃわきゃと楽しそうに暴れているタロンを下ろす。

もっとー、とねだるの頭をわしわしと乱暴に撫でてから、背を押して母親の方へと押し戻した。


「それじゃあ、今日の夕飯はエマ姉じゃなくウィノナの料理なのね。」

「ん-、今夜は半々かな。もうちょっとしたら母さんも戻ってきて作るって言ってたし」

「ふむ。それはもしかして良いとこどり、ってやつだね!」

「あはは。リチェさんありがと! サービスで今からグラタン追加で作ってあげる」

「わー、嬉しいっ!」


 好物を追加してくれるという姪に、ありがとうと礼を言ってから食堂の奥へと進んでいく。

出てからもう随分経つが、勝手知ったる実家だ。今も自分の部屋が残っている。

厨房横の扉を開けて、裏の屋敷へと入ればどこか懐かしい匂いがした。


「……おかえりなさい、リチェ」

「ただいま、ミリエル。またしばらくお世話になるよ」


 屋敷側に入ってすぐのところで拭き掃除をしていた小さなメイドが、優しい微笑みを浮かべ挨拶してくれた。

私が小さな頃から姿の変わらない彼女は、精霊。

今は亡き養母に仕えていた、おそらくこの世界で唯一の自我を持った精霊だ。


「エマ姉はどこにいる?」

「二階に。リドと一緒ですよ」

「了解。ありがと!」


 私は教えて貰った二階への階段をあがろうとして、思い出す。

背負っていた鞄から小さな瓶を出せば、ぽいと精霊に投げ渡した。ミリエルは器用にそれを受け取る。


「ミリ、それお土産ね。好きに食べていいよ」

「ありがとうございます」


 ふわりと柔らかく微笑んだ精霊に背を向けて、私は今度こそ二階への階段を上った。




 さて、そろそろ自己紹介でもしてみようか。

私はリチェ。

色々あって、外ではリチェルカーレと名乗っている。

生まれはフォーストンだが、育ちはここ、モーゲン。

私は五つの時に、ここで食堂を営んでいた養母に、姉と共に引き取られてきた。

養父母はなかなかにすごい人でね。

その背中を見ていた私は、六つで祝福を貰った直後に、養父に宣言したらしい。「私は聖騎士になる!」と。

幸いかなり強めの光の祝福を貰えはしたが、貰ったのはそれ一つだけ。

歴代の聖騎士は光の祝福の他に身体強化系の祝福も貰っていた人がほとんど。しかも全員男性だ。

女子で身体強化も持たない状態では、まず騎士になるのすら難しいとも言われたのだが、子どもの頃の私は諦めなかった。

今思えば、売り言葉に買い言葉もいいところだったのかもね。

何はともあれ、負けず嫌いの私は周りに難しいと言われれば言われるほどムキになって頑張り、結果、本当に聖騎士になってしまった。

……まぁ、そうできたのは養父母の存在がかなり大きかったのは認める。

それでも、聖騎士の宣誓を行った時は最高の気分だった。

 現在、王国内にいる聖騎士は全部で五人。

うち一人はちょっと例外的な存在だから省くとして、私はその中で一の聖騎士と呼ばれる存在になった。

流石に身体強化なしに女の体だから、体力や剣技では敵わない相手も居る。

それでも、聖騎士だからね。

神聖魔法と組み合わせた戦い方はそこそこの評価を貰っているし、さっきみたいに立場もそれなりに、だ。

……もっとも、神樹が切り倒されて、その影響がない、今のご時世。

この立場やら実力を使う相手は魔物相手ではなく、人同士の小競り合いなどがほとんどだけども、ね。




ep.4は本日22:40にアップします!


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