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憧れるもの27


 四十年前、聖女の背より解き放たれた神樹が地に具現化し、故郷には魔物が溢れた。

幼かった私はその戦いを、堅牢に守られた村の教会の中で経験した。

湖の中央に空を覆うようにしてそそり立った神樹。その元へと赴く養父母。窓から見える世界は神樹の影で真っ暗になった。その中、姉たちにせがんで出してもらった無数の光がくれた希望を、私は今でも覚えている。村内部まで入ってきた魔物の群れと村の大人たちが戦った。モーゲンに応援に駆け付けた冒険者の中には、当時まだ少年だったクリスもいた。

 黒化した神樹が齎した、葉の魔物。

それは獣が変容してなった魔物とは違い、物理的な攻撃だけでは倒すことが出来ない。

表面を覆う無数の管が攻撃を受けて組変わる間動きを止めるだけで、ダメージが入らないのだ。

剣で倒すためには何かの属性魔法をのせてやるしかない。

 実際に葉の魔物と戦うことになった養父母たちは、それを戦闘中に観察することで、自分たちで導き出すしかなかった。戦いながら一つずつ試すしかなかった。

……それに比べたら、先に情報を与えられている私たちはなんと恵まれているのだろう。


「はっ!」


 広場中央におびき出した魔物の腕に、光を纏った剣で斬りつける。

その瞬間に、ぶんと腕を振るう反撃が来た。織り込み済みだった私はその衝撃を使って後方へと飛ぶ。

振るい戻る勢いを使って、間合いに入っていたセシルがその腕を斬り落とし、離脱する。

間髪入れずに本体から離れた魔物の腕をクリスの魔法が焼き払った。

しかし、葉の魔物は、失った腕を他の部分から管を伸ばし再生する。

大きさこそは腕を斬り落とす前より僅かばかり小さくなったが、また同じ腕がだらりと長い人型へと戻っていく。


「魔導士セティが命ずる、炎よ、魔物を焼け!」


 門近くから、高い声が響いた。まだ声変わりしていない少年の放つ魔法が、後衛たちへと向かった羽虫たちを焼き払う。

今回同行している騎士たちは攻撃系の魔法を使えない。彼らは、後衛陣を守り元ネズミだろう獣型の魔物を中心に倒し続けている。そんな騎士たちを守るようにして、瘴気から発生してしまった羽虫型の魔物は少年魔導士が率先して倒している。

あちらに向かっている魔物は数は多いが、一匹一匹はとても小さく弱い。銀狼も護衛役に回っているので特に問題はないだろう。今のところあちらは誰も負傷している様子もない。


 ぎぃぃーーー……と、魔物が鳴いた。


 私はその場から飛び退くようにして立ち位置を変えると、魔物と後衛の間に走り、剣を構える。略式だが正確に韻をふむ。鋭く叫ぶようにして唱えた呪文に呼応して手の剣が煌めいた。


「守護盾っ!!」


 唱え終わる直前、セシルが私の後ろへと走り込んでくる。それと同時に魔物が口を開けた。

暗く広がるその孔から、耳を覆いたくなるような声と共に、闇を纏った衝撃波が放たれる。


「……っ」


 両足を開き、その場で剣を構え続ける。目の前で光の盾が、きらきらと反応し光っている。守護盾を超えてやってきた圧に、顔を顰めながら耐える。略式だから強度が足らないかもしれない。目の前でガラスに亀裂が入るように、ぴしり、ぴし、と嫌な音がする。

奥歯を食いしばり、その様子を見つめる。今から新たな詠唱を始めても間に合うか……それなら、いっそ……。


「光よ! 我らを守れ、守護盾っ!!」


 じり、と、左足を引き、走り出すための重心移動をしたところで、背後から肩を掴まれた。

目の前で、私の出した守護盾が完全に砕け散る。光の破片となって霧散したところに、新たな盾が出現した。背後からのよく通る声。ゲイルの詠唱が間に合ったらしい。略式ではなく全文詠唱したらしい強度をもって、展開される。

 前方からの圧から解放され、一つ大きく肩で息を落とす。

私は自分を引き留めた相手……右側に並び立ったセシルに、ちらりと視線をやる。前を見据えたままの横顔に、また前を向く。


「止まったらいくよ」

「あぁ」


 目の前でゲイルの守護盾が魔物の攻撃を受け止め、眩く光っている。


「クリスっ!」

「えぇっ」


 私は魔導師の名を呼ぶ。私たち二人の様子から察してくれたのだろう、分かっているという風に声が返ってきた。そのまま柔らかなテノールが詠唱を始める。

 この場にクリスがいてくれたのは幸いだった。私やセシル単体でも普通の魔物であれば討伐できるが、無形相手では話が違う。調査のために呼んだつもりだったが、彼がいてくれたことでここで戦うという選択肢を得ることが出来た。いなかった場合は間違いなく引き返し、人員を揃えてから挑むことを選んだはずだ。そして、その場合は内部の魔素溜まりが時間経過で更に濃くなり、苦戦を強いられていたはずだ。


 見つめる先、守護盾の光の向こう、ゆっくりと魔物が暗い口を閉じ始める。

耳を塞ぎたくなるようなその声は、数日前『何か』にちょっかいを出した時の耳鳴りに似ていた。

なるほど、と、私は笑う。


 声が止むと同時に、二人同時に走り出す。

左から回り込む私の方が若干早い。左上から斜めに魔物へ斬りつける。半拍遅れてセシルが右下から斬り上げた。


「偉大なる魔導師ロドヴィックが弟子、星芒の賢者クリスが命ずる。

 渦巻く炎よ 眩く熱き光と共に浄化を司るものよ

 その力を今ここに示せ、彼の敵を焼き払え!!」


 咆哮の余韻で反応が鈍くなっていた魔物は、上下二つに切り分けられ、魔導師の魔法により焼かれた。





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