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憧れるもの25


 目的地の集落までは、あと僅かだ。人の足で歩いても十分もかからない。

それなのに今まで感じなかったのは、クリスたちがかけてくれた雨除けの魔法に、微弱な気配が紛れてしまっていたのだろう。

同行している司祭はまだ感じていなかったことも考えれば、この距離まできたからこそ感じられたというのもあるかもしれない。


「全員待機。まだここは大丈夫。各自戦闘の準備を始めていて」


 言えば、同行者全員から応えがあった。


「……セシル」


 二の聖騎士の名を呼びつつ、ブライアの背から降りた。

頭の中では今いるメンバーでの陣形をパズルのように組み立て始める。ここに居る全員、得意不得意も含め把握している。集落の様子を思い出しながら配置を考えていく。

私と同じように馬から降りたセシルが横に来れば、見上げる。


「おそらく、集落に魔物がいるわ。行けば戦闘になる」

「そうらしいな」


 私と銀狼の様子から察したのだろう。頷きが返ってくる。


「……」


 彼は私の顔をしばらく見つめてから、渋面のままもう一度頷いた。


「どう戦う?」

「ありがと」


 行かないという選択肢が私の中にないと見て取ったらしい。無駄を省いて、必要なことだけ訊いてきた。私は小さく笑って礼を言う。


「まず馬はここに置いていくわ。その上で全員でいく」


 一瞬、まだ見習いでほとんど戦闘経験のないセティと、彼の護衛として騎士を一人置いていくことも考えたが、即座にその案は切り捨てていた。この少人数で人員を分散させるのは危ない。置いていった場合司祭とクリスの護衛役が騎士一人になるのもいただけない。


「前はあなたと私、援護にクリス。後衛は全部まとまっててもらう。ユノーとレオン、それに暁はその護衛。基本、二人で戦うことになるけどいいわね?」

「了解した。俺は問題ない。妥当だと思う」


 方針を手短に説明すれば、彼は一度他のメンバーの顔を確認した、更に私の目を見た後、首肯した。支持してもらったことに私も相槌のように「ありがと」と頷く。


「規模は?」

「まだ見えない」


 言ってから、口の中で呪文を唱える。使い慣れた探査の魔法の省略方法を教えてくれたのは、あの人だった。視界に光の粒が重なれば、一度目を閉じる。集落の方を向いて集中する。

僅かに耳鳴りを感じる。先ほど感じた、ざわりとした嫌な気配に、わざと意識を向ける。

目をぎゅっと強く瞑り過ぎた時のような、くらくらと立ち眩みのような気持ち悪さ。それを堪えて瞼を上げる。


「……あの場所全体にモヤがかかってるみたいに気配があるけれど……無形がいるかもしれない」


 私の言葉に、セシルの顔が険しくなった。

 

「あの集落にはペットも含め家畜などは残してこなかった。念のため門は閉じ、封鎖してきている。封鎖を行ったのはゲイルだから仕損じがあるとは思えない。物理的に門扉もしっかり閉めてきてるってユノーたちから報告を貰っているし、ね」


 同行している司祭と騎士の名前を出す。三人とも三十代半ば、しっかりと実力もあり仕事も丁寧で確実な、信用に足る者たちだ。

私たちと同じように馬を下りて、それぞれに持ち物の再チェックなど始めた面々の方を向けば、こちらの視線に気づいたらしい。問う視線が返ってきたから、一つ頷きに似た瞬きを返す。


 通常の魔物は、魔素溜まりに誤って入り込んでしまった獣などが変質したものだ。

大きな魔法が使われた場所や戦場跡に残る澱み、時折自然発生する魔素が溜まったところ。そういう、人々が忌み地と呼ぶような場所、魔素溜まりに運悪く入り込んでしまった獣などが、その力を受けて異形と化して狂暴化し人や他の生物を襲う。

 しかし、その魔素溜まりに何も異形化するものがなかった場合でも、魔物が発生することがある。

それが、無形。既存のどの獣とも違い、行動パターンも読めないことが多い。

前者に比べると発生率は圧倒的に少ないが、その分情報も少なく非常に戦いづらい。


「……分かった」


 二の聖騎士が重い口調で相槌を打った。記録にある無形の魔物はどれも強く、戦いづらいものばかりだ。彼が頭の中で何を考えているのかは、なんとなく分かる。倒しきれなかった場合の優先順位。今回は私とセシル、二人の聖騎士がここに居るが、通常は戦場に一人のみだ。聖騎士は戦場の指揮官であり、最高戦力である場合が殆どである。それ故に、容易に倒しきれなかった場合のことなども思い描くよう訓練されている。優先度。誰を守り、誰を切り捨てるか。その場で即座に判断し、指揮しきれない者は聖騎士にはなれない。

 この場は一の聖騎士である私に指揮権がある。相棒の肩に、一度、ぽすりと手を置けば彼にだけ聞こえる声で言う。


「いざという時はお願い」

「馬鹿、その場合はお前が逃げるんだ」


 予想通りの返事に、つい笑う。


「それは嫌だから勝つわよ」


 言って、手を離す。向き直り、ぱん、と、手を一つ打った。


「よし、方針を話すよ。みんな集まって!」


 全員の視線が集まった。




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