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憧れるもの21


 夜が明けた後、半分の人員を残し、一度サイルーンに戻ることになった。

セシルがこの場では指揮をとり、私は言われた通り、偉そうにずっと座っていた。

ちなみに寝てはいない。流石にそれは申し訳なくて出来ない。

お腹を満たして戻ってきた銀狼を横に侍らせ、騎士や魔導士たちがテキパキと働いている様子を眺めていた。

セシルはこの短時間で駆けつけたのに、しっかりと人を厳選した上で連れてきたらしい。

空が白み始める頃には、家屋内の確認もほとんど終わっていた。

残すメンバーは少しの休憩を挟んだ後、集落周辺の捜査に入る。サイルーンへ向かうメンバーは、あちらでの聞き取り捜査だ。


「ん」

「うん? 何?」


 出立前にブライアの鞍に荷物を載せていたら、セシルがやってきた。

人の顔をじっと見て、勝手に一つ頷く。その様子に片眉を上げれば、面倒臭そうな顔をされた。


「少しはマシになったか」


 ぼすっと、革手袋の手が肩に置かれる。その重みに少し嫉妬する。


「私を誰だと思ってるの」

「天下の聖騎士様、だろ。女性初で、しかも一の聖騎士」

「……」


 キメ台詞をとられて私は唇を尖らせた。


「お前が強いのは知ってる。でも、心配ぐらいはさせろ。俺はあいつのことも知っているんだ」

「……うるさいわよ」


 ふくれっ面のまま言えば、二の聖騎士は口の端だけ軽く上げて苦笑する。

その顔に腹が立ったので拳を握れば、セシルは人の肩をぽんぽんと二回ほど叩いて、部下たちの元に戻っていった。

その様子を横で眺めていた暁の風が、ぼふっと尻尾で叩いてくる。


「……やっぱりあれと番えばいいんじゃないのか?」

「嫌よ。あと、私に必要なのは伴侶じゃなくて、仲間。あれは相棒よ」


 もう一度尻尾で叩かれた。




 サイルーンに戻ると、私とセシルはその足で領主館へと向かう。

昨夜来た時は色々すっ飛ばしてしまったが、今後のことも話さねばならない。

数時間ぶりに領主館の扉を叩けば、昨夜雑な対応で胡麻化した時と同じ顔触れが待っていた。


「一の聖騎士を、休ませる部屋をお願いしたい」

「かしこまりました」


 さて、あれをどこまで説明するかなんて思案しながら面倒な挨拶をこなしていれば、横の男がそんなことを言いだした。その言葉に反応して領主がさっと執事に目配せする。


「ちょっと、セシルっ」

「良いから行け」


 疲れているというなら、行程は違えど同じように徹夜している彼自身や、連れてきた部下たちだって同じはずだ。特に、他のメンバーは交代で休憩をとっているだろうが、指揮していた彼自身は全く休みを入れていないだろう。

名を呼べば、切れ長の目がちらりとこちらを向く。それも一瞬のこと。彼は領主や他の者たちと談笑しながら会議に用意された部屋へと歩いていく。


「一の聖騎士殿、こちらへ」


 渋面のまま残された私に、執事が促した。

ここで覆すわけにもいかず、私は「えぇ、ありがとう」と返事をし、案内についていく。

装飾品の多い廊下を少し歩き、階段を上った先。

おそらく、通常使いされている客間なのだろう。その一室を勧められれば、私は素直に扉を潜った。


「扉の外にメイドが控えております。何なりとお申し付けください」


 型通りの言葉を置いて執事が去っていく。

私は、小さくため息を落とす。こうなってしまっては仕方ない。この後のためにしっかり休むのが良いだろう。

一瞬、このまま館内を散策することも考えたがやめた。集落で私と暁の風が見た『あれ』があった以上、少なくとも今回については人為的な行方不明事件ではないだろう。ここの領主のちょっとした噂はいくつか聞いているが、今、抜き打ち検査をしても余計な仕事を増やしてしまうだけだ。

それよりも今は、『あれ』に集中したい。


「……考える時間を貰えた、ってところかしらね」


 軽く肩を竦める。なんだかむかつくので素直に感謝したくはないが、セシルには後で礼を言った方が良いのかもしれない。

 私は、改めて室内を見渡す。貴族の館によくある感じの客間だ。この部屋には応接セットがあり、奥に扉がある。開いてみれば予想通り扉の向こうは寝室だ。寝室に更に扉があるのを見つけ、私は口元を綻ばせる。弾む歩調でそちらに行き、寝室の更に奥の扉を開けた。


「いいじゃん!」


 貴族仕様のゆったり広めな浴室に、お行儀が悪いと思いつつ、ぴゅぅ、と口笛を吹いていた。

ブーツを脱ぎ捨てて裸足になると、ぺたぺたと素足でタイルを踏んで浴室に入る。猫足のバスタブに、ご自由にお使いくださいという風に置かれたふかふかのタオル。用意された石鹸類も一目で分かる高級品だ。

 ふと横にあった鏡をみたら、満面の笑みを浮かべた自分の顔があった。笑んでいるが、顔は白い。目の下にべったりと濃いクマが居座っている。


「……」


 私は、深々とため息をついた。




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