のぞむもの2
「で、何なの、この状態は……」
思わずげんなりした気分がそのまま声に乗った。多分、顔にも出ている。腕組みして見下ろしている時点で態度にも出ているね、間違いなく。
私に見下ろされている男は、地面に座らされたまま、ぎりりと私を睨んでいた。その横にいる男の相方らしい青年はこちらと目を合わせない。どちらも見た感じ二十になったぐらいだろうか。若い。剣士と魔導士という雰囲気である。ちらりと横を確認すると二人から取り上げたらしい剣と杖が木箱の上に置いてあった。
周りには疲れた様子を隠しきれていない農夫やその家族たちが、少し怯えた顔で遠巻きにしている。男を取り押さえている騎士も、周りの対応をしている騎士団員たちも、困ったような顔をしていた。
ここは、騎士団所有の敷地内だ。普段は訓練や装備の整備など多目的に使われている原っぱに、今は野営用のテントがいくつも並んでいた。地方の農村から流れてきた難民の受け入れ場である。
王都の城門より外、街道沿いの空き地にという話もあったのだが、様々な政治的理由からここでテント暮らしをさせることになったと聞いている。その際の予算会議についても出席を求められたが……私は逃げた。何でもかんでも巻き込まれても困るのだ。私は騎士団の幹部ではないし、金勘定も私の領分ではない。ただ、対難民の見回りや揉め事回収については協力すると首を縦に振らざるを得なかった。……その結果、こうやって呼び出されたわけだ。
「聖騎士、俺と勝負しろっ!!」
「なんでっ」
何はともあれ、話を聞かねばならない。拘束している騎士に指示して男とその相方にかけてあった猿ぐつわを外させる。すると、開口一番とんでもない言葉が飛び出してきた。反射的に私も同じ勢いで返す。周りがオロオロしながらこちらを見ている。今回私が呼び出されたのはこれのせいだったらしい。とにかく来て欲しい、なんて言い方になっていた理由を察して、はぁぁと隠しもせずにため息をつく。
「俺は、家に帰れねぇ、可愛そうなこいつらを家に帰してやるんだ! 強いのにこんなところに捕まえて、家に帰してやらねぇお前とは違う。でも、こいつらは俺じゃなくてお前に守って欲しいって言う。だから、勝負しろっ! 俺の方が強いって認めさせるんだっ!!」
私は騎士たちと、遠巻きにしている農夫たちに順に視線をやる。この場で一番立場が上だったらしい年配の騎士は私と視線が合うとゆるゆると首を横に振った。どうやら捕まえた時からこの調子だったらしい。
農夫たちの方も、目が合えばぶんぶんと首を横に振った。「わしらそんなことは頼んでない」「確かに家には帰りたいけれども」なんてぽそぽそと主張する。私もこれまで何度かここにも顔を出しているので、顔見知りになった者も何人か混ざっている。彼らの話は私も何度か聞いてきているし、彼ら自身もある程度納得の上でここにいる。状況整理のために待っては貰っているが、生誕祭が終わってしばらくしたら村に帰ってもらうこともちゃんと話した後だ。
「……そういうあなたは何者なわけ?」
「勇者だっ!!」
うわぁぁと声を溢したくなったのを堪えた私は偉いと思う。誰か褒め称えてくれてもいい。開いた口が塞がらない……となる前に、口は開けずに、ただ、眼差しだけは間違いなくげんなりしたものになっていただろう。それに気づいてか気付かずにか、勇者と名乗った男は続ける。
「勇者バルトザック、この世界を救う男だ。こいつは魔導士ケレス。戦乱期に活躍したケレスティヌスの生まれ変わりだ!」
低く声を作って言う男の紹介にあわせて、横にいた青年がやっとこちらを見た。微妙に人を見下す目つきをしている。私は思わず年配騎士の方に視線を投げる。もう一度さっきと同じように首を横に振られて、諦めて一度目を閉じた。頭痛がしそうだ。
「俺たちが、こいつらが帰れない原因を倒す。だから、まずは俺と勝負しろ、聖騎士っ!その辺の雑魚な騎士たちじゃねぇ、お前だっ! それなりの腕前だったら勇者である俺の仲間にしてやろう!」
これはダメだ、ともう一度騎士に指示をさせて猿ぐつわを元に戻させる。話を聞いてもこれは無理そうだ。生産性のあることを喋ってくれそうにない。バルトザックと名乗った男は抵抗して暴れていたが、騎士二人に押さえつけられると反抗的な目をこちらに向けたまま大人しくなった。なんだか視線だけで煩い。
「なんでこの子たちここに入ってきちゃったの? ここ、入場制限かけていなかったっけ?」
「どうやら食料品などを運び込む時の馬車に紛れてきたみたいで……」
「そう……」
私は年配騎士の方に顔を向け説明を求める。きっとその辺りの確認は騎士たちの方でやってくれているだろう。私がとやかく言うところではない。
騎士の話によると、炊き出しも終わり、ここの世話をしている騎士たちが手薄になった頃、彼らが出てきて農夫たち相手に演説を始めたらしい。例の改変された方の武勲詩を軽く歌い、その後、「だけど、今の聖騎士は働いていない、だからお前たちはここから出られないんだ」などと難民相手に言い始め、騎士が駆けつければ、「聖騎士を呼べ」と。とりあえず取り押さえて、武器を取り上げ、職質するもさっきの調子でさっぱり話にならない。困って、若手の騎士に私を呼びに行かせたんだそうだ。
「……牢屋放り込んじゃダメなの?」
「それが、そうしようにも罪状がないんです」
確かに、ここは騎士団の敷地だけど入ったら処罰するなんて規則はない。彼らがやっていたのも難民たち相手に与太話をしていただけだ。さすがにそれだけでは注意はできても牢屋に放り込めない。うわぁ、めんどくさ、と改めて男たちの方を見たら、魔導士青年の方が勝ち誇った顔でこちらを見ていた。こいつの知恵か。私はあらためてげんなりする。本当にろくでもない。
「わかったわ。私の方でなんとかする。悪いんだけど騎士団のどこかの部屋に閉じ込めて、食事でも与えといて。他の用事を片付けてくるから」
「承知いたしました。……申し訳ない」
「ううん。ご苦労様」
年配騎士が目を伏せた様子に、私もさっきの彼と同じようにゆるゆると首を横に振る。
周りで見守っていた者たちは、そのやりとりにどこかほっとしたような表情をしていた。
第五章、物語は佳境に入ると言いつつ、いざ書き始めたら中々濃ゆい子が出て来てしまいました(汗)
ザック君、君どこから出てきちゃったの……おうちにお帰りよ……




