のぞむもの1
第五章開始です!
どうぞよろしくお願いいたします。
王都は賑わっていた。
数日後に行われる女王エレノアの生誕祭の準備で、どこもかしこも活気にあふれている。
大通りはいつもより多くの荷馬車や人が行き交い、街のあちこちに旗やオーナメントが取り付けられている。通り沿いの建物の窓には花が飾られ、中央をはじめとした各広場には華やかなオブジェが置かれた。生花を使われているため、街全体がどこか華やかな香りに包まれている。出入りする人々を狙った飲食店の美味しそうな匂いという香りの客引きも相まって、目だけでなく鼻まで中々忙しい。
村落からの難民で一時期荒みかけていた雰囲気も、年に一度の大きな祭りを前になりを潜めている。毎年に比べ若干見回りの騎士の姿が目立つが、その騎士たちも笑顔で祭りの準備を手伝っているおかげで物々しくはならず、街の賑わいに溶け込んでいる。
「あ、聖騎士様、今日は歌わないの?」
「私の歌声は高いの!」
いつものように聖騎士の騎士服を纏い、宵闇色のマントを揺らしながら歩いていると、声をかけられた。師匠である零の聖騎士リドルフィが亡くなってから、その寂しさからか私に声をかける人は増えていたが、先日の一件以来さらに増えたように思う。中には今みたいにからかい混じりに声をかけてくる人もいる。でも、ほとんどの場合好意的なニュアンスなので、私も笑って応える。それをキッカケに雑談が始まったり、知らない者同士で話し出したりもするので、私としてもちょっと嬉しかった。
「あはは。また歌ってよ。一緒に歌いたいからさ」
「あ、僕も歌いたい!」
「生誕祭でもみんなで歌えたらいいね」
「勝手に歌っちまうか!」
今も、わははと笑いを起こしながら、その場にいた人たちが好き勝手なことを言っている。店にいた飲食店の店主に、街灯に飾りのオブジェを取り付けようとしていた職人、通りすがりのおばちゃんや魔法学校の学生。みんな、楽しそうだ。私は「はいはい」と相槌を打って苦笑する。
「パレードの邪魔とかはしちゃダメよ? 準備してた人たちが困っちゃうし、それに危ないからね」
はいよ、と打てば響くようないい返事。まるでそう言われるのも待っていたように感じるやりとり。会話に混ざっていない人たちも、聞いてくすくす笑っている。祭り前で華やかな街全体の雰囲気も相まって、みんなの顔が明るい。
「ほら、みんな、お仕事に戻って戻って。飾り付けありがとう。綺麗ね。残りも頑張って!」
「おぅ! 任せとけ!」
楽しい余韻を残したまま、私の声にみんながまた動き出した。ちょっとくすぐったいような気分になるけれど、悪くはない。もしかしたら師匠もこんな風に街の人たちと、私たちが知らないところで笑い合っていたのかもしれない。
中央広場に差し掛かれば、私は辺りを見渡す。パッと見ただけで視界に入る騎士は……と人数を数え、その様子に満足する。私自身も含め見回りの数は多い。
聖騎士の四人には、準備期間も含めた生誕祭の間、空き時間には聖騎士の騎士服姿で積極的に王都内を見回るようにとの指示が出ていた。私たちの存在が抑止力にもなり、そして人々の安心にもつながるから。特に、難民騒ぎや国葬の際にこぼれ聞こえた話など、不穏分子のことなどがある今、女王は打てる手は全て打つつもりのようだった。私には知らされていないようなことも、いくつも行っているのだろう。現にセシルとヴィンスはとても忙しそうだ。王都での見回りを主にしているのは私で、それもあって声をかけられまくっている。同じ聖騎士でも獣人のガルドは城門の辺りを重点的に回るように指示されていた。彼は見た目がごついからね。外から何か持ち込んで悪さをしようという者も、彼に睨まれると逃げ出してしまうだろう。適材適所というやつだ。
「あ、聖騎士殿……!」
「うん? どうした?」
騎士団の制服を着た男性に声をかけられて、そちらを向く。帯剣していないし体格も武芸をする者のそれではないので事務職員か何かなのだろう。人が良さそうな様子は、どこか知り合いの魔導師に似ていた。近づけば少し申し訳なさそうな顔で微笑まれた。
「お忙しいところすみません。伝言を預かっておりまして」
そう言うと彼は声を潜める。ぽそぽそと告げられたのは、難民たちを保護している辺りで揉め事が起きているから顔を出して欲しいなんて話と、王城から呼ばれているという話の二つだった。どうやら彼自身は後者のためにここに来ていたらしい。前者は、彼がここで私を探していた時に、やはり私を探しに来た別の者から預かった伝言なのだそうだ。多分、お人好しそうな雰囲気からして、どっちも押し付けられたのだろう。
「……えーっと、城の方は急ぎ? 何時までにとか指定はあるの?」
「いえ、夕刻ぐらいまでに、とのことでした」
そもそも誰からの呼び出し? と訊けば、二の聖騎士セシルだとのことだ。なんとなく理由が分かった気がしたので後回しにしても大丈夫そうだと判断する。
「そうしたら、揉めてる方を先に見に行くわ。悪いんだけど戻って私はそっちに行ったって伝えて貰ってもいい? 夕方にはそっちに行くって伝えておいて」
「わかりました。……なんだか、大変ですね、一の聖騎士殿」
「人気者だからね」
悪びれず言って肩を竦めてみせれば笑ってくれた。
第五章は「のぞむもの」というタイトルになりました。
のぞむは「望む」であり「臨む」
ものは「者」であり「物」
今回も盛大にダブルミーニングならぬマルチミーニングです。
リチェは何を望み、何に臨むのか、物語の行く末を見守って頂けたら嬉しいです。




