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探求者  作者: あきみらい
第四章 見つけるもの
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師匠と弟子と


 持ってきた大きな籠を、どさりとテーブルの上に置いた。

妹のリチェほどはこの部屋での想い出は多くはないけれど、それでも来ると懐かしいような気持ちになる。

私、エマは一度部屋の中を見渡してから、窓へと寄ってカーテンを開ける。ついでに窓も開ければ、ふわりと初夏の風が入ってきた。近くに林があるからか緑の香りを感じる。木漏れ日が床に映って揺れている。


「エマさん、これ、どこに置いたらいいですか?」

「あ、とりあえずそこ置いて」


 荷運びを手伝ってくれた聖騎士候補生の少女に、籠を置いたテーブルを指差す。すると本などが入ったそこそこ重い箱を彼女は軽い動作で置いてくれた。身体強化の祝福持ちなのだそうだ。ちょっと羨ましいと思う。


「ありがとう、シーラ。助かったわ」

「どういたしまして! あ、本とか並べるのも手伝います!」


 はきはきと喋る様子は微笑ましく、好ましい。

 聖騎士候補生の子たちはモーゲンの村にもよく顔を出すので、シーラと私ももう何年越しといった顔馴染みだ。養成校に来たばかりの頃はまだ小さく心細げで保護欲を刺激するような可愛らしい子だったのに、ここで過ごすうちにどんどん頼もしくなっていった。確かまだ十歳だったはずだが、それでも聖騎士の卵だなと感じる時がある。ごく自然に自分を守る側に置く様子などは、少し妹に似ている。


「そうしたら手伝ってもらおうかな。まず、ちょっとだけ掃除したいのだけど」

「はい! 箒とか出しますね!」


 この部屋の掃除は、候補生たちが当番でやってくれていると聞いている。それ以外にも室内にある植物の世話は村の有志が率先してやってくれているし、私自身も時々やって来てはカーテンを洗ったりソファのクッションのカバーを替えたりしている。

おかげで、この部屋の主が亡くなってもう何十年も経っているのに、いつまでも綺麗で居心地がいい。ふっと、扉を開けてここにグレンダさんが帰ってきてもおかしくないぐらいに。

 ここは、聖女の間と呼ばれている、聖騎士養成校内の一室。昔、この部屋を使っていた人は、私の養母だ。


「エマさん、聖女ってどんな方だったんですか?」


 掃き掃除を始めたシーラに問われて、私は考える。もちろん棚を拭く手は止めずに、だ。


「そうねぇ、……真面目な人、かな。照れ屋で素直じゃないところもいっぱいあって、でも、自分がやらなきゃって思ったことは絶対にやり遂げる人」


 棚に並んでいた本や日記を退かしながら、丁寧に拭きつつ思い出す。多分、グレンダさん自身が聞いたら「そんな大したものじゃないよ」なんて言うかもしれない。でも、多分私以外の誰に訊いても、きっと似たような言葉が返ってくるような気がした。


「へぇ~。……なんだか、リチェさんに似てますね!」

「え、そう?」


 床の掃き掃除をしながらシーラが言う。唐突に出てきた妹の名にちょっと驚いて聞けば、うん!と大きく頷かれた。


「リチェさんも、自分がやらなきゃって思ったことは絶対にやり遂げてきそう。他の人に任せるとか、思いついてもなさそうかなぁ、なんて」

「あー、たしかにねぇ」


 つい先日も唐突に出発すると言って、暁の風だけ連れて走っていくなんてことをやっていた。戻ってきた時には普通に笑っていたが、後になって死にかけていたなんて聞いてとても驚いた。しかも、そんな目に遭ってもリチェは怖がって行かないって選択肢は思いついていなさそうなのだ。それこそ、シーラが指摘したように、人に任せて自分は安全なところで見ているなんて選択肢を、妹はきっと思いついてもいないだろう。家族としてはそれがとても恐ろしく、心配ではあるのだけども。


「すごく、すごくカッコいいです」


 うっとりと呟かれた言葉に私は苦笑する。きっとシーラたち候補生からすると、リドさんと同じようにリチェもまた憧れの対象なんだなと、なんとなく分かった。


「ん-、多分ね。周りからするといきなり走っていっちゃわないで、一瞬待って!って思ってる人は多いかもしれないわ」

「……そうですか?」

「うん。まぁ、でも、リチェはリチェだからねぇ」


 心配していると何度伝えたところで変わらない。多分この先も、どんな目にあってもあのままじゃないかななんて思う。


「よし、綺麗になった。持ってきたものを並べるのも手伝って」

「はい!」


 私は籠に入れて自宅から持ってきたものを一つずつ出す。古びた本や文房具、剣帯にセットになったポーチ。何冊かのノートには走り書きのところもあるし丁寧に書かれたところもあるが、どれもしっかりと勉強をしたことのある人の読みやすい字が並んでいた。

 それらは、聖騎士リドルフィの遺品だ。

亡くなってからしばらく経ち、ようやく気持ちも落ち着いたので養父の部屋を整理したのだ。遺品をどうしようかという話になった時、自然とこの聖女の間に一緒に置こうという案が出た。元々の部屋の主だったグレンダさんより、実はリドさんの方がこの部屋にいた時間は長いのだ。特に晩年はふとした時に訪れては亡き妻の日記をのんびりと読み、気配の残るこの部屋の揺り椅子に座っていることが多かった。


「これ、ここで良いですか?」

「うん、そうね」


 シーラが小さな額縁を棚に飾ってくれた。それを見て私はちょっと苦笑する。額縁に納められているのはリドさんとグレンダさんが寄り添った姿を描いた絵だ。なんと描いたのは私。グレンダさんが元気だった頃に描かせて貰った絵を、養父は大事に部屋に飾っていたのだ。王都にいる画家たちみたいには上手くはないけれど、それでも雰囲気は出ていると思う。


「そういえば、養成校の廊下に歴代聖騎士の肖像画を飾ろうって話があるんですよ」

「え、そうなの?」

「実は、リドさんの絵はもう用意してあるって聞きました」


 シーラがちょっと得意げに教えてくれた。場所は多くの教室を繋ぐ一階の長い廊下だそうだ。私もさっき通った場所。


「それでいくと、リドさんとリチェの絵が並ぶってことになるのかしら」

「そうかなーって思います」


 それは、きっとリチェは大喜びするだろう。誰よりもリドさんの背中に憧れ、光の祝福しか持っていなかったのに、女性初の聖騎士にまでなったのだから。


「それは、私も見てみたいなぁ」

「先生に言っておきます。エマさんも見たいって言ってたから早くやってくださいって」

「ふふ、そうして」


 そんな廊下ができたら、もしかしたら観光名所としてウィノナが売り出そうなんて言うかもしれない。モーゲンの村と聖騎士養成校は切っても切れぬ場所だから、とか言って。

ふと、いつか、リチェもリドさんたちのように武勲詩に謳われたりするのかな、なんて思うと姉としてちょっと楽しみだ。


「よし、全部並べ終わったわね。シーラ、ありがとうね」


 お礼に食堂でパンケーキを驕るわ、なんて言えば少女の目が輝いた。大人びた会話をするけれどそれでもまだ子どもだ。おやつの話になると年相応の顔が出てきた。


 この子が憧れる今の聖騎士、リチェはこの先どんな風に生きていくのだろう。

できれば、どこに走っていってもちゃんと帰ってきてくれると良いのだけども。

姉としてはそう切に願うのだ。




これにて第四章完結となります。

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

第五章も引き続きよろしくお願いいたします。


……やーっと、ここまできました。残り三分の一!

頑張って走り切ります……!

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