見つけるもの27
私がアティスに来てから更に数日が経った。
調査隊のメンバーたちが率先して働く様子に、村の人々も随分と心を許してくれたように思う。
奥方が臨月だというヴィンスは王都に帰らせ、村には私とセシルが残った。ガルドは万が一のために王城待機を続けてくれている。
調査隊は約八割のメンバーがこちらに来ていた。魔物との戦闘を想定しているため、男性騎士のほとんどや、司祭のゲイル、魔導師のクリスとその弟子のセティも来ている。女性騎士のレゼとルイーナ、それに司祭のヘレナも一緒だ。避難誘導などは気配りのできる女性の手がある方が何かと便利なのだ。
設営したテントでの暮らしだが、予めしっかり用意してきたおかげで不自由はあまりない。
王都からは馬車で一日ちょっとかかることから、騎士の何人かが交代で王都と往復している。おかげで少しばかりの遅れはあるものの、王都に残っているメンバーからの報告もその日のうちに受け取ることができた。
「ここにいたのか」
小さな村の入り口近く、調査隊の野営地から更に少し川を上ったところの岩に座っていた私は、顔を上げる。辺りは夕暮れに染まっている。今日最後の日差しを背に受けて長身の男がこちらを見ていた。
「少し、考えごとをしてた」
そうか、と相槌を打って彼は私の隣に腰を下ろす。
今は水量も安定していて穏やかな川だが、嵐の後などは水かさが増えて結構暴れるのだという。折角だからと滞在中にクリスやセティ、それに魔法が得意な騎士が手伝って村の近くについては、簡単な護岸工事を行っていた。今日の昼過ぎぐらいにほぼ終わり、後は周りを少し整備するだけだなんて報告を貰っている。今、私が座っている岩も、多分明日には退かされることだろう。
「……セシル、怒ってる?」
ミリエルの話を聞いた後から、微妙にすれ違っていてまともに話をするのは久しぶりだ。恐る恐る聞けば、ふん、と息を吐く音が返ってきた。そーっと窺うように視線をやれば、端正に整った横顔が見えた。夕日を逆側から受けて輪郭が金色に縁どられている。黙っていれば彼は今も御令嬢などに憧れられるような美形の聖騎士なのだ。きっちり鍛えられた体に緩みはなく、ほんの僅かにある皺も良い感じに渋みを足している。加齢は彼の魅力を損なうものではなかった。
「怒っても仕方ないと分かっている」
「……それは怒ってるってことでしょ」
つい彼の横顔に見惚れていた私に気が付いたのか、セシルは、ぐい、と手のひらを使って私の顔を前に向けた。彼を金色に縁どっていた光が、川の水面も煌めかせている。聞こえた言葉に唇を尖らせれば、そうだな、と、肯定の相槌が返ってきた。
「ただ、お前は気にしなくても良い」
「ん?」
「……俺が怒っているのは、トゥーレのやつと俺自身に対してだからな」
「なにそれ」
彼にしては珍しい言い方に、私はちょっと笑う。彼は私が笑ったことに少し不貞腐れているようだった。立ち上がると、その辺にあった小石を拾い、川に向かって投げる。上手い角度で投げられた小石は、水面を数回跳ねてから水の中に沈んだ。
「ねぇ。セシル」
放っておくといくつでも川に小石を投げ続けていそうなセシルに、私も立ち上がる。小石を拾い、並んで、見よう見まねで同じように川に投げる。セシルのようにはいかないが、それでも二回ほど小石が水面を跳ねた。上手く出来るイメージがあったのに、彼の半分も跳ねなかったのがちょっと悔しい。
「……セシルはトゥーレに会えたら、なんて言ってやりたい?」
もう一個投げようとしたセシルが、私の言葉に投げる動作を途中で止めて、嫌そうにこちらを見た。
そのしかめっ面に思わず私は苦笑する。候補生時代によく見たのに似た顔だった。
「……お前は、あいつに会えると信じて疑わないんだな」
質問の答えではなく、返ってきたのはそんな言葉で。私は素直に頷く。
「少し前までと違って、返事がきた、からね」
そう、全く手掛かりがなかった時とは違う。生死すら分からなかった時と違って、今は少なくとも彼が返事をすることができると分かった。三十年近く音信不通だったのに比べれば、得体が知れなくても今の方がずっと希望が持てる。
「ミリの言葉が本当なら、私はトゥーレに会いに行けそうだけど、セシルは無理でしょ。だから、伝言預かってあげる」
そんな風に笑って言えば、強引に腕を引っ張られた。よろけて肩からセシルの胸につっこみそうになれば、がしりと捕まえられる。乱暴だな、と、顔を上げれば、ものすごく不機嫌そうな顔がそこに在った。
……私は知っている。私が居なくなった幼馴染を今も大事に思っているように、セシルもまたトゥーレのことを大事な仲間だと認め、忘れずにいる。多分、私がいなかったとしてもセシルはトゥーレを忘れなかっただろう。
「……」
「セシル?」
ぼそぼそっと呟かれた言葉が聞きとれなくて、聞き返す。彼は至近距離で私を見下ろして、それから重々しくため息をついた。
「お前ら二人とも、なんか腹が立つ……っ」
「……え、それ伝えるの?」
そんなわけあるか、と理不尽に言って、セシルは勝手に人の唇を一度奪ってから言った。
「こっちに戻って来て、ちゃんと話をしろ。……そう伝えてくれ」
「りょーかい」
素直じゃない相方に、私はけらけらと笑って了承する。そういえば、先日伝えねばと思った言葉があったことを思い出した。
「セシル、愛しているわ」
いつの間にか金の縁取りがなくなった男に言う。
「なっ」
言葉を失って、パクパクと口を動かしている男の様子に満足して、私はくるりと背を向けた。
実はセシルの方がヒロインなのではないかと思うのは私だけかなぁ……
可哀そうに……(合掌)
そう考えると、ちゃんとヒーローしてたリドは偉かった。(笑)




