見つけるもの26
謹慎が解けて、数日後。
私は王都から南、肥沃な穀倉地帯にある小さな村にいた。
数軒の小麦農家からなる村は、広大な畑の真ん中にある防風林に寄り添うようにして並んでいる。
大昔、戦乱期前に一度は途絶えてしまった村なのだが、やはりこの拓けた土地は魅力的だったらしく、三十年ほど前に農家たちで寄り集まり再建したのだと聞いている。なので、比較的新しい農村だと言っても良いだろう。名はアティスという。
常ならば四世帯十六人がいるだけの小さな村は、大変賑わっていた。
『何か』の出現に備えて村に駐在することになった調査隊のメンバーはおよそ二十名。村のすぐ横の川原にしっかりとテントを張り本拠地としている。いるのは体力に自信のある騎士がほとんどだ。実際にことが起きるまではひたすら待機するしかないため、迷惑をかける詫びも兼ねて、村の雑用を手伝っている。村人たちは、行商人などから集団行方不明についての噂をうっすらと聞いていたらしい。不安に思いながらも、自分たちではどうすることも出来ずにいたため、最初に多少の衝突は合ったものの、その後は調査隊を受け入れてくれた。その辺りの交渉は人当たりの良いヴィンスが随分と頑張ってくれた。
「なんだか、モーゲンに少し似てる……」
敷地全体で見るとほとんど小麦畑だが、村に近い場所には他の野菜などの畑もあるし、日々の生活を助けてくれる家畜もそれなりにいる。モーゲンが山のふもとにあるのに対し、アティスは平野だが近くに川があることや、農村特有の穏やかな雰囲気はどことなく似ている。
川原で二人組になり打ち合いをしている騎士たちを眺めながら、私は頬杖をついていた。正直暇である。村人たちとの交渉も、『何か』が出現した時にどう動くかの調整もすでに終わり、村の手伝いは騎士たちや今回もついてきたセティが率先してやってくれている。ついでに柵の補強やら川の簡単な護岸工事、家屋の修繕などもやっているようだ。おまけに司祭のゲイルに至っては村にいる数人の子ども相手に簡単な授業まで始めている。
得体のしれない『何か』への不安は消せないが、頼もしく、しかも親身になってくれる騎士たちがいることが安心感につながっているらしく、村の人たちは落ち着いているように見えた。
「聖騎士様、聖騎士様!」
「せーきしさま、せーきしさま!」
村に住む小さな姉妹に呼ばれて、顔をそちらに向ける。姉の方は十歳ぐらい、妹の方はまだ祝福を貰う前といった感じだ。発音がまだおぼつかない。舌足らずに姉のマネをしている様子が可愛らしかった。
「どうしたの?」
頬杖をやめて向き直れば、妹の方が、見て見て! と後ろ手に持っていた物を差し出してきた。色とりどりの素朴な花で編まれた花冠。子どもの手によるものと分かる少し歪で、でも一生懸命に作ったと分かるそれに、私は自然と笑顔になった。
「上手に作ったねぇ。あ、このお花……」
その一部に青色の花を見つけた私は、小さな手にある花冠の一部を指差して言う。
「このお花、お薬にもなるって知ってる……?」
「え、そうなの?」
「そなの?」
姉も妹も同じような顔でこちらを見上げた。
「うん、そうなの。この青いのはお茶にすると喉のイガイガを治してくれる」
「お花なのに?」
「そうよ~。こっちは傷を癒してくれる」
私は花冠にある他の花も指差して教える。姉妹が目をキラキラさせて聞いてくれるのが嬉しくて、私は分かる種類を一つずつ教えていく。どれもモーゲンにも生えているハーブだ。きっとこの村でも誰かが育てているのだろう。
「聖騎士様、物知り……!」
「ものしり!」
「私もね、むかーしあなたたちぐらいの歳の時に、教えてもらったの。だから物知りだったのは私じゃなくて、私に教えてくれた人かな」
そうなの? と首を傾げる様子に微笑む。もう四十年も前のことなのに、今でもあのわくわくした感じを覚えている。当時、野花を摘んで小さな花束を作り小遣い稼ぎをしていた私に、それは薬草だよと教えてくれたのは養母だ。ついマネをしてみたくなって目の前の姉妹に教えてみたが、あの時、こんなキラキラした目で私や姉も養母を見ていたのかなと思うとちょっとくすぐったい気持ちになった。
「せーきしさま、あたまだして!」
花冠を手に持ったままの妹の方に言われて、私は軽く首を前に倒す。こちらは座っていたからそれで届くだろう。幼い手が持っていた花冠を私の頭にのせてくれた。何度か向きを確かめるようにペタペタ触られる。そんな小さな仕草が可愛らしくて、そうか、私が今守ろうとしているのはこういう子どもたちであり、その親たちなんだと改めて実感した。
「きれい!」
「ありがとう」
上手に被せられた、と、妹の方が離れれば、私は顔を上げる。称賛の声に少し照れ臭くなりながら礼を言った。
「聖騎士様、アティスに来てくれてありがとうございます。母さんがね、聖騎士様たちは私たちを守りに来てくれてるんだよって教えてくれたんです」
「そうだったの」
姉の方がかけてくれた言葉になんとなく納得した。きっと二人は子どもなりに考えて、守ってもらうお礼という形でこの花冠を作り、持ってきてくれたのだろう。
「せーきしさまはすっごくつよいんでしょ?」
「そうだねぇ。でもね、私の師匠…… お歌にもなった聖騎士の方がもっともっと強かったのよ」
「あ、もしかしてその歌……!」
「知ってる?」
うん、と頷いたのは姉の方だ。私はおいでおいでと手招きして、妹の方を膝に座らせる。姉の方には私が座る折り畳みベンチの隣の席を勧めた。人懐っこい二人に笑んで、私は伴奏なしに歌い始める。
「我が歌うは 真実の歌
神と謡われし大樹より 民を守りし英雄たちの歌……」
知っていると言った姉の方も一緒に歌い始め、妹の方も舌足らずに真似をする。
ところどころ姉の方も歌詞が怪しいのを直しながら、私は何度も何度も歌って姉妹に、聖女と聖騎士の武勲詩を教える。
ふと、思う。
養父母たちは、自分たちを歌ったこの武勲詩をどう思っていたのだろう。
養母が恥ずかしがっていた様子はよく見ていたけれど、養父はどうだったか。覚えていない。
武勲詩で謳われる英雄になるということ。それはもしかしたら、私たちが思う以上に重い何かを背負うことなのかもしれない。
前作「食堂の聖女」にて、リチェとエマがグレンダから教えてもらった薬草のモデルは、ヤロウとマローブルーでした。
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