表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/16

憧れるもの11


 翌日。その使者は養成校の候補生たちと手合わせをしている時にやってきた。



 「お願いします!」と元気のよい声が、訓練所を兼ねた中庭に響いた。

今の聖騎士養成校には二人だが女子もいる。揃えられた挨拶に混ざる少し高い声に私は目を細める。

きらきらと眩しい視線を向けられるのは少しくすぐったくはあるが、憧れられるというのもちょっと嬉しいものだ。

特にその二人からしたら、女性でも聖騎士になれるという見本が私だ。

男性の聖騎士に向けるものよりも、女性である私に向ける視線の方が熱を帯びている。


「じゃぁ、早速やってみようか。まず、シーラ!」

「はいっ!」

「どこからでもいいよ。おいで!」

「はいっ!」


 分かった、と、首肯して十歳の少女が剣を構える。真直ぐこちらを見据え、私の様子を探っている。良い目だ。

他の子たちも、ワクワクした表情で私たちを見守っている。見取り稽古も兼ねているので、他に剣を交えている組はいない。訓練場の真ん中で対峙する私たちを囲むようにして、候補生と、戦闘教官であるギルバートが見学している。

シーラは、私に目を合わせたまま、じりじりと立ち位置を変えると、唐突に走り出す。

一直線ではすぐに弾かれるとでも考えたのだろう。訓練所内に置かれた障害物で上手くこちらの視線を切りながら近づいてくる。

まだ小柄な自分の特性を活かした賢い選択だと思う。


「……はぁぁっ!!」


 左後ろの障害物の陰から飛び出してきて、振り上げた剣での一撃を、私は訓練用の刃を潰した剣で受け、弾いた。その衝撃でまだ軽い少女の体が飛ばされる。飛ばされた先で上手く受け身を取って、そのまま向かって来た。良いね。すぐに次へと続けてくる気概がとても良い。

剣と剣がぶつかる硬い金属音が響く。わぁぁ、と、ギャラリーから歓声が上がる。

 そのまま、何合か打ち合いが続いた。

こちらはハンデとして、その場から動かず片手のみで対応し続ける。それでも少し強めに弾き返すと、体の軽い少女は簡単に吹き飛んでしまう。それでも負けず果敢に挑んでくる。


「……参りましたっ」


 最後、とても悔しそうに言うその頭を、私は手を伸ばして撫でた。


「ナイスファイト。良かったよ」


 健闘を称えてからいくつか指摘をすると、シーラはとても真面目な表情でそれを聞き、質問も交えながら受け取ってくれた。アドバイス一つ毎に指折り数えていたので、忘れないように書き留めるつもりなのだろう。「ありがとうございました」と頭を下げ、皆のところに戻っていくと、仲間たちに早速質問攻めに合っている。その様子も微笑ましい。

 さて、次は……と、名を呼ぼうとして、ギルバートと目が合った。

いっそ、彼と打ち合いをしてみせるのもありかもしれない。そんなことを思いついた時だった。


「一の聖騎士っ! リチェルカーレ殿っ!!」


 候補生や養成校の教官ではない声に、私は振り返る。


「私はここだけど、どうした?」


 割と切羽詰まった声に、つい返す私の声まで硬くなる。

大股に歩いて、扉を開けたところにいる男の元へ急げば、少し遅れてギルバートも追ってきた。

子どもたちはさっきいたところから動いていない。ギルバートがその場待機を言い渡してきたのだろう。

そこにいたのは顔馴染みの騎士だった。行方不明事件に対応している仲間だ。


「至急、王都へ。また、やられました……!」

「わかった! 訓練中断! 皆、ごめん、またくるからね!」


 子どもたちに聞かせない配慮だろう、使者の男は潜めつつも声に感情が出ている。

舌打ちしたくなりながらもなんとか踏みとどまり、私は声を張って候補生たちに言った。

即座に「はい!」と素直な声が返ってきた。本当は物足りなさからくる文句や、何が起きているのだろうという好奇心もあるだろう。それをしっかり抑えた、切れのいい返事だった。


「ギル、悪いけど、後はお願い。また都合つけてくるわ」

「了解です。お気をつけて」

「ありがと!」


 訓練用の剣をギルバートに渡し、代わりに訓練所入口に置いておいた自分の剣とマントを取る。

腰のベルトのホルダー部分に剣を収め、宵闇色のマントをばさりと羽織る。

使者としてやってきた騎士を伴って歩き出す。


「場所はどこ? いつやられた?」

「サイルーンから奥の小さな村です。やられたのは恐らく昨日。今朝サイルーンから知らせが飛んできました」

「そう。……サイルーンか」


 私は頭の中で地図を広げる。出された名は王都から北西、国境近くの地方都市。確か近くに鉱山があり、鍛冶が盛んな場所だったはずだ。ここから馬を走らせればなんとか日暮れ前につく距離。


「……時間が惜しい、私はこのまま現地に向かう。宿にいるクリスには?」

「すでに知らせました。王都にいくとのことです」

「わかった。あなたは彼と一緒に王都へ戻って。魔導士込みで一個分隊すぐに送って。人選はクリスに任せるわ」

「承知しました」


 歩きながら指示を出し、この先の予定について決めていく。

まだ春も浅い。雪が解けてようやく緩みだした大地。ここからだと真西よりやや北にある彼の地はまだ寒いかもしれない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ