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探求者  作者: あきみらい
第四章 見つけるもの
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見つけるもの1

第四章開幕です。


 王都から徒歩でも一時間ほど。

王城が遠くに見える場所に立ち並ぶ、真新しい家々。

まだ汚れや欠けもない石畳の広場に立ち、ほぉぉ、と私は感嘆の息を吐いた。

その横にがっしりした体格の壮年男が、満足げな表情で佇んでいる。

まだ、作りかけの新しい集落のあちこちを、職人たちが歩きまわって忙しそうに新たな家屋を建てていたり、何かを運んだりしていた。


「……バーンもとうとう家を持つ、かぁ」

「良いだろう。出来たら遊びに来いよ。モーゲンに負けず劣らずの美味い飯を食わせてやる」

「おー、言ったね? 期待しちゃうよ?」

「しろ、しろ。うちのかみさんも料理が上手いからな」


 そろそろ六十近くなるのに現役の剣士であるバーンが、さりげなく惚気た。今回定住するとのことで、とうとう馴染みの酒場の女将と一緒になることにしたらしい。

私はその様子に、にやにやする。


 戦乱期が終わり、そして神樹が切り倒されおよそ六十年。

歴史を紐解いても珍しいぐらいに平和で、穏やかだった日々は、人口の増加をもたらした。

特に王都は他の地域よりもその傾向が顕著で、地方より流れ込んできた人々も合わせれば、戦乱期前にも近い人数が住まうようになっていた。

この先もこの勢いで増えていくのなら、と、女王は城下町に住む一部の住人たちを王都からほど近い場所へ移住させることを決めた。国の予算で新たな集落を造る。初めは村程度の大きさから始め、徐々に大きくし、街にする。移住志願者にはその地に新たな家を与え、生活が安定するまでの間、支援も行う。

その政策の、最初の移住地がここ。名はまだない。王都でも職人の多かった地区から志願者を募り、将来的には一つの大きな職人街となるよう移住を進めていくそうだ。

 ……ちなみに、私が意味不明に連れ込まれる予算案会議の一部は、この移住計画絡みである。現役で魔物に最も多く対応している者の一人として、集落を守る壁や結界の強度、防衛関連のアドバイザーとして召喚されているのだが……。正直、具体的な壁の素材をどれにするとか、結界石をどこの商人に任せるかとかの決定に私は要らないと思うんだ。


「それで、バーンの家はどれなの?」

「あぁ、あれだな」


 男が指示したのは集落の入り口近く、門の横に立てられた割と大きな家だった。私は、いいねぇ、と頷き、歩き出した彼に続く。バーンは広場から自分の家までの間に、あちこちで職人たちに声をかけられていた。その様子がちょっと養父を彷彿させるもので、なんだか笑ってしまう。どうやら彼は長く村長をやっていた養父に憧れていたらしい。なんとなくそれが言動からにじみ出て居て、懐かしく、嬉しかった。


「中、見ていくか? まだ椅子の一つすらもないけどな」


 何もないと笑いながら、それでも嬉しげなバーンは、この集落の顔役だ。

自分の親兄弟が住まう職人たちの地区が候補に挙がった時、バーンは故郷の人たちと共にこの集落に居を構えることを決めた。昔気質の職人ばかりで世俗に疎い親族や馴染みの人たちのため、この集落の守り手になると決めたのだ。長く気楽な冒険者を続けていた彼には、かなり大きな決断だったことだろう。私は、その決断と勇気を称えたいと思う。


「あー、うん、いいなら。……バーン、少し話をしたいのだけど、お宅でいい?」

「ん、なんだ? ……周りに聞かせたくないなら、ここではなく外の方がいいかもしれん」

「じゃぁ、悪いんだけどそうしてもらえる?」

「わかった」


 ごめんね、と謝れば、構わん、と軽い口調で返ってきた。

ただ、声を潜めた辺り、何か察してはいるのだろう。

目指していた家ではなく、馬を止めている方へと二人で向かう。私は愛馬ブランカを、そしてバーンも自分の馬を連れ出せば、近くにいた者に一言二言告げて、馬に跨った。




 季節は少しずつ移っていて。春というには日差しが強くなってきていた。

いい場所がある、というバーンを先に行かせ、のんびりした走りでついていく。

今日は急ぐ必要がないので、乗っていて気持ちの良い速度だ。

王都と集落を繋ぐ道から横に入り、草原を走って案内されたのはやや高台になった場所だった。

数本背の低い木が生えているが、それ以外何もない。せいぜい膝程度の高さまで茂った草原が続いていて、振り返ればさっきの集落とその向こうに王都が見えた。


「ちょっと良いだろ、ここ。たまに来るんだ」

「うん、いいね」


 馬からひょいと飛び降りたバーンが、崖になった方へと歩きながら伸びをする。

倣って、私もブランカから降り、付いていく。近くまで寄ればその崖はせいぜい三メルテほどの高さだと分かった。ちょうどその近くに木が生えており、良い感じに日陰を作ってくれている。


「で、話って? ……なんとなく、聞こえてきてるあれ絡みだろ?」

「……」


 振り返り言う男に、私は苦笑する。


「どこまで聞こえてきてるの?」


 崩れないことを確認して、崖に足を下ろす形で腰を下ろせば、その近くにバーンも座った。

問い返した私に、ん-、と、彼は少し考えるような声で唸った。


「あんまり詳しくは知らんな。どっかの村が音信不通になったとか、人攫いが出てるとか、そんな感じだ」

「それ、バーン以外も知ってそう? さっきの職人さんたちとか」

「どうだろ。確かめてないが知らないんじゃないか? 連中は王都住みだし。王都から離れたとこの方が噂は聞く。流しの商人や冒険者がよく使う酒場とか、人が出入りするところを中心に。まだ真偽不明なデマ話に近いレベルで周りは聞いてるがな」

「……そっか」


 今度はこちらが考える。

バーンは単独で動くことの多いベテラン冒険者だ。単身で動ける身軽さから指名も多い。私たちが出す市街地から離れたところでの調査もよく請け負ってくれていた。割と遠くまでもよく行き、地理に詳しく、気さくさから知人も多く、市井のこともよく知っている。子どもの頃から知っている古馴染みの私にとっては信頼できる情報源でもあった。


「バーン、これから話すことはまだ胸の内だけでお願い」

「あぁ」


 足をぷらぷらさせながらしばらく考えた後、私は口を開く。横を向き、目を合わせれば、分かっているという風に頷かれた。


「噂は本当よ。この半年ぐらいの間に、すでにいくつも場所で集団行方不明が起きている。規模は小さいところで数名、大きくて二十人ちょっとってところもあったわ。どれも集落丸ごととかでやられている」

「……そうか」

「しかも、元々起きていた行方不明事件を模倣し始めた連中も出てきてるの」


 私は、ほんの少し躊躇う。さっきの自分の家を自慢していたバーンの表情を見てしまったから。


「……バーン、おそらくあなたのあの村も狙われるわ。今まで被害に遭った場所と規模も特徴もかなり似ている」


 くん、と、男の下唇が上がった。顔が険しくなる。


「だから、どうか警戒を怠らないで。何か異変があったら光弾を上げるなりして、すぐに王都に知らせを。バーンが強いのは分かってるけれど、それでも絶対油断しないで。模倣犯はともかく、元々の方は、おそらく神樹絡みよ」

「……マジか」

「えぇ。だから絶対に一人で立ち向かわず、私を呼んで」


 言った私に、バーンは苦笑した。


「分かった。だから、そんな顔するな。聖騎士だろ」

「……もう、誰の犠牲も出したくないのよ」

「あぁ。分かった。必ず呼ぶ。……俺が知っておいた方が良いことは?」


 だから、安心しろ、と請け合ってくれたバーンに、私は細かなことを説明し始めた。





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