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探求者  作者: あきみらい
第三章 失われるもの
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失われるもの30


 翌朝、騎士団内にある調査隊の本部に立ち寄ってから、モーゲンへと帰った。

本部に残っている部下たちに行方不明が発生した場合にはすぐ知らせるようには伝えたが、特に何も起きねば数日ぐらいはそっとしておいてくれるだろう。

ザザやレオンをはじめとした隊員たちに、少し心配そうな顔で送り出された。

実家に帰るだけなのにね。


「リチェ、そろそろ始めましょ」


 姉のエマが言う。私はこくりと頷いた。


 今日もいい天気だ。

ぎりぎり初夏には入っていない、まだ暑さを感じない風が丘陵を渡っていく。

真っ青な空にはところどころに白い雲がのんきに浮かんでいた。

春らしい、心地の良い午前中。

村を見下ろす丘の上に、モーゲンの人々が集まっていた。

村の門番などを覗いて、ほぼ全員がいる。聖騎士養成校の関係者や、冒険者などでも特に故人リドルフィと親しかった者も来ていた。

国葬の席とは違い、皆、普段着のままだが、帽子は脱いでいたり、胸元に白い花を挿していたりとそれぞれのやり方で喪に服している。村で行われた葬儀の時に比べると、数日経ったおかげか皆、穏やかな顔をしていた。養父リドルフィが高齢だったこともあるだろう。亡くなる直前までごく普通に振る舞っていた様子から突然の死にびっくりした人は多かったが、それでも村で普段養父と顔を合わせていた人たちからは、なんとなく予感のようなものはあったなんて言葉を聞いた。


「今日は、父リドルフィのためにお集まりいただき、ありがとうございます」


 私の隣で姉が挨拶を始めた。

養父の墓標を立てる場所のすぐ横に、デュアンと私たち姉妹が並んでいる。

小柄な姉を、背の高い二人で挟む形だ。


「先日葬儀も終わり、今日は墓標も立てるのですが……なんだか、まだちょっと信じることができずにいます。リドさんが本当に亡くなってしまった感じがしなくて。すぐその辺から、待たせたな、なんて言って現れそうで」


 よく知った顔ばかりだからこその、そんな言葉に、「そうだねぇ」「実感ないよなぁ」なんて何人も相槌を打つ。その言葉に姉は、うんうんと頷いて、指の背で目元を拭った。真面目で気丈な姉だが、考えてみればこの何年かは姉が一番多く養父と一緒にいたのだ。悲しみも寂しさも一番感じていることだろう。


「そうしたら、葬儀の時に頂いたお花の灰を納めますね。……リチェ」

「はい」


 私は預かっていた袋を、皆に見せるように一度差し出す。

中に入っているのは姉が言っていた通り、葬儀の際に手向けてもらった花を燃やし、灰にしたものだ。

村での葬儀の分と、国葬での分、両方が入っているため、持っている袋は普通より少しばかり大きい。


 姉が夫のデュアンを見上げる。デュアンは頷き、数歩移動した。

養母グレンダの墓標の隣、事前に用意されていた穴の前に立つ。

私と姉もそちらへと歩いていけば、静かに誰かが歌い始めた。古くから伝わる弔いの歌だ。初めは一人だった声が、段々に重なっていく。よく働き、よく生きた、とても良い人だった、なんて内容の歌詞の、素朴でだからこそ心に沁みる歌だ。


 穴の両脇に立って、三人で灰の入った袋を捧げ持つ。

目の細かい布に施された刺繍は故人の家族が刺す。ほとんどは姉がやってくれ、それに私と姉の娘のウィノアがいくつか花の模様を足した。私は普段刺繍などしないから不慣れで下手だったが、それでも出来るだけ慎重に心を込めて一針一針刺した。


 参列者たちが歌ってくれる弔いの歌を聞きながら、私たちは三人でその袋を、そうっと穴の中へと納める。私と姉は静かに退き、デュアンがスコップを使ってゆっくり丁寧に穴を埋めていく。


 昔、今ほど司祭もおらず、神聖魔法を使える者が少なかった時代は、墓標の穴には献花の灰ではなく、故人の遺体を焼き、焼け残った骨や灰を埋めていたのだと聞いたことがある。

今は、遺体は神聖魔法で光へとほどき空へと還すため、墓標を立てる時にはもう地上にはない。

司祭たちがそれなりに増えた頃、では、墓に何を埋めるのかとなった時に、故人へと送った花を埋めようということになったのだと、子どもの頃養母が教えてくれた。

墓は、故人のためのものであり、そして残された者のためのものだから。故人を想って流した涙と共に、最期に贈った花を埋めるのだ。ここに来れば、その人を想う気持ちごと、故人のことを思い出せるように。


 やがて、スコップで土をかける音が止まる。静かに繰り返されていた弔いの歌も、そうっと風に溶けるようにして途切れた。

最後の仕上げに、前村長のジョイスと聖騎士養成校学長のグイードが手伝って、デュアンは用意していた墓標をそこに立てた。

養母グレンダの墓標をそっと守るように並んだ、養父リドルフィの墓標。

石でできた短い柱のようなその表面に刻まれているのは「聖女グレンダの聖騎士リドルフィ ここに眠る」という文字。

亡くなるかなり前からデュアンにそう刻めと本人から指定があったらしい。

なんとも養父らしいなと思う。


「無事、終わりました。今日はありがとうございました」

「ありがとうございました」


 姉が集まった皆に頭を下げたのに合わせ、私も同じように目を伏せる。

お疲れ様、寂しくなるねぇ、立派だったよ、なんて労いの言葉や、元気づけるように姉や私の肩を抱いたり、背を軽く叩いたりして、参列者たちが村へと帰っていく。

誰かが再び歌い始めた弔いの歌が、風に混ざりながら空へと溶けていく。



 この国では、人は亡くなると星になると言われている。

それでも普段、故人を想う時に、その依り代となる何かは残された者たちには必要で。

養父がよく養母を想ってここに訪れていたように、きっと、私たちも二人を想ってここにくるのだろう。

改めて、並んだ墓標を見やれば、そこに寄り添って二人が微笑んでいるような気がした――……。



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