この世界の話。
初めにこの世界の話をしようか。
まだ当時を知っている人も幾ばくか生きている、歴史上の出来事というにはまだ近い七十年ほど前。
この国はいわゆる滅亡の危機ってやつに晒された。
国内のあちこちに魔物が出現したことをきっかけに魔族の国と開戦。度重なる魔物との戦いは人々を大いに疲弊させた。泥沼とも言える戦乱期は十年にも渡り、国内の人口が七割近くも減り、魔族側もそれなりに被害が出た後、ようやく停戦協定を結ぶことになる。
その後さらに数年の混乱期を経て、一見平和にも見える日々がゆっくりと戻ってきていた。
その平和が仮初のものだったと人々が知ることになるのは、そこからさらに十数年後のこと。
先の戦乱期で人々を翻弄した魔物のほとんどが魔族から仕掛けられたものではなく、神殿が崇め奉っている神樹を起因とするものだと発覚したのだ。
当時の聖女は神樹の苗木をその身へと移すことで世の平和を取り戻すも、宿した神樹に己の命を贄として与えながら二十年もの月日を一人耐え続けていたのだった。
聖女がいよいよ神樹と共に枯れてしまうとなった時、彼女の聖騎士とその仲間たちは立ち上がり、聖女から神樹を切り離し、切り倒すことに成功した。
神樹が戦乱期の原因だったことが発覚した後、神殿では大改革が起きた。停戦前の過ちや隠蔽していた情報をすべて開示し、信仰対象を神樹から聖女へと替えるという異例の事態に、神殿内部も周囲も数年に渡り混乱が起きたが、国王やその配下、そして国民の支持により今では聖女信仰がしっかりと根付いた。
そうして、人々は今度こそ本当の平和を取り戻した。
野良の魔物は相変わらずいるが魔素溜まりが出来る頻度はぐっと下がり、その代わりのように人間の中での小さな諍いなどは少しばかり増えた。だが、それも微々たるものだ。
四十年という月日で、人々はたくさんの便利なものを作り出し、人口も緩やかではあるが増加した。
新たな聖女信仰の下に、人々は多くに感謝しながら懸命に働き、国は豊かになっていった。
戦乱期に最終的な決着をつけた聖騎士は、平和になった世界で様々なことに着手した。後の世に知識や技術を残すために奔走し、新たな教育機関を王都近くのモーゲンに作ることに尽力した。
その中でも最も力を入れたのが、旧ヴェルデアリアにのみあった聖騎士の養成校の設立である。
戦乱期初期に壊滅した旧ヴェルデアリアの養成校がなくなってから、実に三十年に渡りなかった聖騎士見習いを育成する学校を復活させる。「最後の聖騎士」と呼ばれていた男は、後に「零の聖騎士」と呼ばれるようになり、戦乱期前の聖騎士の全てを次の世代へと繋いだ。
……え、聖女と聖騎士はどうしているのか、って?
聖女の方は神樹のことがあった十年後ぐらいに、安らかに空へと昇ったと聞いているよ。
聖女の祝福を受けた聖騎士の方はまだ存命らしい。聖女の墓を守りながら今もどこかで穏やかな余生を送っているんじゃないかな。
どこに行けば会えるのか、って?
そんなの聞いてどうするの。行ってもきっと爺さんが空を眺めてるだけだよ。
ほら、どうせなら私の話より、あっちの吟遊詩人の歌でも聞きなよ。ちょうど彼らの武勲詩を歌ってる。
あぁ、声もいいね。私もちょっと聞いて行こうかな。
この物語を見つけて下さった皆様、ありがとうございます。
……何かが降りてきてしまって、書き始めてしまいました。
なんだか前作の初っ端を思い出します。
はじめまして。あきみらいと申します。
前作からの方はお久しぶりです。またお会いできてうれしいです。
本作は「食堂の聖女」から四十年後の世界が舞台になります。
前作からの読者様も、本作からの読者様にも楽しんで頂けるお話に出来たら良いなと思っています。
またプロットなしの降りてくる何か任せな執筆ではありますが、良ければお付き合い頂けると嬉しいです。
初日は一気に6エピソード目まで更新します!
ep.1 20:40 (プロローグ)
ep.2 21:40 (本編開始)
ep.3 22:10
ep.4 22:40
ep.5 23:10
ep.6 23:40
また、三連休中は複数話更新、11月4日からは毎日1話ずつ21:40に更新します。
長編ファンタジーという事で、また半年ぐらいかけて完結を目指す形になるかと思います。
素人が一人でちまちま書いている物語です。誤字など見つけましたら報告を頂けると嬉しいです。
また、もし良いなと思うシーンなどありましたらお声をかけて頂けると、それこそ「好き!」などの一言でも泣く勢いで喜びます。図々しいお願いになりますが、書き続けるモチベのために頂けたら嬉しいです。
ちなみに昨日までに番外編として前作から本編に繋がるお話を数話連続でアップしてあります。
もし良ければそちらもご覧ください。
では、新しい物語の開幕。もし良ければこの世界の行く末を見守ってやって下さい。




