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カレーが食べたくなる話

作者: しえる

仕事の帰り道、いつも同じ退勤時間だというのに最近外はまだまだ明るいようだ。

夕日に染まった街を歩きながら、ふと気がついたことがあった。

気温の変化とともに、いろんな家庭の夕食のメニューが香りと共に運ばれてくるようになっていた、お私のお腹は思い出したかのように「ぐー」と音を立てていた。


就職して社会人となり、実家を出て1人で生活を始めて早10年。1番実家のありがたみというものを痛感したことと言えばやはり“ごはん”ではないだろうか。

当たり前のように朝起きたら出てくるご飯も、持たせてもらったお弁当も、疲れて帰ったら用意されていた夕食も、1人で生活している以上自分でこさえなきゃいけない。

今思えば『そんなもの大変な時は買えばいい、昔と違って安くて便利なお店が沢山あるんだよ』と、心配する母親に向かって啖呵を切っていたあの日の自分はどれだけ考えが甘かったことか、運良く正社員として就職したものの、Fラン大卒の初任給では毎回外食どころかコンビニで買うことさえ財布にどれだけダメージが入るかということを理解していなかったのだ。

たまたま同じ会社に勤め続けて多少の昇給はあったものの、今でも毎食コンビニというわけにはいかない、カップ麺だらけだった生活のおかげでここ数年の健康診断の結果はワーストを更新しつつあった。

なんとか覚えた自炊メニューも両手で足りるほどのレパートリー、たまに出る会心の一撃のような出来のもの以外は腹を満たすだけで美味くも不味くも無いのだ。


…煮物?かな…これは酢っぱいにおいだ…焼きそばかぁ…


そしてこれは…カレーだ


どの料理のよりもひときわ強く香り、心を奪われる物といえばみんな大好きスパイスの効いたカレーの香りだろう。

一瞬で私の口はカレーの口になってしまった。

材料はなんでもいい、適当でいい、ルーを入れればなんでもカレーになるだろう。私は家路を急いだ。


にんじんとじゃがいもはなかった、芽の出かけた玉ねぎといつかのしめじ、肉は冷凍庫にあった鶏もも、野菜室の奥底で眠っていたピーマンも入れることにした。

適当に切って鍋に入れて煮てルーを入れれば茶色くなってとろみがついて良い匂い、チンしたパックごはんにかければカレーライスの完成だ。

意気揚々と一口運ぶが、これは確かにカレーなんだが思っていたものとかなり違っていた。

多分何かが足りないのだが、全くわからない、望んでいた物とは全く別物のカレーに、空腹は満たされたがイマイチ心は満たされなかった。


数日後、職場で納品の確認を行なっていた際、今月の末に三連休があることに気がついた。


20代の頃は三連休となれば、よく友人とゲームだ飲み会だと遊び歩いていた物だ。30代になりその友人たちも家族ができ、だんだんと会う頻度も減ってきていた。今では休みはただ寝るだけのものもなっていたのだ、が、ふと思いついてしまった。


自分の作った何かが足りないカレーでは、私の口はカレーの口のままだった、あの後ナンが有名な人気のインドカレーのお店なんかも行ってみたが、うまいは美味いが何か違うのだ。そうだ私が食べたかったのはあの日歩いていた時にどこからか漂ってきた誰かのお母さんが作った“家庭のカレー”だったんだ。


『母さん?元気?…次の連休帰るよ…カレー作っといてくれない?カレーで良いんだよ、そんなご馳走じゃなくてカレーが食べたいの…うん、したっけまたかけるわ』


私のカレーの口が解消されるのはそう遠く無い未来となった。

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