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間違った幸福 3

「あれっ、お湯溜まってない」


 いつも僕は九時を少し過ぎるくらいにお風呂に入ってるんだけど、なぜかその日は浴槽にお湯が張られてなかったんだよね。

 お風呂に入る順番は、ヒダカ→僕→お父さんって感じで時間ごとに区切ってたからさ、僕は多分ヒダカがまだお風呂に入ってないんだなと思って、おそらく寝過ごしているであろうヒダカを起こしに行こうと思ったんだ。


 初めてヒダカの部屋に行く。

 昔は母親が使っていた部屋だったから僕はもちろん何度も行ったことはあったんだけど、ヒダカの部屋になってからは入ったことがなかったから、なんとなく少し緊張してしまう。

 でも、ちょっとだけ「見てみたい」っていう気持ちもある。


 別に、年ごろの女の子の部屋を覗きたいわけじゃないよ! ただ、ヒダカが勉強会以外で何をしているかについてはほとんど知らなかったから、それを知りたい、ってのが一番の理由さ。そうだ、そうに決まってる。


 僕の部屋の二つ隣にある部屋の扉を、二回、コンコンとノックする。ここでもしヒダカが返事をすれば、ヒダカは起きてるってことだから僕が部屋の中へと入ってヒダカを起こすことはできない。

 逆に、ここでヒダカが返事をしなければ、僕は、しかたなーく部屋へと入ってしょうがないからヒダカを起こしてあげないといけない。

 ん? 別に何も期待してないよ?

 返事がなさそうなので、一応もう一度だけノックしてみる。


「はーい」


 あちゃー。僕のチャンスはどうやらなくなってしまったみたい。一瞬でも怠惰になった僕が馬鹿だったよ、神様。

 扉が開いて、夕食のときに見た以来のヒダカと僕はまた再会する。やっぱり、この部屋着可愛いよなぁ。

 熊の絵が描かれてる白いオーバーサイズのTシャツに、空色のボトムス。クールなショートカットとのギャップには、見る人全員に致命傷を与えるくらいの破壊力がある。いかにも、これだけは誰にとっても「大正解」であるに違いない。


「どうしたの、エイト」

「ヒダカまだお風呂入ってないみたいだったからさ、寝てるんじゃないかと思って起こしに来たんだよ」

「ごめん、ちょっとつい夢中になってて」

「ん、なんかしてたの?」

「勉強、みたいな」

「ヒダカがそんな熱心に勉強するなんて珍しいね。どうする、お風呂あとにする?」

「えっと、先に入ってもいい?」

「もちろん。じゃあ、上がったら言ってね」

「ありがと」


 ヒダカは少し無機質な喋り方をするけれど、それは多分まだこの言語に完全には慣れてないからだろう。いつか来る完全体のヒダカと話すためにも、僕もヒダカを見習って勉強を頑張ろう。

 これって、怠惰じゃないよね?


 しばらくして、お風呂場へと向かっていったヒダカを尻目に、僕が自室へと戻ろうとしたときだった。

 一度、「コツっ」という小さな音がしたかと思えば、それに続いてドタドタバコバコという落下音が数回、廊下中に鳴り響く。

 今の、どこからの音だ?

 ……もしかして、ヒダカの部屋か。


 これだけ大きな音がしたというのに、お父さんも、ヒダカも誰もやってこない。ヒダカはまあお風呂場にいるから聞こえないとして、二階に部屋を持つお父さんは聞こえてただろうけどな。

 部屋に、入るべきか。

 ただ音がしただけと言えばそれまでだけど、万が一、それが危険物だったりとか空き巣(狭義)だったりしたらヒダカのためにも確認する必要があるよね。


 うん、入ろう。別に悪いことはしてない。だから、ぐっと一息で、思い切って行こう。


 扉を開けて見えたそこには、数冊の分厚い本が散乱していた。多分辞書みたいなものかな。よく勉強会でも使ってるような、なかなかの代物。

 そんな数冊の散乱した本の中に、一冊だけ薄いノートが、裏返しに開いて頂点に君臨していた。手にとって表紙を見てみると、そこには「日記」の文字が。ヒダカ、日記なんて書いてたのか。語学力の向上のためには、確かにもってこいの方法だね。


 ヒダカには悪いと思うけど、こっそりちょっとだけその日記を読んでみることにした。

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