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その1の2



「ゲームでは、その敵が力尽きるのは、


 フラグ管理によるものですよね?


 主人公が倒された時点で、ゲーム内変数が切り替わり、


 主人公が倒された瞬間が、


 その敵の限界だったということになる。


 ……ですが、私たちが居るここは、


 ゲームだとしても、現実のはずです」



 フミヅキの手が、ヨースケの手に触れた。



 ヨースケの手が、彼女の体温を感じ取った。



「これがただのゲームなら、手の暖かさが感じられることも無い。


 そうでしょう?」



「冷たいが」



「えっ?」



「血雪人だからな。俺たちは」



 血雪人とは、赤い雪のバケモノだ。



 その肌は、人肌のように暖かくは無い。



「……えいっ」



 フミヅキは、ヨースケの襟から、手を入れてきた。



「つめてぇ!?」



 血雪人は、冷気に強い。



 それほど不快では無かった。



 だが、ヨースケはおおげさに叫んでみせた。



 その方が人間らしいと思ったからだ。



「これがただのゲームなら、手の冷たさが感じられることも無い。


 ゲームのパラメータに、手の温度なんて項目は無いからです。


 そうでしょう?」



「……で?」



「敵の余力も、


 ゲーム的なフラグではなく、


 現実的なものとして存在している可能性が高いです。


 ですから。


 こうしている内にも、刻一刻と、


 敵は弱っていっているのではないでしょうか?」



「そうかもしれんが……。


 具体的にどんだけ待てば良い?」



「とりあえず丸1日、この部屋で待ってみませんか?」



「あんまり賛成できねーな」



「どうしてですか?」



「この世界が現実っていうなら、


 こうしてる間にも、


 外の世界は刻々と変化してるってわけだ。


 つまり、ゲームイベントに、悪影響が出る可能性が有る」



 ブラッディスノウは、フラグによって時間が進行するゲームだ。



 いくら主人公を放置しても時間は進まないが、特定のイベントをこなすと、一気に時が進む。



 時間が進むことで、イベントの内容は変化する。



 関わらずにいることで、命を落としてしまうキャラクターも存在する。



 この世界では、フラグなど関係なく時が進んでいくというのなら……。



 無駄に時間を潰すという行為は、イベントに悪影響を与える、リスキーなものだと言えた。



「ほっといたらヒロインが死んでるなんて、俺は嫌だぜ」



「そうかもしれませんが……。


 だからと言って、死にに行くというのは……」



「死にゲーの世界だぞ?


 クリモトみたいなスゴ腕ゲーマーじゃなきゃ、1度は死ぬさ。


 ここでダラダラしてても、


 それを先延ばしにするだけだと思うがな」



「……わかりました。


 1日時間を潰すというのは、ナシにしましょう。


 ですが」



「ん?」



「ただ死にに行くというのもナシです。


 最低限、勝つための作戦を考えましょう」



「わかった」




 ……。




 2人は、部屋に有ったタンスを、扉の脇にまで動かした。



 このタンスを、罠として用いる。



 そういう作戦を立てた。



「それでは、せんぱいは敵を、この部屋に誘い込んでください。


 このタンスを倒して、


 敵を押し潰してみせます」



「ああ。任せろ。……って、


 タンスを倒すとか、普通は男の仕事じゃねーか?」



「その細い腕でですか?」



「…………」



(まあ、後輩を囮にするってのもアレだが)



「行きますよ」



「ああ」



 フミヅキが、扉を開けた。



 そして、その隙間から、奥の様子を観察した。



「……せんぱい」



「どうした?」



「敵、居ませんけど?」



「えっ?」



 ヨースケは、慌てて部屋を出た。



 部屋の外は、廊下になっていた。



 床は、赤みがかった木板だ。



 床の上には、大小2本の、西洋剣が落ちていた。



 鞘は無い。



 抜き身の剣だった。



「せんぱい。この剣って……」



「負けイベで手に入る剣だ。つまり……」



「私たちの勝ちですね。せんぱい」



「お、おう……」



 こうしてヨースケたちは、偉大なゲーマーであるクリモトに並んだのだった。



 たぶん。




 ……。




 フミヅキは、2本の剣を拾い上げた。



 そして言った。



「それでは、長いのを私が、短いのをせんぱいが使うことにしましょうか」



「ふつう逆じゃね?」



「その細い」



「やめて」



「どうぞ」



 ヨースケはフミヅキから、短い方の剣を受け取った。



「……重いな」



 剣はずっしりと重かった。



 刀身は、金属でできている。



 重いのは、当たり前の話ではあった。



 フミヅキの方は、長い剣を軽々と持っているように見えた。



(女子なのに、ゴリラか?)



「どうかしましたか?」



「イエ。なにも」



「そうですか?


 それで、武器は手に入ったわけですが、


 これから何をすれば良いのですか?」



「まずは村からの脱出だな」



「村」



「ああ。村なんだ。ここは」



「物騒な村なんですか?」



「血雪の呪いが蔓延して、壊滅状態だ。


 血雪人は、徐々に呪いによって、正気を失っていく。


 今この村に、正気の人間はほとんど居ない。


 主人公は、数少ない正気の人間の1人だ。


 ……いや。


 本当に正気なのかどうかは、わからねーけどな」



「どういうことですか?」



「主人公は、選択肢でしか喋らねーんだ。


 その内面は、ほとんどと言って良いほど描写されない。


 だから、実際は狂ってたとしても、


 プレイヤーにはわかんねーってこと。


 選択肢次第では、バッドエンドにも行っちまうわけだしな。


 ああいうルートの主人公は……正気じゃないって言って良いかもな」



「正気も狂気も、プレイヤーの選択次第というわけですね」



「かもな。


 ……そろそろ行くか?」



「もう少し、質問をさせてください」



「おう」



「村が危険だというのは分かりましたが、


 村を出て、どこへ向かえば良いのでしょうか?」



「太陽神の神殿だ。


 主人公はそこで、世界を救うための手立てを聞かされる」



「神殿は、安全な所なのですね」



「……どうかな?」



「はい?」



「死にゲーだし」



「…………」



 こういうゲームのキャラクターというのは、一癖も二癖も有るものだ。



 油断をしていると、寝首をかかれかねない。



 そういうものだ。



 神聖な場所だから安心などという理屈は、通用しなかった。



 ダークファンタジー世界における神聖という言葉は、良い意味ばかりを持つモノでは無い。



 現実で信仰されている神と同じく、暴力的な理不尽さを内包している。



「そろそろ行くか」



「はい」



 2人は廊下を歩いた。



 廊下は、いくつもの部屋に面していた。



 複数の扉が見えた。



 ヨースケは、それらを無視した。



 ゲームでは、特に意味の無い部屋だったからだ。



 少し歩くと、玄関が見えた。


 

 そこから外へ出た。



 フミヅキは、館を振り返った。



 それなりの規模の洋館が、フミヅキの瞳に映った。



 2人が居たのは、庭付きの立派な邸宅だった。



「ここってどういう建物なんですか?」



「領主の館だったかな」



 ヨースケは、迷わず歩いた。



 そして、庭にある小屋に足を向けた。



「せんぱい? どちらへ?」



「この小屋にな」



 そう言って、ヨースケは小屋の中へ消えた。



 フミヅキが外で待っていると、ヨースケは、小さな盾を持って出てきた。



「バックラーが有る」



「必要なものなんですか?」



 フミヅキは、バックラーを見た。



 平凡な、貧弱そうな盾だ。



 わざわざ手に入れる必要が有るのか。



 そう疑問に思ったようだった。



「プレイスタイルにもよるが……。


 個人的には必須レベルだな」



「強いんですか? そのチンケな盾が」



「強い」



「はあ」



「なにせこの盾は、パリイの持続フレームを、60分の4秒も伸ばしてくれるんだからな」



 それがさも凄いことであるかのように、ヨースケが言った。



「パリイ?」



「ああ。聞いたことないか? パリイ」



「よいかジェ○ール。


 我々はインペリ○ルク○スという陣形で戦う。


 防御力の高いベ○が後衛


 両脇をジェ○ムズとテ○ーズが固める。


 お前は私の前に立つ。


 お前のポジションが一番危険だ。


 覚悟して戦え」



「……まあ、似たようなもんだが、ちょっと違う。


 タイミング良く敵の攻撃を弾くと、


 大きな隙を作ることができる。


 システムの源流としては、


 格ゲーの直ガとかになんのかな?


 パリイって形で俺が初めて見たのは、


 プレ○テ2のグラ○ィエーターってゲームだけど……」



「脇道に逸れるのやめてもらえます?」



 フミヅキは辛辣に言った。




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