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32、家族との再会

「ねぇちゃん!……生きてた!!」

「お姉ちゃん、お姉ちゃん……っっ」

「二人とも、よく無事で……っっ、ごめんね、一緒にいてあげられなくて、本当にごめん……っっ!!」


リオノーラは、駆け寄る双子を両手を広げて抱き締めた。安堵で、腰が抜けてその場にしゃがみ込む。

涙が次から次へと溢れすぎて、うまく話すことが出来ない。


感情が振り切れたリオノーラは、うわあああん、と双子と一緒にひとしきり思い切り泣いた。

誰も邪魔してくる人のいない温かな空間で、リオノーラは双子の顔を両手で包み、まじまじと見つめる。


「二人とも、少し大人になったね」

ぷくぷくと子供らしい丸みのあった顔が、少しほっそりしたように見えた。

瞳に写る感情は、悪戯が大好きだった頃よりずっと、芯のある強い意志を伝えてくる。


「ねぇちゃん、ごめん……!」

弟に謝られ、リオノーラは優しく「どうしたの?」と聞いた。大人の勝手な事情に巻き込まれた幼い弟が謝ることなんて何一つないとわかっていたが、とにかく話を聞いてあげたかった。

二人は、離れていた間ずっと、リオノーラに話したいことを沢山抱えていた筈だ。



「ねぇちゃんは絶対に、あの家に帰って来るって信じてたから、抵抗したんだけど……!!ここに住むならご飯はあげられないって言われちゃって……ごめんなさい!ごめんなさいい!!」

鼻水を垂らしながら、言葉少なく、家族で過ごした小さな家を出なければならなくなった事情を懸命に謝る弟に、リオノーラの胸が締め付けられる。


「ううん、二人は間違えてないんだよ。家に二人がいないのならば、私が探せば良いんだから。それよりも、二人がしっかり毎日お腹いっぱい食べてくれる方が、私は嬉しいよ」

弟を抱き締めながら、リオノーラは、妹の頭を撫でた。

「お姉ちゃん……」

「ありがとうね、ウィネット。いつも機転を利かせて、フェリアンを説得してくれたでしょう?本当に助かったけど、心細かったよね」

「うう"……っっ」

いつもは澄まし顔で大人びた妹の顔が歪み、顔をくちゃくちゃにして唇が半開きで震える。


リオノーラが会いに行った時、やんごとない雰囲気にいち早く気付いて、暴走しそうな弟を止めたのは妹だ。機転が利く妹が傍にいたからこそ、リオノーラはある意味ゴッドウー夫人の提案に頷くことが出来たのかもしれない。


「お姉ちゃんが生きてるっていうのはわかったから、頑張れた」

「うん、心配掛けてごめんね」

「だから、お迎えに来てくれて嬉しかったよ」

リオノーラは、目を見開く。

すっかり、双子は寝ている最中に拉致という手段で連れて来られたのだと思っていたからだ。

それくらい、弟はともかく、妹は慎重な性格だ。


「何で、ドバイリー公爵……この人達に付いて来たの?」

結果として無事だったから問題なかったが、慎重な妹が衣食住を約束されていたゴッドウー公爵夫人の軟禁状態から飛び出してきた理由がわからなかった。


「この人達、これを持ってきたんだ。だから……言う事聞いたの」

妹が開いた小さな掌には、いつもリオノーラが持ち歩いていた、お守り代わりの小石が乗っていた。

それは、父親がリオノーラへのメッセージの手段として使っていた小石。


リオノーラは父親が亡くなった後、今まで貰っていた父親からの小石を、大切に窓辺に並べていたのだ。

そして、愛に溢れるその言葉を、生まれた双子と一緒に共有していた。


リオノーラが拉致された時も、一つの小石をお守りにしていたのだが、アンジェニアとして教育を受けるようになってからは逆に持ち歩くと捨てられてしまう気がして、持ち歩けなかった。

幸いにもドバイリーに嫁ぐまで捨てられずに済んだのだが、ここ最近はゴッドウー公爵夫人の暗殺指示のことで頭がいっぱいで、それを失くしていることすら気付かなかった。


「そっか……やっぱりウィネットは、とっても賢いね!」

ウィネットに頬擦りしてから、ディナンドを見る。


小石を見つけ、家族を保護する際にそれを見せるよう指示したのはきっとディナンドだろう。

バスケットの中に入った小石を見せたことがあるが、そんな些細な事まで覚えているなんて驚きだ。


「もう夜も遅い。部屋を用意しているから、今日は家族同じ部屋で寝なさい」

ドバイリー公爵に声を掛けられ、リオノーラの腕の中で、泣き疲れたフェリアンがすぅすぅ寝息を立てているのに気付いた。


「私が部屋まで運ぼう」

「ありがとうございます……」

「この人がお姉ちゃんの旦那様?やだ、イケメン!」

「ウィネット……!!」

慌ててウィネットの口を塞ぐが、フェリアンを抱き上げたディナンドはクスクス笑うだけだった。


「あのね、この方達は貴族で、私達には到底……気軽にお話をさせて頂くことなんて、出来ないご身分なのよ?」

自分で言いながら、重たい石のようなもので胸が潰されたように苦しくなる。


「はーい。ああ、お姉ちゃん見たら安心して眠くなっちゃった」

さほど悪いとは思っていない軽い様子で、ウィネットは軽やかに二階へ向かうディナンドの後ろへ着いていく。


「お母さんもいるし、ベッドが狭くなるから、お姉ちゃんは別の部屋で寝てね!じゃ、また明日!」

「え?ウィネット!?」

小さな手を振り、笑顔で去っていくウィネットに、恐ろしい程の成長ぶりを感じる。


(お母さんも無事だったのね……)

怖くて、双子には自分から聞けなかった。

「お母さんはお疲れの様子だったから、同じ部屋にベッドは分けて、休んで頂いている。主治医が栄養失調と言っていたから、明日からの食事にはしっかり気を配る予定だから、心配しなくて良い」

「……本当に、家族を保護して頂き、ありがとうございます……」

リオノーラは、ふらふらしながら辛うじて立ち上がり、ドバイリー公爵に深々と頭を下げた。


「いや。軟禁場所の特定が遅れて申し訳なかった。ディナンドをダシにしたらやっと動いて、それで特定出来たんだ」

双子の髪の毛か、とリオノーラは納得する。


「ああそれと、先程の話の続きだが」

「はい」

双子との再会に、すっかりドバイリー公爵との会話を忘れてしまったリオノーラは内心首を傾げる。


「君に、家族を保護出来るまでは何も話すなと命じたのは私だ。ディナンドはずっと、君に全て話したがっていたのだが……マーサルティのことがあったから、私が止めていたんだ」

ディナンドに、何故もっと早く話してくれなかったのか、とリオノーラが少し責めてしまったのを、ドバイリー公爵が受け取め謝罪していた。


聞けば、マーサルティはメイドの恋人が拉致されているのを知っていて、保護に向かっているからと、メイドを慰めていたらしい。

けれども、ドバイリー側が人質の存在を知っていることに気付いたゴッドウー公爵夫人は、メイドにだけわかるように、恋人が惨たらしく殺されたことを見せつけた。


マーサルティが、メイドに言わなければ。

一度与えられた希望を無惨に打ち砕かれた時の衝撃は、希望を与えられない時の衝撃よりも、その反動で大きくなる。

人質の存在を、人質の保護に動いていることを、人質が救出されるまで何も言わなければ、メイドはマーサルティを逆恨みして毒殺し、更に自分も自害することはなかったかもしれないと、ドバイリー公爵もずっと、繰り返し答えのない問答をしているのだ。


過去は変えられない。

だが、同じ失敗を息子にさせたくなかった。

だから、リオノーラの家族が保護出来るまでは、何一つ伝えることのないように、言い含めたのだ。


「君とメイドは当然別の人間だ。同じ行動をするとは思っていない。けれども、偶に思うんだよ。マーサルティがあのメイドの毒を飲んだのは……あの時、本当は気付いていて、飲んだのではないかと。可愛がっていたメイドが嘆き悲しみ、憎まれているのをわかっていて、懺悔と後悔の気持ちで、口にしたのではないかと」


そう言うドバイリー公爵の瞳には、残された者の深い悲しみだけが、色濃く浮かんでいた。

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