1000文字で終わる婚約破棄破棄
誤字脱字があったら一巻の終わり……!
「アリア。今この時をもって君との婚約を破棄する」
突然すぎるトニスの宣言を、アリアは粛々と拒絶する。
「それはできませんわ。トニス様」
「できるできないを決めるのは君じゃない。この僕だ。そして君はそんなことを言っていながら、胸の内では僕が婚約を破棄しようとしている理由を察している。そうだろう?」
トニスの指摘に、アリアはコテンと小首を傾げた。
「はて? 皆目見当もつきませんが?」
「やはりシラを切るか。ならば言わせてもらうが、アリア……君が僕に紅茶を振るまう際、いつも自分の体液を紅茶に混ぜ込んでいるという話、君のお父上から聞かせてもらったぞ」
「その話が婚約破棄と何の関係が? それと体液は体液でも、わたくしがトニス様に振る舞ったのは愛――」
「みなまで言うな……!」
懇願するように、アリアの言葉を遮る。
「とにかく、君の愛は重すぎるのだ。僕では到底受け止め切れないほどに」
「だから婚約を破棄すると?」
「そのとおりだ」
そんなトニスの返答を、アリアは再び粛々と拒絶する。
「話はわかりました。ですがやはり、婚約を破棄することはできませんわ。トニス様」
聞き分けのないアリアに、トニスはウンザリとしたため息をつくも、
「なぜならわたくしのお腹には、貴方様の子供がいらっしゃるのですから」
まさかすぎる言葉に、これ以上ないほどに目を見開いた。
「も、妄言はよせ! ぼ、僕と君は、まだまぐわってすらいないのだぞ!」
「いいえ。一度だけあるのですよ。社交パーティで呑み過ぎたトニス様をわたくしが送り届けた、あの時に」
思わず口ごもる。
あの時については、トニスも憶えている。
呑み過ぎてしまい、社交パーティの途中から朝ベッドの上で目覚めるまでの記憶がごっそりと抜け落ちていたことを。
目覚めた時に、アリアがベッド傍の椅子に座り、こちらの目覚めを待っていたことを。
「あの時……なのか……?」
コクリと首肯を返すアリアを前に、トニスは観念したようにため息をつく。
「……わかった。僕は男だからな。今の話は忘れてくれ」
それだけ言い残し、立ち去っていくトニスの背中を見つめながら、アリアは頬を吊り上げる。
実のところ、あの時は拍子抜けするほどに何もなかった。
アリアは、トニスの記憶がないのを良いことにあの時のことを引き合いに出し、勝手に勘違いさせただけだった。
けれど、何の問題もない。
今は子供ができていなくても。
〝後で〟できていれば、いいだけの話なのだから……。