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その25「勝利と工作」



 宙を舞った機体は、地面へと墜落した。



ブリーメル

「ぐ……」



 コックピットの中で、ブリーメルは呻いた。


 体に痛みが有った。


 だが、重傷というほどでは無い。


 まだ戦える。


 彼はそう考えた。


 ブリーメルは、倒れた機体を立ち上がらせようとした。


 だが……。



ブリーメル

「脚が……!?」



 ラセンホーンは、立ち上がれなかった。


 魔弾の1撃で、脚が砕け散っていた。


 大破したのは、ラセンホーンだけでは無い。


 ブリーメルの仲間たちの機体も、脚が弾けて無くなっていた。


 戦闘不能だった。



コンジ

「…………」


ヨーダイ

「先生」



 呆気に取られるコンジに、ヨーダイが声をかけた。



コンジ

「えっ?」


ヨーダイ

「あいつらの機体は、もう戦えないでしょう」


コンジ

「あ、ああ。そうだな」


コンジ

「勝負有り! 勝者、マゴコロ=アオプラネットチーム!」



 審判のコンジが、ヨーダイたちの勝利を告げた。



ブリーメル

「くそおおおおおぉぉっ!」


ブリーメル

「無能王子が! 無能王子のくせにっ!」


ブリーメル

「どうなってんだよおおおぉぉぉっ!」



 ラセンホーンから、ブリーメルの叫びが撒き散らされた。


 ヨーダイはそれに、そっけなく答えた。



ヨーダイ

「さあな」


ヨーダイ

「お前らが弱いんだろ」



 それきりヨーダイは、ブリーメルに興味を無くした。


 ヨーダイたちは、休憩スペースに戻っていった。


 休憩スペースに機体を安置すると、2人は地上に下りた。


 ヨーダイは、マゴコロと向かい合った。



マゴコロ

「私、出番無かった」



 不満そうな顔で、マゴコロが言った。



ヨーダイ

「悪かったよ」



 ヨーダイは、ほほえみながら言った。



ヨーダイ

「次は半分任せる」



 マゴコロは、こくりと頷いた。



マゴコロ

「任された」


ヤミヅキ

「ヨーダイさま」



 少女の声が聞こえた。


 ヨーダイは、声の方を見た。


 ヤミヅキが駆け寄ってくるのが見えた。


 ヤミヅキは、ヨーダイの前で立ち止まった。



ヤミヅキ

「1回戦突破、おめでとうございます」


ヨーダイ

「ああ。ありがとう」


ヤミヅキ

「ヨーダイさまがあんなに強かったなんて、知りませんでした」


ヨーダイ

「あれは……」



 そこへ、2人の男が、ヨーダイたちに近付いてきた。



記者A

「あの、メェメェ新聞の者ですが、お話を聞かせてもらってよろしいでしょうか?」


記者B

「モーモー新聞です。インタビューをよろしくお願いします」


ヨーダイ

(メェメェ新聞にモーモー新聞)


ヨーダイ

(いつも俺のことを、ボロクソ書いてくれてるところだな)


ヨーダイ

(まあ、新聞の9割はそうなんだが)



 自分が悪し様に言われるのは、国全体の流れのようなものだ。


 ヨーダイはそう思っているので、新聞だけを嫌うというようなことは無かった。



ヨーダイ

「良いですよ。何でも聞いてください」



 ヨーダイは余所行きの表情で、記者たちに答えた。



記者A

(良いのか? もっと渋られると思ってたが)


記者B

(ウチの新聞読んでないのかな?)


記者A

「それでは失礼して……」


記者A

「さきほどの試合は、凄まじい活躍でしたね」


記者A

「とても1年生のレベルとは、思えないほどでしたが……」


記者A

「強さの理由などが有れば、教えていただいてもよろしいですか?」


ヨーダイ

「あれは単純に、スベルキーのおかげですね」


記者B

「スベルキーというのは、あの王家の機体のことですよね?」


ヨーダイ

「はい」


ヨーダイ

「あの機体は、王家の家宝というだけあって、素晴らしい性能を持っているのです」


記者B

「王家の機体に、そのような力が有るというのは、初耳ですね」


記者B

「戦闘能力の無い、象徴としての役割を持つ機体」


記者B

「国民の多くは、あの機体を、そのように認識していたと思うのですが……」


記者B

「王家の方々の間では、スベルキーの強さは、常識となっているのでしょうか?」


ヨーダイ

「いえ」


ヨーダイ

「実戦に出すということが、無い機体ですからね」


ヨーダイ

「俺自身、スベルキーの真価に気付いたのは、ほんの最近でした」


記者B

「何か、強さに気付くきっかけが、有ったということですか?」


ヨーダイ

「そうですね」


ヨーダイ

「先月、クラスメイトと、模擬戦をしたことが有ったのですが……」


ヨーダイ

「スベルキーの性能に気付けたのは、あの戦いのおかげでしたね」


ヨーダイ

「模擬戦に付き合ってくれた皆には、感謝しています」


記者B

「なるほど……」


記者A

「王家の機体と、他の一般的な機体には、どのような違いが有るのでしょうか?」


ヨーダイ

「うーん……」


ヨーダイ

「機体の詳細に関しては、王家の機密に関わる部分も有るので、ちょっと話せません」


ヨーダイ

「とにかく俺が言いたいのは、俺が勝てたのは、あの機体の性能のおかげだと言うことです」


ヨーダイ

「機体の性能差が、戦力の決定的差となったということですね」


ヨーダイ

「もし俺が、並の機体に乗っていたのであれば、あのような活躍は不可能だったでしょう」



 その後も、記者たちはいくつか質問をした。


 ヨーダイはその全てに、あたりさわり無く答えた。



記者A

「最後に、写真を撮影させてもらってもよろしいでしょうか?」


ヨーダイ

「どうぞどうぞ」



 記者が魔導カメラを構えた。



マゴコロ

「…………」



 いつの間にか、ヨーダイの後ろに、マゴコロが立っていた。


 カメラ目線だった。



記者A

「あの、後ろのかたは?」


マゴコロ

「王子のチームメイト。仲間」


マゴコロ

「ちなみに、初恋の人を探しています」


記者A

「はあ。頑張って下さい」


記者A

「ところで邪魔なので、少しどいてもらっても良いですか?」


マゴコロ

「……………………」



 記者たちは、ヨーダイとスベルキーの写真を撮って去った。



マゴコロ

「……王子」


ヨーダイ

「なんだ?」


マゴコロ

「あいつらの新聞は買わない」


ヨーダイ

「そうしろ」



 そんなヨーダイたちの様子を、遠巻きにリンレイがうかがっていた。



リンレイ

「スベルキーの力ですって……?」


リンレイ

「聞いてないわ。あの骨董品に、あんな性能が有ったなんて……」



 リンレイは、シャドウキャスターの操縦も、そつなくこなす。


 1年ではトップ3には入る実力者だ。


 だがそれは、あくまで学生レベルの話だ。


 さきほどのスベルキーの力は、学生のレベルを、遥かに凌駕していた。


 いや……。


 軍属のベテラン機士であっても、あのスベルキーに勝てるかは怪しい。


 それほどの化け物だ。


 リンレイの目には、そのように見えていた。


 リンレイは、プライドが高い。


 実力で勝てないと、認めたくは無かった。


 だが、次の試合には、大事な約束がかかっている。


 もし負けるようなことが有ったら……。



リンレイ

「私が負けたら……にいさまが……」


リンレイ

「どうしたら……」


リンレイ

「……! そうだ!」



 リンレイは、ヨーダイたちの近くから、駆け去った。


 そして運営テントの方へ、駆けていった。


 テントの下に、校長のチョーコウの姿が有った。


 彼はパイプ椅子に座り、試合場の方を見ていた。



リンレイ

「校長先生!」



 リンレイは、チョーコウに声をかけた。


 彼女に気付いたチョーコウは、椅子から立ち上がり、リンレイに向き直った。



チョーコウ

「リンレイ王女。どうされました?」


リンレイ

「あのにいさまの機体について、お話が有ります……!」




 ……。




 大会は、着々と進行していった。


 1年生の1回戦、全ての試合が終了した。



ヤミヅキ

「そろそろ、2回戦が始まりますね」



 シードのヤミヅキは、のんびりと、ヨーダイのそばで過ごしていた。


 ヤミヅキの最初の出番が、ようやく訪れようとしていた。



ヤミヅキ

「最初の試合は、私たちとヨーダイさまですね」


ヨーダイ

「ああ」


ヤミヅキ

「どうか、お手柔らかにお願いしますね」



 ヤミヅキは、微笑みと共に去った。



ヨーダイ

「さて、頑張りますか」


マゴコロ

「えいえいおー」


ヨーダイ

「おう」



 ヨーダイたちが、シャドウキャスターに乗り込もうとした、そのとき。


 大会運営の、放送が流れた。


 スピーカーから、進行委員の生徒の声が、聞こえてきた。



進行委員

「えー。1年生の、2回戦、第1試合について、お知らせがあります」


進行委員

「当委員会は、ヨーダイ王子の機体、スベルキーに関しまして……」


進行委員

「学生同士の競技には、不適格だと判断しました」


進行委員

「よって、2回戦以降、スベルキーの出場を、制限させていただくことになります」


マゴコロ

「…………!」


ヨーダイ

「な……!?」



 ヨーダイたちの顔が、驚きに染まった。



チョーコウ

「どうも。校長のチョーコウです」



 話者が、進行委員から校長へ、入れ替わった。



チョーコウ

「スベルキーの出場制限に関し、詳しく説明をさせていただこうと思います」


チョーコウ

「本武術会の理念の1つに、フェアプレイの精神というものが有ります」


チョーコウ

「正々堂々、全力で、技を競い合う」


チョーコウ

「そんな場を設けることが、武術会開催の目的です」


チョーコウ

「ですが王子のスベルキーは、あまりにも並外れたパワーを持っています」


チョーコウ

「強すぎる力を前にしては、生徒たちは、磨き上げた技を、発揮することができません」


チョーコウ

「そのような試合に、フェアプレイの精神を見出すことは、不可能でしょう」


チョーコウ

「故に、スベルキーの存在は、この武術会には、そぐわないものと判断されました」


チョーコウ

「どうかご了承いただければ、幸いです」



 スベルキーを、次の試合には出させない。


 放送の内容は、そう言っていた。





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